イラスト:高尾 斉
私が専門としている鍼灸(しんきゅう)は、東洋医学の治療法の一つです。患者さんの体に手を当て、そこから伝わってくる微妙な反応(気)を確かめながら治療の仕方を考えていきます。そして、「ここだ!」と思った経穴(つぼ)に、細い治療用の針を打つ。さらにまた、その針先から指の先に伝わってくる気の感触を探り、必要ならもう少し刺激を加えていく。だから、私にとっていちばん大切な仕事道具は、この「手」そのものなんです。
学生時代、薬学を学んでいたときに東洋医学を知り、漢方薬とともに治療の両輪とされる鍼灸に出合いました。仕事をしながら鍼灸を夜学の専門学校で学び、「手」で患者さんから治癒力を引き出す奥深さに、どんどん引き込まれました。
治療に使う針はさまざまあり、長さや太さが微妙に異なります。最初は、とにかく患者さんに治ってほしい一心で、効果が出やすいとされる太目の針を使っていました。でもあるとき、末期のがん患者さんに向き合う中で、体力が落ちているときはほんの小さな刺激がひどくつらく感じるのだと、あらためて思い知ったのです。
どうしたら、その患者さんを少しでも楽にしてあげられるのか。それなら、太さにこだわらずどんな針でも十分な治療効果が出せるよう、自分の「手」を磨いていけばいい――。
そう思って、今日までやってきました。
今ですか? やっと一人ひとりの症状(身体の状態)に合わせて自在に治療ができるようになった……なんて思っているのは自分だけかも? まだまだですけれど(笑)。
私たちは患者さんにとってベストな治療ができるよう、技術を高めていくことを、「手をつくる」と表現します。今は「手ができつつある」といったところでしょうか。鍼灸師としての研鑽は一生続くもの。そういう意味では、これからもずっとこの「手」をつくり続けていこうと思っています。
(構成:白田敦子)
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【東海大学医学部専門診療学系漢方医学】http://kampo.med.u-tokai.ac.jp/【イラストレーター:高尾 斉(たかお・ひとし)】1951年島根県生まれ。Web、PR誌、会員誌、雑誌等などのイラストやデザインを手がける。趣味はベランダガーデニング、下手なフットサル。
[ホームページ]
http://hitpen.net/