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食べるしあわせ
にっぽん塩の教科書 ソルトコーディネーター
青山志穂
第9回 形・大きさ・色に個性あり!(その2)
◆結晶の形や大きさが味に及ぼす影響
 食感や塩味の感じ方にも影響を及ぼす塩の結晶の形や大きさは、塩選びには重要なポイントです。粒の大きい塩は、塩を口に入れてから溶けてしまうまで時間がかかるため、粒の小さい塩に比べて味を感じ始めるタイミングが遅くなります。これにより、食塩相当量が高くしょっぱさが強めの塩でも、粒が大きければ「まろやか」という印象を受けやすくなります。逆に、粒が小さな塩は口に入れてすぐに溶け始めるので塩味を最初に強く感じます。実際には食塩相当量が低くしょっぱさがまろやかな塩であっても「しょっぱい」という印象を受けやすくなるのです。よく「人は見た目が九割」と言われますが、塩の味わいも同じで食べたときの第一印象が先行してしまう場合が多いようです。

 では粒の形や大きさが多様な塩をどういう視点で選べばよいのでしょうか? 塩選びのヒントは食材の硬さと塩の食感とを合わせてあげることです。豆腐などの柔らかく咀嚼回数が少なくて済むものにフレークやトレミーなどのサクサク食感が長く続く塩をかけてしまうと、口の中に食材がなくなっても塩はまだ残ってしまいます。反対に厚めに切った噛み応えのある肉や魚の刺し身に粒の小さい塩をかけると、咀嚼を繰り返すうちに塩が先に消えてしまい、食材だけが口の中に取り残されてしまいます。これでは料理としての完成度が低くなってしまうのです。塩はあくまでも料理の引き立て役であり、まとめ役でもあるので、食材の味が消えてしまう直前のタイミングに塩味も消えて、最後に食材のおいしさが際立つという塩梅がベストなバランスです。
 あえて塩の食感を出したいときは、フレークやトレミー、大きめの粒の立方体や球状などをトッピングするがおすすめ。サクサク、ザクザク、カリカリ、ガリガリといったユニークな食感を楽しむことができます。反対に食感を出したくないときや下ごしらえなどで食材にすり込む場合は、溶けやすく食材になじみやすいパウダーや粒が小さめの凝集晶を選ぶとよいでしょう。用途によって塩の形や大きさにこだわってみると、料理の幅も広がります。

塩の結晶

◆塩って何色?
 塩の色は白というイメージがあるかもしれませんが、実は無色透明です。立方体の塩を1粒取り出して虫眼鏡で拡大して見てみると、透明なことがわかります。1粒1粒は無色ですが、塩が集まっている状態や結晶の構造が複雑だと光の乱反射によって白く見えるのです。
 では全ての塩が無色透明かというと、そうではありません。ピンクだったり赤だったり、カラフルに着色していることがあります。例えば海水を煮詰める釜の素材が鉄の場合、海水中の鉄イオンと釜の鉄イオンが反応をして、塩の結晶は薄ピンクから茶色に色づきます。濃縮工程が揚浜式塩田や枝条架式塩田の場合は、海水に含まれる有機物の影響でほんのり黄色く色づくことがあります。塩田の砂質が赤土の場合は赤くなったり、泥質であれば灰色に色づいたりします。またマグネシウムを多く含む塩はごく薄い灰色になる傾向にありますし、藻塩の場合は海藻の成分であるヨウ素を含むので、薄い茶色から濃い茶色になるケースもあります。それ以外にも笹やワイン、竹炭など、複合原材料を入れてつくる場合はその色の影響を受けます。

 岩塩も地層のミネラルや有機物が混入することでさまざまな色になります。世界でいちばん流通しているパキスタン産の岩塩はピンク色ですが、これは地層に含まれる酸化鉄が作用しています。硫黄が多く含まれている場合は赤紫色に、マグネシウムを多く含む場合は灰色から黒色に、カリウムを多く含む場合は青色になるなど、色のバリエーションは豊富です。

 透明の塩の結晶が光を受けて輝く様はとても美しいですし、色味のある塩はお皿の彩りにもなり、目でも楽しませてくれるでしょう。(つづく)


写真提供:青山志穂

★青山志穂さんが訪れた全国各地の製塩所を紹介する連載「にっぽん塩めぐり」はこちら⇒
★青山志穂さんの公式Youtube・WEBサイト・Instagram
https://www.youtube.com/@shiho_aoyama
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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