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食べるしあわせ
にっぽん塩の教科書 ソルトコーディネーター
青山志穂
第2回 十塩十色の味を知る(その2)

塩の形によってさまざまな食感が楽しめる


食感も重要な味の一つ
 日本人の食感に対する敏感さは特筆すべきもので、英語やドイツ語では食感を表す言葉が約100語なのに対して、日本語には約450語もあるそうです。例えば英語の「crispy(クリスピー)」という言葉は、日本語に訳すと「サクサク」「ザクザク」「カリカリ」「パリパリ」「シャキシャキ」など、かなり多くの言葉に翻訳されます。それほどまでに、日本人は食における食感を繊細に感じ取り、重要視してきたということです。

 塩は基本的には小さな粒で、水分と混ざるとするりと溶けてしまうため、食感があるという印象は薄いかもしれませんが、大きめの粒はガリガリ、薄いフレーク状になっているものはサクサクと、結晶の形や大きさよってはさまざまな食感を楽しむことができます。
 粒が大きければ、溶けるのに時間がかかるので、口の中で味の余韻が長く続きますし、粒が細かいものやパウダー状のものだとすぐに溶けてしまうので、口の中に入れた途端、その塩本来の味を強く感じます。用途によって最適な形の塩を選ぶことで、素材のおいしさを引き出したり、食べたときの印象を演出することもできるのです。

おいしい塩加減とは?
 塩に含まれるナトリウムは、生命の維持に必須のミネラルです。人工的につくり出すことはできないため、身体を構成する細胞が正常に機能するために、私たち人間は必要量を摂取し続けなければなりません。体内に含まれる塩分濃度は人種や老若男女問わず約0.85%。身体はこの濃度を本能的に保とうとするわけですが、日々の生活強度によって、この数値が増えたり減ったりするわけです。
 汗をたくさんかいたとき、多めに飲酒をした日などは、塩分の排出量が多くなるため、ナトリウム不足となり、身体は塩を欲します。「もっと摂って!」というサインとして、ときには甘く感じることさえあります。それに対して、塩分が十分足りている状態では、塩はよりしょっぱく感じやすくなります。つまり塩加減というのは、その人の体調や年齢、環境によって異なるということになります。全員に共通するおいしい最適な塩加減なんていうものは、実は存在しないのです。

 とはいえ、「いい塩梅」という言葉があるように、塩は料理の味付けに欠かせません。人間がおいしいと感じられる塩味の目安は、塩分濃度が0.5%~3%といわれています。
 一般的に「薄味」とされるのは塩分濃度0.6%程度。すまし汁やおにぎりの塩分濃度がこのあたりです。体液の塩分濃度に近い0.8%前後が「普通味」で、焼き物や炒め物などは0.8~1.0%が目安です。塩分濃度が1.5%を超えると「濃い味」の領域となり、ラーメンのスープやシチューなどはこのくらいの塩分濃度が「おいしい」とされているようです。焼き魚や保存を目的とした漬物などは塩分濃度2.0%以上。ほとんどの人は「しょっぱい」と感じるようになります。
 なお、市販のドレッシング等には塩分濃度3.0%を超えるものも多くあるのですが、多量の油分や糖分がミックスされたことによる味の相互作用によって、しょっぱさを強く感じにくくなる傾向にあります。気になる方は、塩分濃度が0.9~1.0%くらいのドレッシングを選ぶとよいでしょう。
 
「減塩」「低塩」の表示ルール
市販されている商品には「減塩」「低塩」「塩分控えめ」といった文言の表示を多くみかけますが、これらにはどのような定義があるのでしょうか?
 2015年に施行した食品表示法により、2020年4月1日から食品の包装やパッケージにエネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、塩化ナトリウム(食塩相当量)の栄養成分表示が義務付けられました。これにより、「低塩」「減塩」などの栄養強調表示を使用する場合は、食品表示法が定める次のルールに従わなければいけません。

「低塩」「塩分控えめ」……食品100gあたりの塩化ナトリウムが120mg(食塩相当量で0.3g)以下
「減塩」「塩分〇%カット」……比較対象食品よりも、食品100gあたりの塩化ナトリウムが120mg(食塩相当量で0.3g)以上減少している
「無塩」……食品100gあたりの塩化ナトリウム量が5mg未満
「うす塩味」……味が薄いことを示しているだけで塩化ナトリウム量に規定はない

 健康の話題になると、とにかく悪者にされがちな塩ですが、ミネラル豊富な塩を適量摂取することは、生命の維持に不可欠。日常的に使用する塩の質についてもっと理解を深めれば、必ずしも量を減らす必要はないのです。

年を取ると、塩味を感じづらくなる
 私が小学生くらいのころは祖父母も健在で、毎日食卓を一緒に囲んでいたのですが、それなりに塩味のあるキュウリの漬物に醤油をかけている祖父母を見て、しょっぱくないのかしら? と疑問に思っていました。実はこれには理由があるのです。
 1958年、カナダの心理学者、クーパーらよって、人間は年齢を重ねるごとに味覚の感知能力が低下するという研究結果が発表されました(※2)。酸味は年齢による変化はあまりないのですが、苦味と塩味は落ち幅が大きく、15~29歳と60~74歳とで比較した場合、苦味は約2.5倍も、塩味に至っては約4倍も感知しづらくなるそうです。人は舌の表面にある味蕾(みらい)で味を感知するのですが、高齢になると、唾液の分泌量が減少し、味を感じる味蕾の働きも悪くなります。こうした加齢による身体機能の低下が、「味がしない」「味が薄く感じる」といった現象を引き起こすというわけです。
 加齢の影響があるとはいえ、濃い味を続けていると当然塩分の摂りすぎにつながります。そのため、食前に水で口を潤すといった口腔ケアのほかに、味蕾の働きや生成を助ける亜鉛を含む食品、例えばカキなどの魚介類や、豚レバーや牛肩ロースなどの肉類を積極的に摂取するなどの対策が必要になってきます。少量の塩で塩味を感じられるように、食材と相性のよい塩選びもおすすめです。

【まとめ】

 塩は、しょっぱい塩味を強く感じさせる塩化ナトリウムのほかに、さまざまなミネラルを含まれています。ミネラルそれぞれに特有の味があるので、どのくらいのバランスで含まれているかということは、塩の味を決めるうえでとても重要な要素になります。塩化ナトリウムの含有量が99%以上の「食塩」はしょっぱさ以外の味をほとんど感じることはありませんが、日本各地でつくられている塩は、製法や原料、自然風土により、塩ごとにミネラルの含有率が異なり、それによって驚くほど多彩な味わいが生まれます。海水を原料にしていても、一つとして同じ味の塩はできないのです。日本各地で育まれている塩の個性を知り、それらを料理やシーンによって使い分けるだけで、食卓がもっと楽しく豊かになることでしょう。(つづく)

※2) COOPER RM. The effect of age on taste sensitivity. J Gerontology. (1959)

写真提供:青山志穂

★青山志穂さんが訪れた全国各地の製塩所を紹介する連載「にっぽん塩めぐり」はこちら⇒
★青山志穂さんのWEBサイト・Instagram
https://shiho-aoyama.com/
https://www.instagram.com/shiho_aoyama_/?hl=ja
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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