濃縮した海水から塩の結晶を取り出す 「濃縮工程」の次は、濃縮した海水(かん水)の水分をさらに蒸発させて、海水に含まれる塩を結晶化させる「結晶工程」です。濃縮工程と同じく、その方法はバラエティー豊か。農作物にさまざまな栽培方法があるように、塩も育て方によって結晶の形やミネラルバランスが大きく変化し、そうして出来た塩の形や成分はそのまま味わいに直結します。
イタリアの塩田
海水から塩をつくる場合、海外では広大な塩田に海水を引き入れて、そのまま天日で干して結晶化させる方法が主流です。しかし、日本の沿岸には塩田に適した広大な敷地がほとんどありません。そのうえ、雨季や乾季がはっきりしておらず、台風も多く、湿度も高い気候のため、海水を屋外に長期間放置することも不可能です。こうした状況下では、塩田を利用して結晶化させるのは至難の業なのです。そこで採用されたのが「平釜」や「立釜」などの釜で海水を炊く方法で、煎じて煮詰めることから「煎ごう」とも呼ばれます。これが日本の結晶工程のメインになりました。
ちなみに、海水を釜炊きによってすべて結晶化させてしまうと、ミネラル分が多すぎて苦味が強い塩ができてしまうため、一般的には海水の塩分濃度が25~30パーセントになった段階で結晶化したものを塩として収穫し、残りの濃縮液は「にがり」として活用します。
それでは、結晶工程にどのような方法があるか見ていきましょう。
「平釜」開放型の釜で海水を煮詰め、塩の結晶をつくる方法(濃縮工程の「平釜」を参照)。火加減のコントロールによって粉末や微粒、ゴツゴツとした大粒、フレーク状などの多彩な形や大きさの結晶が生まれる。
<主な製塩所と商品>株式会社最進の塩「最進の塩」(山口県)、こしきの塩「こしきの塩」(鹿児島県)「立釜」密封型の釜で圧をかけながら海水を煮詰め、塩の結晶をつくる方法(濃縮工程の「立釜」を参照)。密封状態のため、平釜に比べて温度や湿度を一定に保つことができ、結晶の形をコントロールするのが容易になる。
<主な製塩所と商品>味の素株式会社「瀬戸のほんじお」(岡山)、尾鷲しお学舎株式会社 「やさしいお塩」(三重県)
加熱ドラム(株式会社パラダイスプラン)
噴霧乾燥(ぬちまーす)
「加熱ドラム」濃縮した海水を高温に熱した円筒状の金属板の上に噴霧する方法で、瞬間的に水分を蒸発させる。そのため、にがりを含んだままのパウダー状に仕上がる。
<主な製塩所と商品>株式会社つらら「宗谷の塩」(北海道)、株式会社パラダイスプラン「雪塩」(沖縄)「噴霧乾燥」濃縮した海水を空中に噴霧し、横から温風を当てる方法で、地面に落ちるまでの間に水分を瞬間的に蒸発させる。加熱ドラム同様、にがりを含んだままのパウダー状に仕上がる。海水を高温で加熱しない点が加熱ドラムと異なる。
<主な製塩所と商品>株式会社ぬちまーす「ぬちまーす」(沖縄県)「天日」太陽と風だけで結晶化させること。海外では屋外に大きな区画をつくり、そこに海水を引き入れて塩田にするが、日本ではビニールハウス等の室内に小さな箱を複数並べ、そこに濃縮した海水を入れて少量ずつ結晶化させる。
<主な製塩所と商品>自然食品研究会「はやさき」(熊本県)、有限会社ソルティーブ 「土佐の塩丸」(高知県) 「採掘」すでに結晶化している岩塩や湖塩を破砕して掘り出すこと。日本には岩塩層がないため、この製法が使われることはない。
加熱ドラムと噴霧乾燥は日本で開発された特許技術で、日本でしか行なわれていない製塩法です。加熱ドラムでつくられた沖縄の「雪塩」(株式会社パラダイスプラン)や北海道の「宗谷の塩」(株式会社つらら)、噴霧乾燥でつくられた沖縄県の「ぬちまーす」(株式会社ぬちまーす)はどれもパウダー状の塩であることが特徴的。海水の成分とほぼ同じで、ナトリウム以外のミネラルが豊富な点も共通しています。
オーダーメイドできる日本の天日塩 先ほども述べたように、海外と日本とでは天日を利用した生産規模の差が顕著です。例えばメキシコには東京都の3分の2ほどの面積を持つ広大な塩田が広がっており、そこに海水を引き入れて数年間かけて濃縮・結晶化するため、年間800万トン以上もの天日塩を生産することができます。
大きな塩田を確保できない日本の天日塩では、天候に左右されない屋内で少しずつ結晶化させるため、数キログラムしか生産できません。とはいえ、小規模なりの利点はあります。塩の生育を箱ごとに分ければ、消費者の細かな要望に合わせて塩がつくれるという点です。塩が結晶化していく成長具合を見ながら、かき混ぜる回数やもみ方を調整して結晶の形を変化させたり、収穫するタイミングを調整してミネラルのバランスをコントロールしたりと、タイプの異なる数種類の天日塩をつくることができます。
日本における天日塩の代表的な産地は高知県と熊本県なのですが、特に高知県では田野屋塩二郎(田野町)がオーダーメイドの塩づくりを大々的に始めたことにより、天日塩に対する世間の注目が集まり、盛り上がりを見せています。
田野屋塩二郎では仕切りを設け、その中で天日塩をつくっている
ところで「天日塩」と表記できるのは、火などの熱源を一切使用せず、太陽と風の力だけで海水を濃縮・結晶させてつくられた塩に限定されます。海水を釜で炊いて濃縮し、それを天日で干した塩を天日塩として販売している製塩所もあることから、天日塩に限らず、商品に使用できる用語は、塩の原産地や製造方法の情報開示を目的に食用塩公正取引協議会のルールで定められています。(つづく)
写真提供:青山志穂
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