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美しいくらし
落語はトレビアン! フランス人落語パフォーマー
シリル・コピーニ(尻流複写二)
第9回 漫画好きは落語好き?
 フランス人は日本の漫画が大好きです。毎月100冊ぐらいの日本作品がフランス語に翻訳され、出版されています。その数は英語の翻訳出版より多く、フランスは日本に次ぐ世界第2位の漫画大国なのです。意外でしょう?

 落語をテーマにした漫画もいくつかフランス語で翻訳出版されています。その先がけが『どうらく息子』(尾瀬 あきら著・ ビッグコミックス)で、私が翻訳を担当させてもらいました。日本の初版発行は2011年1月、フランスでは2014年の出版です。
 私が『どうらく息子』を見つけたのは2012年。そのころは全く漫画に興味がなかったのですが、これをフランス語で出版すれば、フランス人に落語を知ってもらえるのではないかと考えたのです。しかし、当時はほとんどの出版社がフランスでは落語の漫画はウケないだろうと躊躇(ちゅうちょ)してしまい、話がうまくいきませんでした。その間いろんなところに営業をかけまして、散々断られていましたが、ある日とある会社から「シリルさんが紹介してくれた落語漫画には興味がないのですが、うちから出している作品を翻訳してほしい」というメールが来ました。さすがに仕事のオファーは断りません。
 その作品とは、あの『名探偵コナン』(青山剛昌著・小学館)。ここから私の漫画翻訳家としてのキャリアが始まりました。これも落語のおかげですね。

 結局、『どうらく息子』の翻訳出版をオッケーしてくれる出版社を見つけるまで2年間もかかってしまいましたが、案の定、フランスでの発売はうまくいきませんでした。失敗したのにはさまざまな理由が考えられますが、もっとも足を引っ張ったのは値段でしょう。フランス語版の1巻は日本語版の2巻分を収録したハードカバーのもので、オリジナル演目のフランス語訳のおまけを付けて1巻およそ5000円! これなら漫画をよく読む若者世代は買わないでしょう。

フランス語版『昭和元禄落語心中』

イベント会場に展示された『あかね噺』のカバー表紙

 次に私が翻訳を担当した漫画は、2010年から日本で出版されていた『昭和元禄落語心中』(雲田はるこ著・講談社)です。たくさんの賞を取ったこの作品は2014年にテレビアニメ化され、フランスでもA.D.N.(アニメ・デジタル・ネットワーク)というストリーミングチャンネルで字幕付きで配信されました。その影響でフランスでも日本の落語が少しずつ知られるようになりましたが、それでも落語の認知度はまだまだ低いまま。ただ私が2016年から落語ツアーをスタートさせたこともあって、徐々に「落語をアニメのおかげで知りました」というお客さまの声が増えてきました。
 そして『どうらく息子』の翻訳出版から7年後の2021年に『昭和元禄落語心中』がフランスで出版されることになりました。日本語版全10巻を2巻ずつまとめたフランス語版全5巻をセット販売したのですが、お手ごろな価格だったことと、すでにアニメ配信されていたこともあり、売上は順調! 出版社も私もホッとひと安心です。これをきっかけに日本の落語がフランス人に浸透し始めました。

 それから2年後の2023年10月に大きな動きがありました。
 『週刊少年ジャンプ』(集英社)の大ヒット落語漫画『あかね噺』(原作/末永裕樹、作画/馬上鷹将)が2022年に翻訳出版されたことを記念して、フランスの出版社が派手な落語のイベントを開催したのです。

『あかね噺』のフランス語版刊行を記念したイベント。多くのファンでにぎわった

 会場はパリで130年の歴史を持つオランピア劇場、ニューヨークでいうカーネギーホールに匹敵するような伝統的なホールです。私もこのイベントに出演し、落語に挑戦してもらったフランス人の人気ユーチューバーに、着物の着付けや、扇子や手ぬぐいの使い方、小噺の指導もしました。当日は『あかね噺』の作者たちが出演したVTRや落語演目の披露、落語クイズなどのさまざまな楽しいコンテンツがライブ配信され、会場は満員の観客1600人が詰めかける大盛況でした。
 このビックイベントの成功を追い風に、今後さらにフランスでの落語の普及が期待できるでしょう。ちなみに『あかね噺』の翻訳担当は私ではありませんが、落語監修として参加しています。(つづく)


(写真提供:Cyril Coppini)

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【シリル・コピーニ】
1973年フランス・ニース生まれ。落語パフォーマー、翻訳家。フランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)で言語学・日本近代文学の修士号を取得。1995 年から1996 年まで長野県松本市信州大学人文学部へ留学。1997年から2021年まで在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に勤務。2011 年から「フランス人落語パフォーマー」としての活動を開始、国内外問わず落語の実演、講演会、ワークショップを積極的に行う。テレビやラジオにも数多く出演。2013年からは漫画やビデオゲームなどの日本のサブカルチャーコンテンツの翻訳と海外への紹介にも取り組んでいる(『名探偵コナン 』『どうらく息子』など)。
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