第10回 1通のメールから始まったベルギーの田舎旅
隣の国、ベルギーにはフランス語圏があり、数年前からたびたび足を運ぶようになりました。そこで今回は、そんなベルギーの小さな町をヴォヤージュしましょう。旅の舞台は、ブリュッセルから電車で約1時間15分のNamur(ナミュール)へ行き、そこからさらに車で20分ほど走った先にあるFosses-la-ville(フォッス・ラ・ヴィール)。きっかけは、2024年の中頃にベルギー在住のあるマダムから届いた1通のメールでした。
「私は日本が大好きでよく旅行しています。今年の11月も京都に行く予定です。以前、落語をナミュールで拝見し、今度は本場の日本で観てみたいと思ってご連絡しました。私が京都に滞在中、フランス語の落語会はありませんか?」
ちょうどそのころ、落語の発祥地とされる、京都のお寺「誓願寺」で英語での落語会が予定されていたのですが、マダムの希望はフランス語なのでダメ。そこで京都にあるフランス人経営のティーハウスを貸し切り、京都在住のフランス人やベルギー人旅行者向けのフランス語落語会を企画しました。いわゆる“インバウンド”というやつですね(笑)。
これがマダムに大変気に入っていただき、「次にベルギーに来るときは、ぜひ私の町、フォッス・ラ・ヴィールでも開催したいわ」とまでおっしゃってくださったのです。
そして、今年(2025年)の6月にベルギーツアーを行うタイミングで足を延ばすことにしました。
フォッス・ラ・ヴィールは牧草地が一面に広がり、少し車を走らせば、地元産の野菜や果物、はちみつ、チーズ、ジャムなどが買えるようなのどかな農村地域です。人が集まるのか心配していましたが、蓋をあけてみれば、会場は満員御礼! 日本文化に興味があるけれど、落語の存在を知らなかったという人が多く、皆さんとても熱心に聞いてくださいました。
この町を訪れて初めて知ったのですが、「歌舞伎症候群」という先天性の疾患があるそうです。ご存じでしょうか? 1981年に日本人医師らによって最初に報告され、切れ長の目などが特徴的な症状であることから、歌舞伎役者の化粧に由来した名前が付いたといわれています。フォッス・ラ・ヴィールには、この疾患を広く知ってもらうために、患者のお父さんが設立したアソシエーション(協会)があります。このときの落語会の売り上げは、その団体に寄付をいたしました。落語がこんな形で役に立つとは、うれしいことですね。芸の不思議な力を感じたベルギーの旅でした。(つづく)
【シリルのフランス豆知識 ●ベルギー編】
ベルギー人の一部はフランス語を話しますが、発音に少し訛りがあります。そのため、フランス人の中にはベルギー人を上から目線でからかうことがあり、フランス人同士の「Blagues Belges (ブラーグ・ベルジュ)」つまりベルギー人ジョークがたくさん存在します。とはいえ、これはもちろんお互いさま。実はベルギー人も、フランス人をネタにしたジョークをたっぷり持っているのです。その中から、ちょっとお下品ですが、わかりやすいものを1つ。
問題です。フランス語で「トイレに行ってきます」を、フランス人は「Je(ジュ) vais (ヴェー) aux(オー:複数形) toilettes(トワレット)」と、ベルギー人は「Je(ジュ) vais(ヴェー) à la(アラ:単数形) toilette(トワレット)」と表現します。それはなぜでしょう?
その答えは、フランスではきれいなトイレを見けるために、いくつも回らなければならないから。このジョーク、ベルギーで落語の前に“つかみ”として披露したところ、見事に大受けでした。(写真提供:Cyril Coppini)
☆シリル・コピーニさんがフランス語で落語を披露するときのコツや面白さを語る
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