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食べるしあわせ
にっぽん塩の教科書 ソルトコーディネーター
青山志穂
第6回 同じ海水でも何かが違う(その1)
 塩とひと口にいってもその種類はさまざまで、原料や加工の違いによって次のように分類されます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

「海水塩」
海水を原料にしたもの。海水を汲み上げる必要があるため、産地は国内外ともに沿岸地域に集中している。日本で生産される塩のほぼ100%が海水塩だが、世界的に見ると、海水塩は総生産量の約3割に過ぎない。

「藻塩」
海水塩の一種で日本独自の塩。海水を濃縮する際に海藻を利用したもの、または海藻のエキスを加えたものなど。北は北海道のコンブから南は沖縄のモズクまで、日本各地でさまざまな海藻を利用した藻塩が生産されている(本連載第5回を参照)。

「岩塩」
海水が地中で結晶化した塩。数億年前に起きた地殻変動によって陸地に閉じ込められた海水の水分が蒸発し結晶化したもので、世界の総生産量の約6割を占める。主な産地はパキスタン、ボリビア、ドイツ、インドで、日本には存在しない。

「湖塩」
塩湖から採取した塩。乾季になると湖水が結晶化するので、それを掘り出して塩を採取している。地殻変動で海の一部が閉じ込められて形成された湖、地層中の岩塩が地下水などによって溶けてできた湖など、塩湖の成り立ちはさまざま。大陸部に多く存在し、有名なものにボリビアのウユニ塩湖やイスラエルの死海がある。日本には存在しない。
※日本陸水学会では塩湖を「乾燥地域にあって湖水に含まれる総塩濃度が 0.5 g/ℓ以上の湖」と定義している。

美しい塩の大地が広がるウユニ塩湖

岩塩の集積場


「地下塩水塩」
塩分を含む地下水から採取した塩。しょっぱい温泉(食塩泉)がこれにあたる。土壌に海水が染みこんで地上に湧き出てくる場合と、太古の海水の塊が地下水に溶け出し、地上に湧き出てくる場合がある。日本ではごく一部で温泉水を利用した塩(山塩)を生産している。

雲仙エコロ株式会社では島原半島にある小浜温泉を利用した塩づくりを行っている

<主な製塩所と商品>会津山塩企業組合「会津山塩」(福島県)、山塩館「山塩」(長野県)、雲仙エコロ塩株式会社「塩の宝石」(長崎県)、尾白の森・名水公園べるが「信玄の涙」(山梨県)

「再製加工塩」
すでに結晶化した塩になんらかの加工を加えて再び塩にしたもの。
<主な商品>「赤穂の天塩」(赤穂化成)、「伯方の塩」(伯方塩業)、「シママース」(青い海)、「食卓塩」「精製塩」(日本海水)

「調味塩」
塩にハーブやスパイス、さまざまな素材から抽出したエキスなどをブレンドしたもので、シーズニングソルトとも呼ばれる。
<主な商品>「のどぐろ出汁塩」(はぎの食品)、「小笠原スパイスミックス レモンソルト」(ノスリ工房)、「ナッツソルト」(SPACE RING)

希少価値の高い山塩
 日本の塩はほぼ海水を原料にしているため、約600カ所を超える製塩所のほとんどが沿岸部にあります。しかし、非常に少量ではありますが、海から離れている内陸でも塩が生産されているのをご存じでしょうか。塩化ナトリウムを含む温泉水(塩化物泉)を活用した福島県の「会津山塩」や長野県の「山塩」、山梨県の「信玄の涙」などで、それらは山深い温泉地が産地のため、山塩と呼ばれています。生産量は国内全体の1%にも満たない希少な塩です。原料となる温泉水の塩分濃度は海水の3.4%に比べて1~2%程度と低いことから、製塩効率が非常に悪く、塩を得るのは大変な作業なのです。

会津山塩企業組合会で使われている温泉水

 古来、塩は非常に高価で貴重なもので、全国に張り巡らされた「塩の道」を通じて沿岸部から内陸の奥地まで遠路はるばる運ばれていました。江戸時代に入ると、塩は味噌や醤油の製造、漬物などの塩蔵に必要なものとして定着し、需要がいっそう高まりました。そんな中、特に山間部に暮らす人々にとって、塩が入手困難になる事態は深刻です。苦労をしてでも自分たちで製塩しようという思いが根強くあったようです。
 山塩の産地には「弘法大師が貧困に喘ぐ民を見て不憫に思い、地面を杖でついたら塩水が湧き出た」という逸話が残っている地域が多く、由来が大切に語り継がれています。私が訪れた福島県会津地方の山塩企業組合会では、時代のあおりを受けてたびたび生産中止に追い込まれますが、2005年(平成17年)に復活。地元の宝として今も塩づくりの火を灯し続けています。


海外産の塩を使った再製加工塩とは?

