
イラスト:高尾 斉
精進料理は、つくるのも食べるのも修行。つくり手は、自然の恵みである素材を生かしておいしく食べてもらえるようにと、不要な音を立てずに一心に料理します。ゴマをするときも、豆腐や木の芽をするときも、気持ちをこめてひたすら集中する。だから、すり鉢は精進料理を象徴する道具なんです。
これはもう20年以上愛用している備前焼。以前、フランス料理の教室を開いていたころ知り合った作家さんに特注したもので、ミゾが深いからよくすれるの。
機能的で優れているのに、おおらかで自分を主張せず、どこに置いてもしっくりなじむ。なにより、使えば使うほどに色合いが深まってくる。「料理の過程が楽しくなければ、おいしいものはつくれない」がモットーで、厨房の道具も気に入ったものでそろえている私でも、こんなにすてきなものを独り占めするのはもったいない。ときには、お客さまの目の前で太い山芋をすってお出しします。それだけで、ごちそうになるでしょう?
精進料理は食べるのも修行のうち。天地の恩恵に感謝しつつ、つくり手の手間や労力を思いやりながらいただくので、なるべく音を立てずに食べます。だから、おしゃべりなんてもってのほか。でもこの時ばかりは別。思いがけない演出に、驚きの歓声が上がるんですよ。
(構成:白田敦子)
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【受け継ぎ、伝える精進料理】では、室町時代より伝わる竹之御所流精進料理後継者として、宮中の雅と禅の心が一体となった尼寺料理ならではの魅力や真髄について語っています。
【三光院のホームページアドレス】http://sankouin.com/【イラストレーター:高尾 斉(たかお・ひとし)】1951年島根県生まれ。Web、PR誌、会員誌、雑誌等などのイラストやデザインを手がける。趣味はベランダガーデニング、下手なフットサル。
[ホームページ]
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