子どもの頃、忍者に憧れて修行したことのある人ー!
ハイハーイ、私です。憧れていたどころではなく、今でもなれるものならなりたいです。ノートに鉛筆書きでつづった「忍者の秘伝書」を今でも大事に持っています。
あ、私、イラストレーターのいずみ朔庵と申します。よろしくお願いします。
小学生時代、世間のブームはアイドルにゲームウオッチ、ドリフターズ。女の子は少女漫画『りぼん』『なかよし』などの話題で盛り上がっていました。そんな中、私は自分が生まれる前の漫画、白土三平の『カムイ外伝』を読みふけり、テレビ時代劇『影の軍団』(※共に忍者が主人公の物語)にくぎ付けになり、サバイバル術の本『冒険手帳』を実践していたのですから、当然同級生との話は合いません。
一方、家庭では母が「白いレースのカーテンがある部屋で、お手製のワンピースを着た娘がピアノを弾く姿」に憧れて私にワンピースを着せていました。でも、残念ながらその娘は忍者のことで頭がいっぱい。いつもどこかで“修行”してきては、ワンピースをドロドロ、ビリビリにして帰宅し叱られるというありさまでした。
そういった、誰とも思いを共有できない孤独が「なんか、忍者っぽいかも…」という謎のポジティブシンキングを生んでいたのです。
画:いずみ朔庵
とはいえ、気持ちとは裏腹に病弱で身体能力も低かった私。中学に上がる頃にはさすがにそろそろ忍者になるのは無理なんじゃないかと気がつき、空想で忍者の世界を楽しむことに。忍者の漫画を描く事に夢中になりました。
それでも周囲に忍者が好きだと公言していたし、修行っぽいこともしていたように思います。後ろを向かずに背後の気配を察知するとか、なるべく利き手を空けておくとか、学校の廊下で足音を消して歩く練習をするとか……。
今思えば完全に中二病ですが、実はこれ、後々とても役に立ちました。
あまり笑えない話ですが、若い頃は変質者や痴漢に遭うことが多かったので、いざという時にはどういうふうに動くかというシミュレーションをしていたおかげで助かったことが多々あります。警察沙汰になって犯人が捕まったこともありました。忍者と言えば派手なアクションを想像するかと思いますが、忍術の極意は正面から戦うことを避け、逃げて生き延びることなのです。カッコいいなあ。
しかし、そんな熱い思いも高校生活の同調圧力で一時的に薄れていきました。
中学の修学旅行で買った“手裏剣”を忍びの証と勝手に決めて、忍者のことは人に言わなくなりました。かわりに好きになったのが江戸小説ですが、これも女子高生には渋い趣味です。なりたかった漫画家にはなれないし、やりたい事は周囲に反対されるし、所詮、自分の本当に好きなものは世の中に合わないから一人でひっそり楽しめばいいんだというクセがついてしまったのです。
自分の本当の姿を隠し、世間に合わせて生きる…、忍者っぽい、忍者っぽいよね。その時もこんな事を思っていました。忍者っぽければ何でもいいのか?いいんです、私は楽しいー!
こうして30歳も過ぎ、すでにイラストレーターとして仕事を始めていたものの、うまく行かず悩んでいた私に転期がやってきます。「好きなものを仕事に取り入れればいいのでは?」と思いつき、時代物の絵を描くことにしたのです。
周囲からは「時代物? じじくさーい」と言われていましたが、これまでの修行のおかげか鉄のメンタルです。言いたい人には言わせておけばいいし、と好きにやっていたら、やがて仕事に繋がっていきました。
好きなことが仕事になると、笑ったりからかったりする人がいなくなります。「忍者が好き」ということも再び口にするようになりました。ちなみに、最初の忍者の仕事は靴下のデザインでした。忍者のように電線の上を飛び回る少年の話「でんせんたろう」という紙芝居も作りました。2016年には歴史解説のお仕事でNHKの番組に忍者姿で登場しました。もしもタイムスリップできるなら、この時の姿を子どもの頃の自分に見せてあげたいです。
そんな時、友人から誘われたのです。「甲賀流忍者検定」を受けないか……と。(つづく)
【朔庵亭 いずみ朔庵イラストレーションギャラリー】
http://www.sakuan.net/