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はっぴーあにまる
東海大学農学部准教授
伊藤秀一
第5回 ニワトリ

胸を張って我が道を行く




 このコラムでは、私の専門分野である「家畜」を紹介しています。家畜にはさまざまな特徴がありますが、必ず祖先となる野生動物が存在します。イヌはハイイロオオカミ、ウシはオーロックス(すでに絶滅しています)、ブタはイノシシから家畜化されたことが知られています。そして、今回の主役である「ニワトリ」は、アジアの二次林に生息するセキショクヤケイ(赤色野鶏・Red Jungle fowl)が祖先種といわれています。

 家畜化というと「食料として」を真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかしウシは宗教や祭りに使うため、イヌはヒトに危害をおよぼす動物を察知するため、ウマはヒトが乗るためなど、「食料として」の家畜化は、どちらかというと少数派なのです。

セキショクヤケイ
 ニワトリの家畜化には諸説あるのですが、なかでも「時を告げるから」という理由は比較的有力なものです。ニワトリの家畜化が始まったとされる約8000年前には、当然時計がありませんでした。まだ暗い時間、太陽が昇るよりも前の時間に「コケコッコー」と鳴くセキショクヤケイは、非常に役に立つ動物だったでしょう。そのため、当時の人類が繁殖のコントロール(つまり家畜化)を始めたのではないかと考えられています。

 そして現代のニワトリも、朝になると「コケコッコー」と大きな声で鳴く能力を持っています。長い長い家畜化を経ても、この能力は失っていないのです。ここで「ニワトリは朝になると鳴く」と表現してしまいましたが、実は「朝になる前に鳴く」が正しい表現です。つまり、太陽が空を照らし始めることが、コケコッコーのスイッチになるのではなく、体内時計によって制御されているようです。

 「そんなことは知ってるよ」という方も多いかもしれませんが、科学的に解明されたのはつい最近のことなのです(その体内時計の周期も明らかになっています)。しかし、いまだに「なぜコケコッコーと鳴くのか?」は明確な答えが出ていません。縄張りを守るため、メスを引きつけるためなど、いくつかの説はありますが、もう少し研究が必要なようです。

 身近な動物であるニワトリでも、まだまだわからないことがあります。だから研究は面白い、のです。



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【いとう・しゅういち】
1972年千葉県生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業、同大学院獣医学研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は応用動物行動学。中学生のころより写真撮影を始める。家畜たちの日常の素顔を集めた写真集『まきばなかま』を出版。
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