日本へ輸出されるメキシコ・ゲレロネグロ塩田の天日塩

 再製加工塩とは、原料となる塩になんらかの加工を加えて再度塩に仕上げた塩のことです。「赤穂の天塩」や「伯方の塩」といえば、聞き覚えのある人も多いと思いますが、海外産の天日塩を日本の海水で溶かしてから再結晶させたり、輸入した塩ににがりを添加したりするなど、製法はメーカーによってさまざまです。
 こうした商品について、「国産だと思って買ったのに海外産でショックだ!」というような意見をSNSなどで見かけることがあります。国内で製造されたものではありますが、確かに原料の塩は「メキシコ産」「オーストラリア産」と表示されています。詳しくは歴史の章で後述しますが、1973年(昭和48年)に誕生した再製加工塩の成り立ちには、塩専売制度下でにがりを含んだ昔ながらの塩を再現しようとした歴史的背景があります。

 塩の生産や流通を国に管理されていた時代が終わり、塩を自由に選択できるようになった現代でも、コストパフォーマンスに優れている再製加工塩は、特に塩を大量に使用する味噌や醤油、漬物のほかに、飲食店御用達の塩として今も多くの人に愛用されています。大規模塩田で効率的に生産される海外産の塩が原料であるからこそ比較的安価に提供されている訳で、私も梅干しや塩麹を仕込む際や、パスタや野菜をゆでるときに気兼ねなく使えて重宝しています。

伝統的な庶民の塩
 現在では海外産の塩を原料にした再製加工塩が出回っていますが、その手法は1905年(明治38年)の塩専売制実施前からありました。
 江戸時代は日本の塩づくりがもっとも普及した時代で、瀬戸内海周辺に生産量や品質を誇る「塩の名産地」と呼ばれる地域が現れ、塩は商品として流通し、産地から全国各地に運ばれるようになります。当時の塩は、塩化ナトリウム純度の低い「差塩」と塩化ナトリウム純度の高い「真塩」に分類されていました。真塩は塩田で濃縮した海水を平釜で炊いて結晶化させ、にがりを適度に取り除いて仕上げたもの。差塩は出来上がった塩に再度、濃縮した海水とにがりを加えて成分を調整したもので、いわば再製加工塩のようなものです。
 江戸時代の包装には俵が使われており密封されていないため、にがり成分の塩化マグネシウムが多い差塩は、運搬する間に空気中の水分を吸って潮解(※1)してしまい、嵩も重さも減ってしまいます。そのため潮解しない真塩に比べると、1俵当たりの価格は安く取り引きされていました。また、貴族や大名などの上流階級の人たちが使う高級品として流通した真塩に対して、差塩は濃縮した海水やにがりを加える量によって全部差し、七分差し、三分差しなどに区分され、主に庶民の食卓や、漬物用や食料品の塩蔵用に利用されていました。古くから一般的に広く使われ、日本の食卓を支えてきたのは差塩。つまり再製加工塩は日本の伝統的な塩の一つといえます。

新商品が続々! 調味塩に注目
 近年の塩業界で進化し続けているのが、塩にハーブやスパイスをミックスした調味塩です。その広がりはとどまるところを知らず、塩を専門にしている私でさえも、追いかけきれないほどの多彩な商品が発売されています。
 調味塩として一躍有名になったのが、アメリカ産岩塩にペッパー・オニオン・ガーリック・タイム・セロリ・オレガノのハーブをブレンドした「クレイジーソルト」(日本緑茶センター)です。「クレイジー」のネーミングに「一度食べれば夢中になる」という意味が込められている節があるほど、肉や魚、野菜のどんな素材とも相性がよく、1980年に日本に輸入されて以来のロングセラー商品です。
 最近ではアミノ酸の旨味が豊富な「ろく助塩」(ろく助本舗)や、乾燥トリュフをブレンドした香り高いトリュフ塩、アウトドア用に開発されたという「ほりにしのスパイス」が人気を博し、ブームとなりました。味付けと風味付けを同時にできる調味塩は1つあると便利な万能調味料で、新商品の発売から目が離せません。(つづく)

写真提供:青山志穂

★青山志穂さんが訪れた全国各地の製塩所を紹介する連載「にっぽん塩めぐり」はこちら⇒
★青山志穂さんの公式Youtube・WEBサイト・Instagram
https://www.youtube.com/@shiho_aoyama
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【あおやま・しほ】
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、総合食品メーカーを経て、塩の専門店「塩屋」を営む(株)パラダイスプランに入社。日々の業務の傍ら産地を訪問し、塩の研究を進めていく中で、塩に対する誤解や不理解を改善したい思いが強くなる。2012年、塩の正しい知識の啓もうを目的とした(社)日本ソルトコーディネーター協会を創立。国内外での講座やセミナーのほか、商品開発やアドバイザーとして活動。地域と連携し、塩を基軸とした地域活性化も手がける。訪れた製塩所は国内外合わせて延べ400カ所以上。自宅には2300種類以上の塩コレクションが並ぶ。著書に『日本と世界の塩の図鑑』『免疫力を高める塩レシピ』(あさ出版)ほか。
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