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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第5回 各部屋の調度品④(玄關、居間、浴室、脱衣所) 淺井カヨ 

 玄關は家の顏であり多くの物を置かないことが基本だが、下駄箱の上にある花瓶の植物は決して絶やさないことにしてゐる。玄關をはじめ樣々な場所に植物を飾ることによつて、良い環境を自分で作り出すといふ氣持ちが生まれる。それは美しい生活には缺かせないことだ。
 植物が生き生きしてゐる空間であれば、惡い環境ではなく、その状態によつて自分の住環境を常に知ることが出來る。地元の農産物と季節の花が一緒に賣られてゐる店でいつも植物を入手して飾る。花瓶の横には鏡を置いて、自分の状態も常に鏡で見ることにしてゐる。

 その隣にはダイヤル式の黒電話を置いてゐる。この黒電話は、昭和8年以降に使用された3號電話機である。これは古道具屋で入手した際には壞れてゐて使用が出來なかつたが、修理店に出して完動品となつた。3號電話機はベルの音がけたゝましくなく耳に心地良い。携帶電話やスマートフォンは不所持で私は専ら黒電話のみであるが、パーソナルコンピューターでインターネットが出來るので 通信で困ることはない。停電になつても、電話線のみで使用が出來ることは心強い。

 下駄箱の靴は全て爪先を手前に置く。その方が見た目が美しいからである。引戸の正面に一つ家具を置いてゐるが、これは郡修彦の祖父の從兄である郡虎彦(白樺派の作家)が、大正時代に使用してゐた本棚である。一つ一つの物に神經を尖らせて、なんとなく物を置くことは一切してゐない。

 照明には、昭和初期の硝子の電笠を使用してゐるが、配線については新品とし、天井には陶器製の白い菊型のシーリングローゼットを取り附けてゐる。これは、瀬戸市(愛知)の青山電陶株式会社に「大正ロマンシリーズ」といふ新品を見つけて贖入した。
 和玄關の奧にある階段の内裝は洋であるが、階段の照明には秋葉原の八木電器商会で新品の和の電笠を贖入した。昔の風情を持つ新品の電笠が幾つも有つたが、惜しくも平成29年に閉店してしまつた。

 居間には、空氣の淨化に炭を置いてゐる。卓袱臺(ちゃぶだい)は私の祖父母が使用した物で、中央部分が丸く取り外せる樣になつてゐる。火鉢は大正時代から郡家で使用した物であるが、物置に50年ほど入つてゐた。小平新文化住宅の完成前に、假住居の浴室で龜の子束子を使用して洗ひ上げ、新品の灰とくぬぎ炭を入手して50年振りに使用してゐる。
 柱時計は、昭和4年に淺井家で新調した物で、祖父母が結婚の年に贖入してゐる。私は幼少の頃、この柱時計を時々見てゐた。そして、この柱時計を見るたびに、何か掻き立てられるやうな憧れを感じた。衣紋掛けと鏡臺は、代々木上原の文化住宅が解體される際に入手出來た物である。桐箪笥は郡の祖母が昭和5年から使用してゐた。居間にある物は、受け繼いだ物ばかりである。

 浴室には、輕石と小さな鏡と石鹸置き(これは陶器製と金屬製を使用)を置いてゐる。また、洗髮用に液體石鹸を入れる硝子容器を使用してゐる。風呂椅子と桶は檜である。浴室にプラスチック製品は一つもない。

 脱衣所には、日本堤(東京)にかつて存在した「廿世紀浴場」(昭和4年建築)が平成19年に閉店した際に戴いた大きな脱衣カゴと、一人暮らしをした際に新品で贖入した小さな脱衣カゴが置いてある。バケツは大正12年創業の渡辺金属工業株式会社が作つてゐる「大正バケツ」を使用してゐる。古い物だけではなく、良いと思つたら、新品も多く取り入れたい。昔ながらの良い物を作り續けてゐる企業を応援したい氣持ちが大きいのだ。

 齒刷子は木の枝が使用された物をなるべく使用したいのだが、プラスチックに比べると高價な爲、時々の使用となつてゐる。石鹸煉齒磨きと粉齒磨と、時々は茄子の黒燒きも愛用してゐる。

 私が家の調度品を置く際に氣をつけてゐることは、物を置くことによつて「空氣が澱まないか」といふことに盡きる。ここでいふ空氣とは、物質としての空氣だけでなく「氣」も含んでゐる。家は無機質であつたり、殺風景であつてはならないと思ふ。安らげて、呼吸が樂で、落ち着き、靜かで、氣が休まる場所であつて欲しい。それを目指してゐる。
 ある場所へ出掛けて、空氣が重い、居心地が惡い、身體が重いなどと感じることがあるが、 それらの感覺を家に持ち込まない樣に、家の空氣に關していつも注意をしてゐる。その爲に、調度品について自分なりに吟味してゐるのだ。心地良く、違和感のない空間を作ることが必要である。
※次回(2月下旬更新予定)は郡修彦さんのエッセイをお届けします。

(寫眞提供:淺井カヨ)

【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp
【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。

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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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