2024年の年賀状
Meilleurs voeux 2024
皆さま、2024年もよろしくお願いします。
今年のフランスのビッグイベントといえばパリ・オリンピックですね。2024年7月26日から8月11日までの17日間、フランスのパリで開催されるわけですが、そのオリンピックに向けて、昨年から古典落語『狸賽(たぬさい)』をアレンジして現地で披露しております。
『狸賽』は「チョボイチ」という博打(ギャンブル)をする男と子ダヌキが登場します。
ある日、子ダヌキが子どもにいじめられているところをある男が助けます。その恩返しがしたいと、男の自宅を訪ねた子ダヌキ。男は、なんにでも化けられるという子ダヌキを利用してひと儲けすることを思いつきます。
チョボイチはコップサイズの壷とサイコロが必要です。参加者が1から6までの数字を予測し、お金を賭けます。博打師がサイコロ1個を壷に入れて振り出し、出た目を言い当てた人が配当金を受け取るというシンプルなルールです。
男はこのチョボイチの会場で子ダヌキにサイコロに化けてもらい、男が言った数字を出すように頼みます。サイコロに化けた子ダヌキは男に言われた数字を出し続け、男は大当たり。チョボイチを仕切る親分が疑い始め、男に向かって「お前が言うと、そのとおりの数字が出るからもう何もしゃべるな!」と釘を刺します。男は子ダヌキに「5」を出してほしかったのに何も言えなくなり、苦し紛れに言った言葉が「頼むよ! 天神様!!」
いざ勝負! 壷を開けたら、子ダヌキが冠をかぶり、笏(しゃく)を持って立っていたのでした……。
天神様(菅原道真)を祀る天満宮の神紋が梅鉢で、5枚の花びらを持つ梅の花をモチーフにしていることからこのオチが生まれたのですが、この演目はいかにも日本っぽく、このままフランス語で演じるのは難しい。マクラで天神様の姿や由来を説明したとしても、インパクトが弱くなるため、全く異なるオチが必要です。幸いなことに、立川志の輔師匠の『英語落語で世界を笑わす!』(研究社)という本に英語バージョンのオチがあるので、これをフランス語に訳して使わせてもらうことにしました。これが大受け! なのです。
どんなオチになるのか? それはヒミツ。日本語でもアレンジしたバージョンを演じているので、皆さんにはぜひ生で聴いていただきたい。ヒントはオリンピックですよ(笑)。
パリのオランピア劇場で『狸賽』を披露(2023年10月)
フランス語で『狸賽』を披露するときは、マクラでタヌキが化けることを事前に説明します。日本人なら当然知っていることかもしれませんが、フランス人にはわかりません。タヌキが化けることを理解していないと、この演目をする意味は全くありません。
しかし、この演目で一度ひどい目に遭いました。それはカナダのモントリオールで口演したときのこと。「les gosses」(レ・ゴス)という言葉を使うシーンでした。「レ・ゴス」とは少しやんちゃな子どもを指していう俗語で、フランス語の辞書を引いても出てきません。辞書では「子ども」のことを「Les enfants」(レ・ザンファン)。モントリオールはフランス語圏ですが、同じ言葉でもフランスとは違う意味合いになることがあります。『狸賽』では「クソガキ!」みたいな言い方をするため、あえて「les gosses」を使ったのです。
「les gosses」と言うシーンになると、フランスでは客席から笑いが生まれますが、モントリオールではシーーン。おかしいなと思いながら高座から下りたら、主催者が駆けつけて、「シリルさん、さっき、les gossesを使いましたね。あのLes gossesって言葉、こちらのフランス語では”キンタマ”って意味なんですよ」
なんと! だから客席の空気が冷えた……。けれど、こっちも冷や汗でしたよ。(つづく)
(写真提供:Cyril Coppini)
★シリル・コピーニさんの口演会やイベントの情報はこちら→
https://cyco-o.com/