フランコフォニー国際機関は3月を「フランコフォニー月間」と認定しています。フランコフォニーとは日常的にフランス語を話したり、第2言語としてフランス語を使用している国や地域の総称で、フランスの人口はおよそ6,600万人ですが、世界でのフランス語の総話者数は2億7,000万人。フランス語を公用語とする国はアフリカ大陸の諸国、ベルギーやスイスの一部、カナダのケベック州に広がります。そして2億7,000万人という数は、今後アフリカ大陸の出産率が上昇することによって、2060年にはなんと4億万人を超えるのではないかと言われています。近い将来、フランス語落語の市場もさらに拡大すること間違いなし。皆さん、今からフランス語の勉強を始めたら間に合いますよ!
2023年に開催されたOTAKUTHONの様子
さて今回はフランス国内以外のフランコフォニーで行った落語口演についての話をしたいと思います。まずはフランスとの距離が近いスイスとベルギーです。フランス国内ツアーを始めた2016年から日本大使館・領事館や日本人会などの招待で足を運ぶようになり、それ以降、毎年のように必ずどちらかの国を訪れています。次はカナダのケベック州にある都市、モントリオール。日本文化をテーマにしたモントリオール最大の祭典「OTAKUTHON」(オタクソン)の関係者からお誘いを受け、2019年からモントリオール口演がスタートしました。その後、コロナ禍に突入してオンラインでの参加となりましたが、昨年の2023年からリアル口演が復活。久々に現地で落語を披露することができました。実はカナダは遠いので最初はあまり乗り気ではなかったものの、いざ落語を披露すると大ウケ! まー、ちょっとした失敗はありましたが……
(本連載第4回を参照)。
国や文化が異なれば思いも寄らない出来事もあるけれど、それぞれの土地で楽しい思い出はたくさんできるものです。中でもいちばん印象に残っている国は2016年に訪れたニューカレドニアです。南太平洋に浮かぶ「天国に一番近い島」ですが、別に天国の下見で行ったわけではありません(笑)。世界中から語り手が集まる「インターナショナル・ストーリーテリング・フェスティバル」に参加しました。隔年開催される国際フェスで、この年の開催地は首都のヌメアから車で2時間ぐらい離れたティオという田舎町。険しいジャングルの中を移動して会場に向かいました。
首都ヌメアにも滞在し、学校や図書館などの公共施設でも口演を行った
ティオに滞在している1週間は、毎晩違う部族の村を訪れ、出演者がストーリーテーリング(お話し会)のパフォーマンスをします。フランス語のストーリーテーラー(語り手)はフランス本国やモロッコ、タヒチなどから招かれており、私は日本代表でした。落語を披露した場所は、寄席では滅多にない野外の焚火が灯る薄暗い中。しかし、どういうわけか自分史上最高にウケたのです。なぜあんなにも大ウケしたのでしょう……。それは聴衆に物語を語るストーリーテーリングの中でも落語というジャンルが現地ではとても珍しく、衝撃的だったからかもしれません。考えられる理由はこれ以外にもありました。
19世紀の終わりから20世紀にかけて、ティオにはニッケル鉱山開発のためにやってきた日本人移民が何千人規模で暮らしいました。今もティオの町外れには日本人墓地が残っていて、見た目はニューカレドニア人の顔をしているけれど、日本に行ったこともなく日本語も話せないタナカさんやタケダさん、ヤマモトさんといった多くの日系人が今も現地で暮らしています。つまり自分のルーツが日本とつながる人にとって、日本文化を代表する伝統芸を生で見たり聞いたりする経験は感動的な出来事だったのではないかと思います。
そしてもう一つの理由。われわれ現代人はいつも忙しくバタバタと過ごしていて、相手の話を聞くための十分な時間が取れていないことが多いのではないでしょうか。ところがニューカレドニアではそんなことはありません。自分の意見をしっかり言うし、相手の話もじっくり聞く。そうしないと相手に失礼、もしくは格好悪いという文化が根づいている国なのです。そうした国民性だからこそ落語の面白さが素直に受け入れられたのだと強く感じました。
文化が全く異なる環境でも笑いが生まれるのですから、落語という話芸の未来は明るい! 私、こんな真面目な話もできるんですよ(笑)。えっ、意外って??(つづく)
(写真提供:Cyril Coppini)
★シリル・コピーニさんの口演会やイベントの情報はこちら→
https://cyco-o.com/