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はっぴーあにまる
東海大学農学部准教授
伊藤秀一
第4回 イヌ

イヌは喜び庭駆け回りまくってます



 イヌは、ネコと並んで最も身近な家畜といえます。「イヌは家畜なんかじゃない、家族だ!!」と憤慨される方も多いかもしれませんが、“家畜”とは「野生動物が人間の管理下において飼い馴らされ繁殖が可能になり、人間の利用目的のために開発・改良された動物」と定義されています。

 つまり、ヒトが自らの生活を豊かにするために、パートナーとしてオオカミからイヌを作り出したその行為は、明らかな「家畜化」なのです(「家畜」という言葉をポジティブに感じていただけると幸いです)。なぜ、わざわざイヌを「家畜」として考えるのか? それは、イヌの家畜化を考えることが非常に興味深く、重要なことだからです。私がイヌに最も興味を引かれる点は、外見や仕草ではなく、ヒトとの関係が家畜化の要因になっているところです。

 たとえば近年、イヌはヒトの指さしがわかることが明らかになりました。イヌは、ヒトが指さしている方向を注目する能力を持っているのです。知能が高い動物の代表であるチンパンジーでも、ヒトの指さしを理解できずに指の先端に注目します(理解する個体もいるようですが……)。

 こんな話を聞くと「イヌはチンパンジーより頭がいい」と考えてしまいそうですが、この行動は「頭のよさ」や「頭の悪さ」を明らかにしてくれるものではありません。イヌは「ヒトの表情を読むことに優れた個体が選抜されてきた」ということを意味しています。つまり、今、私たちの周りにいるイヌたちは、長い長い家畜化の歴史の中で、ヒトと良好なコミュニケーションをとることができる個体が選抜され、現在イヌとして生活している個体なのです。これは非常に面白いことです。


 このように、イヌを知ることはヒトの進化を解明すると考えられ、イヌを研究している進化人類学者もいます(興味がある方は専門の書籍などを探してみることをオススメします)。一方で、最も身近な動物であるイヌは、身近であるがゆえに,ヒトとの関係において問題が起きることがあります。そのため、2012年に「動物の愛護及び管理に関する法律」という動物関連の重要な法律が改正されました(2013年9月より施行)。

 その中で、ペットの購入に関しては
(1) 出生後56日間を経過しない幼齢な犬猫については販売、引き渡しおよび展示が不可(施行後3年間は45日間という猶予期間あり)
(2) 客に対して販売する動物の現物確認、対面による説明の義務付け
という重要な点が改正されました(実は、動物行動学の専門家からは56日間でも少し短いという意見もあるのですが、いろいろな理由もあり、この日数に落ち着いたようです)。

 なぜ、幼齢な個体を販売してはいけないのでしょうか? ペットショップから自宅に連れて帰り、かわいい子イヌと戯れたい。56日なんて待っていられない……という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、イヌにとって3週齢から10週齢は「社会化期」と呼ばれ、文字どおり,さまざまな刺激に暴露されることで、肉体的も精神的にも発達していく期間といわれています。

 この時期に、同腹個体との接触や母イヌからの世話が少ないと、成長後のイヌ社会での礼儀作法(?)や、健康に悪影響をおよぼすことが明らかになっています。また、早期に母イヌから離されて、家庭に引き取られたイヌは、外部から刺激に対する反応性が高く、ストレスを受けやすいとの研究結果があります。

 もちろん、その時期にヒトと触れることも重要ですが、イヌには「刷り込み現象(生まれてすぐに見た人を親と思い込み追従する行動。カモやニワトリなどで確認されている)」はありません。ブリーダーさんが丁寧に世話をし、ヒトとの関係を教えてくれれば、将来の飼い主と顔を合わせなくても十分成長するのです。「子犬から飼育しないと懐かない」や「子犬のうちから一緒にいれば言うことを聞くイヌになる」というのは当てはまらないようです。

 イヌを選ぶとき、気質が安定する程度に成長した個体だと、自分の生活に適したイヌと出会うことができるでしょう。イヌとの生活を始めるときは「カワイイ子イヌ」を選ぶのではなく、「自分の生活や性格に合ったイヌ」をゆっくり探してください。信頼できるブリーダーさんと出会うことも重要です。



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【いとう・しゅういち】
1972年千葉県生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業、同大学院獣医学研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は応用動物行動学。中学生のころより写真撮影を始める。家畜たちの日常の素顔を集めた写真集『まきばなかま』を出版。
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