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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
最終回 小平新文化住宅を建てる際に手本とした大正・昭和の家② 淺井カヨ
 東京都小金井市の「江戸東京たてもの園」も何度か通つた場所の一つである。園内で建物の寫眞を撮り、その寫眞を帖面に貼つて細かい部分なども參考にした。この冩眞を切り貼りした帖面は、工務店探しの説明の際にも使用した。
 「よこはま洋館付き住宅を考える会」が企画、編集をされた『洋館付き住宅の魅力がわかる本』を、ご縁のあつた方より戴き、よく持ち歩いた。また、當時の住宅資料を數多く持つ友人宅へ訪れて、藏書を見せて貰つたこともある。

 一番參考にならなかつた本は、本屋で見かける新築住宅の雜誌だつた。大體は、建築家の某(甘木ともいふ)先生による作品、またはハウスメーカーによる家が多數だつた。現代の住宅雜誌は、片つ端から頁をめくつて見たが違和感ばかりであつた。
 我々が求める家を現代の住宅雜誌から見つけることは不可能だつた。他人が作りたい家と我々が作りたい家は全く違ふのだといふことを、これほど實感として分かつたことはない。これは、家だけの問題ではない。洋裝も身近に使用する道具も、何もかも自分でこれと思つた物以外は使用しない。 何か一點(いつてん)だけに力を入れて、他のことには何ら興味を持たないといふ生き方には賛成しかねる。
 全ての事物を先ずは自分で選びたいと思ふ。1つのことだけに打ち込んで他のことを全く知らないのでは、本末顛倒だ。歴史上の天才は例外だが、ありとあらゆることに興味を持つて、何事にも面白がれる視點がなければ、人生は面白くない。

 さて、一番參考になつた本は大正から昭和初期にかけて發行された住宅の本である。一字一句逃さない樣に内容をしつかり頭に入れながら讀んだ本もあるが、頁をめくつて眺めただけの本もあり、樣々である。特に印象に殘つた本について記したい。

 大正10年(1921)11月に住宅改良會により發行された『住宅』といふ雜誌には「文化住宅號」と書かれてゐる。 紙面にて冩眞と共に紹介されてゐる「三橋友之助氏別莊」では「日本屋」と「洋風家屋」が紹介されてゐる。和洋折衷の家で、關東大震災前のことである。

 『住みよき小住宅の設計』昭和5(1930)年發行(私は昭和8年の三版を所持)の著者は笹治庄次郎である。
 「家として、是非とも備へなければならぬ大切な要件」としては、「便利であること/衞生的であること/經濟的であること/住み心地がよいこと」が書かれてゐる。現代の一般人が見ても至極わかりやすい内容である。
 また内裝等の具體的な話だけでなく、工事に關する心得のやうなことも懇切叮嚀に書かれてゐる。注意事項の中には、「契約に就てー契約事項は何でも書留めておく/見積書よりも仕樣書を細かく書かせる」、「工事中に於ける注意事項」の中には、「大工になめられぬこと/金を渡し過ぎぬことーお金の拂ひ方」など多岐に渡る。
 今も昔も、惡徳業者はゐるのだ。それらをいかに囘避するかといふことも細かく書かれてゐる。

 もう1册も、昭和5(1930)年發行で『實用科學 朝日家庭叢書 住の卷』(朝日新聞社發行)である。「住宅を建てる時の注意」から始まつて、土地に就いて、部屋に就いて、建築材料のこと、室内に置く調度品、電化製品(眞空掃除機、床磨機、他)のこと、愛翫(あいぐあん)動物(即ちペット)の犬の種類まで、細かく解説されてゐる。ちなみに「床磨機」(しやうまき)は「小型モートルでブラシ或はバツド等を廻轉し、リノリユーム、板張り、タイル張り、人造石等の床を磨く機械」と書かれてゐた。
 値段は、當時の價格で二百圓から四百圓位といふことなのでかなり高價である。昭和5(1930)年は、しる粉が15錢であつた。(しる粉の價格は『値段の明治大正昭和風俗史』週刊朝日編・朝日新聞社を參考にした。)

 昭和8(1933)年工業書院發行の『日本住宅建築圖案百種』(工學博士伊東忠太校閲、金子清吉著)もよく開いた。
 立面圖(づ)と説明が小さな家から大きな家まで百圖、一圖毎に等級(甲乙丙)と摘要が記され、壹坪單價(たんか)まで具體的に金額が書かれてゐる。第一圖の丙が小計七百三十五圓で、六疉、二疉、押入、臺所、土間だけの小さな家である。第百圖の甲が金三萬五千三百十七圓八十錢といふのだから大變な差である。こちらは部屋數が多すぎて省略する。
 卷末には雜作圖案も掲載されてゐる。これは間取を眺めてゐるだけで愉快である。この樣な本も小平新文化住宅を建てる際によく讀んでゐた。

 その他にも『文化住宅 三百圓の家』(菅野弓一著/大正12年6月發行/森本書院)も印象に殘り、婦人雜誌などに時々掲載されてゐる「家」に關する資料もひたすら讀んだ。住宅に關する當時の本は、家を建てた今も讀み續けてゐる。

撮影:岸本陸一

 家を建てる際に手本にした大正・昭和の家は、これまでに暮らした家、當時の實物や本、再現された家など、樣々なことを參考にした。その樣に建てた家であるから、毎月日程を決めて一般公開をすることを二人で決めた。應接室で有料の蓄音器鑑賞会、そして建物紹介をする。
 平成28(2016)年10月に東京都小平市内に完成した小平新文化住宅は、翌年の1月より豫約制の一般公開を開始し、夏季は休業、春と秋冬は開催してゐる。平成30年現在も公開を續行してをり、多くの方々が訪れてゐる。
 市井の文化住宅が姿を消す昨今、さゝやかながら我々の文化住宅の歴史は始まつたばかりなのである。(終り)

(寫眞提供:淺井カヨ)

――編集部から
 大正から昭和初期に流行した和洋折衷の「文化住宅」を、平成の世に新築した日本モダンガール協會・淺井カヨさんと音楽史研究家・郡修彦さんご夫婦。その顛末記を交代で綴ってもらったこの連載も、今回で最終回となりました。とはいえカヨさんも書いているとおり、二人の新居「小平新文化住宅」の歴史は始まったばかりです。今後、この文化住宅がどのように歴史を積み重ねていくのか、引き続き注目していきたいと思っています。


【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp
【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/


 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。
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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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