ボンジュール! 今回はフランス南西部の都市ペルピニャンにほど近い小さな村、Corneilla-Del-Vercol(コーネヤー・デル・ヴェルコール)、略して「コーネヤー」へ皆さんをご案内しましょう。
おそらく日本人の皆さんにはまったくなじみのない地名だと思いますが、ご安心ください。ほとんどのフランス人も知りません(笑)!? ただ「コーネヤー」という響きを聞くと、フランス人なら「なんとなくスペインの土地かな?」と勘づきます。なぜならコーネヤーはスペインの国境まで車で約1時間のカタルーニャ地方にある村だからです。
私がこの村で落語口演を開催したのは、不思議なご縁からでした。実は2003年から2021年まで勤めていた東京日仏学院が関係しています。東京日仏学院とはフランス政府公式の語学学校・文化センターで、そのときの私の担当はフランス音楽をプロモーションすること。バンドやDJを日本に招聘して、ツアーを組んだり、レコード会社やメディアに紹介したりする仕事です。そのおかげで在籍した18年間で、いろんなミュージシャンとの交流がありました。特に仲良くなったのが「La Caravane Passe(ラ・キャラバン・パス/省略してキャラパス)」という5人組のバンド。来日した4回の公演を全て私が担当しました。
そのメンバーの1人、ステージネーム「ユーグズ」はペルピニャンの出身。私と同じ南仏出身ということもあって、すぐに意気投合しました。彼は日本に来るたびに日本の文化に興味を持ち、私の日本語による落語口演にも足を運んでくれました。残念ながら内容は理解できなかったようですが……(笑)。
2010年に初来日したとき彼はパリ在住で、口ぐせのように「いつか南仏に戻りたい」と語っていました。その数年後、夢を叶え、彼が移住したのがフランスとスペインの国境近くにあるコーネヤーだったのです。その縁もあって、2022年に私はこの村の多目的ホールで落語を披露することになりました。
とはいっても、当日までは不安だらけ。というのもコーネヤーはどっちかというとスペイン文化が色濃く根づいた土地。遠い日本文化とはほとんど接点がありません。そのような場所で日本の伝統芸である落語をフランス語で紹介しても、本当に人が集まるのかな? そして楽しんでもらえるのか? まるで日本の田舎町に、突然フランス人の人気バンドが現れてライブをするようなものです。
さて当日、会場となった多目的ホールの舞台背景には、この地方の人々が誇るピレネー山脈の東部のカニグー山 (Mont Canigou)の絵が大きく描かれていました。その前に高座を用意していただいたので、私は開口一番こうご挨拶しました。
「地元の“フジヤマ”の前で日本文化を紹介することをうれしく思います!」
このひと言で会場の空気が一気に和み、初めての開催は大成功! その後の公演も次々とお客さまが来場され、急きょ席を増やすほどの大盛況に。地元新聞に取り上げられるほどの話題になりました。やはりその土地の身近な題材はツカミにぴったり。お客さまとの距離を縮めてくれるので、間違いありません!(つづく)
【シリルのフランス豆知識 ●コーネヤー編】
日本語には標準語のほかに多くの方言がありますね。フランス語も地域ごとに発音やイントネーションが異なる「なまり」があります。されにそれぞれの土地には独自の「地元語」が存在します。例えば、私の故郷ニースにはニース語(フランス語とイタリア語のミックス)があり、ブルターニュ地方にはブルトン語、バスク地方にはバスク語、コルシカ島にはコルシカ語、アルザス地方にはアルザス語といった具合です。そしてコーネヤーではカタルーニャ語が公用語。スペイン語でもフランス語でもない独自の言葉です。2024年、2回目の口演を開催した際にカタルーニャ語で挨拶をしたところ、大いに喜ばれ、会場が沸きました。(写真提供:Cyril Coppini)
☆シリル・コピーニさんがフランス語で落語を披露するときのコツや面白さを語る
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