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美しいくらし
落語はトレビアン! フランス人落語パフォーマー
シリル・コピーニ(尻流複写二)
第1回 フランス人落語パフォーマー誕生!
 インタビュー記事「世界に広がる落語の輪!」(全3回)で、フランスでの落語人気や落語のエンターテインメント性について語ってくれたフランス人落語パフォーマー、シリル・コピーニさんの新連載がスタートしました。彼の企業秘密ともいえるフランス語版落語の制作秘話や、毎年開催しているフランスツアーとその舞台裏を、異文化交流のかけはしとなってグローバルに活動するシリルさんの視点で伝えてくれます。エピソード満載の本音トークをお楽しみに!


 Bonjour et bienvenue dans cette nouvelle rubrique ! 
 こんにちは、新連載へようこそ!

 今月からはじまるこの連載では、日本に住むフランス人落語パフォーマーのわたくし、尻流複写二(シリル・コピーニ)が、日本の伝統芸能「落語」とフランスの意外な接点などをご紹介していきたいと思います。母国フランスで2016年より毎年落語ツアーを行っていますが、そこで得た経験やエピソードを皆さんと共有し、フランスと日本の笑い文化の違いやフランス人が落語にハマる理由などを面白おかしく綴ります! と、その前に、ソモソモなんでフランス人が落語に挑戦するのか? その理由をご説明しましょう。

シリルさんの故郷、南仏ニースの町並み

 落語との出会いは大学時代ですが、それより前の高校時代に、故郷の南仏・ニースで日本語と出会いました。ちなみにその高校は、この「かもめの本棚」でお馴染みのステファニーさんと同じ母校ですよ。現在は日本語を勉強するフランス人の若者が増えていますが、わたくしが高校に入学した1988年ごろは、地方都市の高校で日本語のレッスンがあることが非常に珍しいことでした。今も覚えていますが、レッスン初日に日本人の先生が教室に入り、いきなり黒板に漢字を書きました。そして、生徒に向かって「これは僕の名前です」と。
 15歳だったわたくしにはいい意味でのショックでした。それまではA, B, Cの教育を受け、突然、アルファベットと違う字で書く言語があることに愕然としたのです。初めて目にした漢字に対しての最初のリアクションは「きれい!」。ひと目惚れしてしまいました。

 それからの高校3年間は日本語を猛勉強。フランスも日本と同じで卒業後は大学へと進学するか就職するかを選ぶのですが、その当時ニースでの就職先は、観光地ですから観光関係、または高齢者が多い地域のため医療関係が主でした。わたくしはその両方の業界にあまり興味がなかったため、パリに出て「フランス国立東洋言語文化研究所」(「ジュゲム」みたいな長い名前の専門大学)に進学することを選び、日本語・日本文学を専攻しました。その間、1995年に長野・松本の信州大学へ1年間留学し、そのとき初めて落語をテレビで見ました。日曜午後5時半に日本テレビで放送されるあの演芸番組です。カラフルな着物を着て、正座になって、面白いことを発言するジジたち(笑)。これはいったい何でしょう? これもいい意味でのもう一つのショックでした。

 日本で受けたカルチャーショックが大きく、1997年に再来日し、今度は福岡で在日フランス大使館所属の文化センターに20年間以上勤めました。そして2001年に上京、人生で初めて生の落語を聞いたのです。東京・上野の鈴本演芸場でした。そのときは、「格好いい」「面白い」と感じて、自分もそれをやりたいと思いました。とりあえず、落語の先生を見つけて、何万円かの月謝を払えば、週に1・2回のレッスンをしてくれるだろう……。

(写真:編集部)

 いやいや、現実はそんなに甘くありませんでした。落語を本格的に勉強したいのであれば、師匠のところに弟子入りして長年の修行が必要だと知ったときは、いったんお手上げ。厳しい修業をすることは性に合わないため、しばらく客席から落語を楽しむことにしました。ちなみに、いちばん好きな寄席は新宿三丁目の「末廣亭」。客席で聞くのも大変勉強になります。
 
 そうこうしているうちに2009年に大阪に拠点を置く上方落語の噺家さんと出会いました。大阪は皆さんがご存知の通り、かなりユニークで独自文化を築いてきたエリアです。その噺家さんによると、大阪では厳しい修業をしなくても「おもろい奴は高座に上がってええねん」とのこと。そこで、2010年は1年間かけて月1回の東京―大阪間の日帰りをして、一席(講談や落語などで聴衆に向かってする一つの話)と落語の基本となる仕草や目力などを教えていただき、ついに2011年に「フランス人落語パフォーマー」としてデビュー! そうです。わたくしは見習い・前座・二つ目・真打を経験していませんので、「落語家」ではありません。「落語パフォーマー」なのです。
 

日本の大学などでも落語とフランスをテーマにした講演活動も行っている

 今になって思い返してみると、わたくしが落語を始めた理由は自然な流れだったと思います。最近のフランスでは、漫画を日本語の原文で読みたいから日本語を勉強しているという若者が多いのですが、わたくしの世代は柔道、空手、合気道などの武道をやっているから日本語を学ぶという若者が多かった。でも、わたくしは昔から日本の言葉が好きでした。落語は35年前に始めた日本語の勉強の延長上にあるのです。
 15歳から日本語を学び、その後日本に渡り、日本語でフランスの文化を紹介する仕事を20年以上続けて、これからの人生をどうしようかなと考えたときに、そろそろ出会った落語を通して日本の文化をフランスに紹介してもよいのではと。単純な発想だと思われるかもしれませんが、その決意は固く、フランス各地を回る落語ツアーを2016年にスタートさせることにしました。(つづく)

(写真提供:シリル・コピーニ)

★シリル・コピーニさんの口演会やイベントの情報はこちら→https://cyco-o.com/
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【シリル・コピーニ】
1973年フランス・ニース生まれ。落語パフォーマー、翻訳家。フランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)で言語学・日本近代文学の修士号を取得。1995 年から1996 年まで長野県松本市信州大学人文学部へ留学。1997年から2021年まで在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に勤務。2011 年から「フランス人落語パフォーマー」としての活動を開始、国内外問わず落語の実演、講演会、ワークショップを積極的に行う。テレビやラジオにも数多く出演。2013年からは漫画やビデオゲームなどの日本のサブカルチャーコンテンツの翻訳と海外への紹介にも取り組んでいる(『名探偵コナン 』『どうらく息子』など)。
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