イラスト:高尾斉
江戸中期の町並みが描かれた江戸全図の復刻版(古地図)を手に入れたのが、約20年前。“古地図で老舗食べ歩き”をテーマにしたカルチャースクールの講座を依頼されたのがきっかけです。江戸時代の文学や文化を研究対象にしているとはいえ、それまで古地図を基点に東京の町の全体像を意識したことはありませんでした。ところが、講座の資料として用意した古地図を片手に実際に歩いてみると、現代の建物が連なる町並みの中にも昔の面影を見つけることがあって、その面白さを実感。これまで文学を通して学んでいた江戸を、人々が暮らした場に目を向けながら、歩いて考証するようになったのです。
江戸の人にとって、この地図は生活に根ざした必需品。現代のスマートフォンの地図アプリと用途はなんら変わりません。当時の地図を利用することで、私たちは現存する道路や水路、お寺、由来する地名など、江戸の人と同じような気持ちでたどることができる。時間層に埋もれた町の歴史や風景が浮かび上がる感覚を味わえるのです。時間旅行の羅針盤がこの古地図。東京という町の成り立ちを教えてくれる道具です。
(構成:狭間由恵)
【イラストレーター:高尾 斉(たかお・ひとし)】1951年島根県生まれ。Web、PR誌、会員誌、雑誌等などのイラストやデザインを手がける。趣味はベランダガーデニング、下手なフットサル。
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