1年にわたってお届けしたこの連載も最終回です。あっという間ですね。今回は「フランス語落語の今後」について話をしたいと思います。
私が落語パフォーマーとして活動するようになって13年(
インタビュー記事参照)。フランス語落語の普及はまだまだですが、この間、状況はかなり変わりました。フランス人が落語を認識するようになるまでの展開はわりと早かったと感じています。本連載の
第9回でふれたように、ここ数年で落語を題材にした漫画のフランス語版も出版されていますし、
第6回でも紹介したとおり、フランス語圏の国々でも口演の開催が増えてきています。海外での落語プロモーションが継続的に増えているのです。では次のステップはなんだろうかと考えますと、やはり「若い世代の育成」でしょう。私は落語家の修業をしていませんので偉そうに聞こえるかもしれませんが(笑)、「落語を覚えたい」というフランス人の若者がいれば、彼らに落語のコツを教えることはできると思います。
私はこれまでに落語を体験してもらうワークショプをフランス各地で開催してきましたが、今年から新たに「ハイブリッド・ワークショップ」を始める予定です。パリ拠点の演劇カンパニーと手を組んで開発している企画で、私が落語の説明と仕草などの指導をする動画をフランスの会場で流して、その映像にもとづいて参加者に落語を練習してもらう仕組みです。会場は学校や図書館で、子どもたちをターゲットにしています。なぜなら落語はフランス人の子どもには新鮮ですし、たくさんのメリットがあるからです。
・日本の文化を発見する
・相手への敬意やヒエラルキーのコンセプトを意識する
・想像力を働かせる
・演目/ネタを覚える
・人の前で喋る
・相手の話を聞く
・アドリブを使ってクリエイティブな発想を成長させる
私は仕事でしょっちゅう帰国しているとはいえ、さすがに毎週教えに行くことはできません。コロナ禍では落語を動画配信することに抵抗がありましたが、ハイブリッド・ワークショップは結局、その状況から生まれたアイディアなのです。
こうした試みが軌道に乗れば、いつか「劇場の学校」のように「落語スクール」をやってみたいですね。実は何年か後には「落語夏期集中講座(高座)」ならできるのではないかと期待しています。フランスには「STAGE DE JUDO(スタージュ・ドォ・ジュド)」という柔道研修がありますが、落語も横文字にして、世の中にたくさんある演劇の一つとして大勢の人に認知してもらいたい。勉強してみたいと思ってもらえるようなものになれば、もうトレビア~ン!です。
パリから2時間ぐらい離れた場所に、在仏が長い日本人のマダムたちがつくった「MURA」(ムラ)というエコヴィレッジがあります。和菓子づくりや草木染めなど、日本をコンセプトにしたさまざまなワークショップが開かれていて、私も2回ほど高座をしました。将来そこに宿泊施設ができたらスタージュ(研修)には完璧な場所です。3泊4日、4泊5日で落語をはじめ、食や言葉などを通して日本文化に少しでも染まってもらうことができるでしょう。実現するのはまだ先ですが、そんなに遠い未来ではないと思っています。
MURAで落語を披露したときの様子
子どもが描いた絵をイベント告知の横に掲示
最後になりますが、1年間続けてこの連載を読んでいただいた皆さまにお礼を申し上げます。メルシーです。2024年はあとわずかですが、年内に予定している国内外の口演スケジュールを
こちらでご確認いただけますので、今度は落語の舞台でお会いしましょう!(終わり)
シリルさんの日本口演での落語スタイルは、日本語にフランス語(ときに英語)を巧みに織り交ぜた彼ならではのオリジナル。その軽快なテンポとユニークな演出は、言葉の壁を感じさせることなく、誰もが楽しめる魅力にあふれています。そんなシリルさんの連載はこれで最終回を迎えますが、さまざまな国や地域に笑いを届ける挑戦はまだまだ続きます。日本のみならず世界中の人々に愛される「RAKUGO」を目指すシリルさんの活動を、これからも応援しています。(編集部)(写真提供:Cyril Coppini)
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