イラスト:高尾斉
劇評を書く仕事に欠かせない双眼鏡を、なぜかすぐに失くしてしまう……。実はこれで4つ目です。以前は天体観測もできる高性能な機種を使っていましたが、最近は割り切って、軽くてコンパクトなタイプをいつもバッグに入れて持ち歩いています。1000円程度のわりには、左右のピント調整ができて実用的。もう失くさないようにしたいですね。
歌舞伎や能、ミュージカル、バレエなど、仕事のための舞台観賞は月に10公演以上にのぼります。そのため、1回あたりのチケットを安く済ませたくて、座る位置はたいてい舞台から離れた後ろのほう。歌舞伎座だと3階席を選びます。この席のいいところは、価格が手ごろなのでひと月の観劇数が増やせること。見晴らしがよくて舞台全体を見渡せるところも気に入っています。劇評を書くためには、作品をさまざまな視点から見ることが大切。双眼鏡のおかげで舞台のすぐそばで見ているような感覚も味わえます。
観劇中、役者さんの表情やしぐさ、足さばきなどの細やかな動きを確認したい!と思った瞬間が双眼鏡の出番です。例えば、歌舞伎の代表的な演目「仮名手本忠臣蔵」に出演されていた片岡仁左衛門さん。切腹した上司の手から小刀を外そうとして、そのこわばった手を優しく撫でて緩めるしぐさは、愛情が感じられる見事な演技でした。役者さんの何がすごいって、ちょっとしたしぐさや表情だけで何かを感じさせるところ。そこに舞台の力があって、見る者は引き寄せられる。そういう生きている舞台の感動や興奮を皆さんに伝えたくて、私は今日も双眼鏡を握りしめているのです。
(構成:狭間由恵)
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購入はコチラ 【イラストレーター:高尾 斉(たかお・ひとし)】1951年島根県生まれ。Web、PR誌、会員誌、雑誌等などのイラストやデザインを手がける。趣味はベランダガーデニング、下手なフットサル。
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