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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第6回 工務店選択の記④ 郡 修彦
 7月18日の打合せは仮契約後初めてのもので、工務店社長による主張が中心となり、応接室窓枠の木製は防水の点から不可能と却下されるが、実は既成の出窓一式流用の為の方便。和室仕様の書庫は樹脂壁紙による簡易洋室、脱衣所と風呂場の窓は建売住宅用の小窓流用の為に当方の要求の大窓を勝手に変更しており、「戦前は小窓が主流で、大窓は戦後です」と言うに到りては膨大な住宅建築を見て来た我々の前でよくも平然と虚言を吐くと呆れ、信用出来兼ねる人物との印象が加速した。
 風呂場入口の木製戸も、建売住宅用資材流用の為に防水が不完全との詭弁でアルミ製を強要。更には和室の聚楽壁は技術的不可能を隠蔽する為に、予算内にて霧除けと本棚を作るべく聚楽風の樹脂壁紙に変更して差額を充てる方式を提唱される。

 7月25日の打合せは初めて工務店本社にて行われたが、私鉄高架線下のプレハブ系簡易建築には新建材臭が充満し、電車通過の振動と騒音が頻繁に生ずる環境であり、この工務店の有り方を如実に示していると言わざるを得ない立地と構造であった。
 2時半から6時迄の打合せは、悲願の文化住宅の建設の為に幾多の案を提唱する当方と、建売住宅用の資材流用を最大限に行うべく詭弁と虚偽を繰り返す社長との攻防に終始した。その一例が、四畳半の書斎である。ここはオーディオ機材設置の都合から畳3畳の板張り1畳半とし、壁との部分には幅木を設置せず部屋を広く使用出来る「畳寄せ」を注文するも、床板の端は「幅木」か「雑巾摺」以外は有り得ずと社長は繰り返し、最後には「あんたは日本建築を知らない!」と怒鳴るのには立腹する。
 日本建築を知らないのは社長の方であり、昭和50年に西荻窪に新築した実家6畳和室の1畳板張り端の「畳寄せ」を見ての注文を頭ごなしに否定する態度に、我々が希望する住宅の新築は不可能と痛感した。最終的に新居を依頼した工務店では「畳寄せ」を注文すると「部屋が広く使用出来ます」と直ちに快諾してくれた事を申し添えておく。

 また、和室の天井の仕様も長い板を貼る「目透天井」が高級仕様で、細かい板と角柱を用いる「竿縁天井」が標準仕様で有る事を社長は全く知らず、我々が「竿縁天井」仕様を依頼する度に「御代官様の御屋敷」と繰返し揶揄し続けた。
 木材を使用しない樹脂天井紙では、石膏板や合板の下に木目模様の天井紙を貼る「目透天井もどき」の方が、天井紙の下に角柱を取り付ける「竿縁天井もどき」よりも安直に作り得る故に、現代工法では「竿縁天井もどき」が「御代官様の御屋敷」となる訳である。和室部分は全て「竿縁天井もどき」仕様にて妥協すると、今度は面倒を省く為に「目透天井もどき」を強要し、特に寝室は「寝てまで天井は見ない」と一方的に変更された。

 脱衣所も、内壁の洗面台への配管設備を設置する技術を有していない為に外壁部分への設置を強要され、当初の計画とは全く異なる使い勝手の悪い配置となった。風呂場入口はアルミ製引き戸にて妥協するも内開き戸に変更されており、不審に思い型録に目を通すと現行品として存在する事が判明し引き戸に戻す。この件にて社長は当方の仕様書や注文には一切耳を貸さず、型録にての検討もせず、建売住宅用資材の流用に徹している事に遅ればせながら気が付いた次第であり、この一件が私の中で燻っていた不信を決定的なものへと後押しした。

 応接室と夫人室の床は無垢板にペンキ塗装の仕様であるが、現在では無塗装か透明塗料仕上げであり、ペンキ塗装仕様ならば合板との理解し兼ねる仕様を強要されるも、無垢板にペンキ塗装の技術を有しておらず、建売住宅用の塗装済合板を流用する為の手の込んだ詭弁であった。
 応接室と夫人室入口の戸は木製の注文品仕様であるが、こちらも建売住宅用資材を流用せしめるべく、先ずは注文品は非常に高価で予算を超える故に既製品からと型録を示されるも選択肢は一種三色のみであり、余りの少なさに他社や他種をと私が問うに、他は全て高額か取り引き無しと返される。そこで、前述の一種三色は希望外であり、何れ希望の注文品が発注し得る状況になるまでの当座として、現住居の戸を移設するか合板の仮設戸を設置する案を提唱するや、飽く迄も売住宅用資材を流用せんとの社長は移設も仮設戸の何れも高価との説明にすらならない詭弁を弄するのには不信を募らせるばかりであった。

 そして、打合せの最後に社長が「これを文化住宅と言うのか」と小声で言うのを聴くに及び、全く何も判らずに単に金儲けの為に引き受け、当方の注文を一切無視して建売住宅用資材の流用で間に合わせる安直方式で対応し得ると判断した事が露呈した。社長はおそらく関西方面限定使用の廉価集合住宅を意味する「文化住宅」しか知らずに引き受けしとの手の内すら、当方は御見通しであった。かくして当日の打合にて私の不信は限界へと達し、更には費用の明細を提出せず材料費や工賃が不明であり、基礎部分の仕様が一切説明されない点も通常の建築過程からするとあり得ない進行であった。

 次回の打合せまでに方針を定めるべく婚約者と相談するに、折原女史に仲介を依頼して戸と床は何れ更新するか塗装せしめる旨を正直に説明すれば必ずや理解されると言われ、それよりも完成後に手を加えれば良く当座用との説明による手の内を明かす必要は無しと私は主張して対立した。(つづく)


【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/
【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。

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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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