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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第3回 昭和モダンの家を建てようと思つた理由 その2㊦  淺井カヨ

 この小さな一軒家で一人で生活を始めてから、生活は大正、昭和を加速して追ひ掛ける樣になつた。窓は全て木枠だつた。私が生まれ育つた青い屋根の家も木枠だつたので、懐かしかつた。當時の物を取り入れる樣になつたのは、家の近所にあつた「ちゅうぶる道具風天」といふ古道具屋の存在が大きい。國道16號沿に何やら怪しげな古道具屋を見つけたのだ。  
 髭を生やした50代の店主が居て、店を覗くと大正、昭和初期の古道具、奧の方には明治や江戸の骨董品もあつた。置物や壺など、かなり高價な物もあつたが、私が欲しい物は、生活に使用する大正や昭和初期の古道具で、それらはその店ではあまり賣れてゐない樣であつた。この古道具屋は解體屋をしてゐて、建築解體の際に引き取つた骨董品や古道具も店に並べてるゐた樣に記憶する。
 私に賣つてゐた物は市場で買ひ附けた物ではなく、解體の際に入手された物だつたのだらう。店主に値段を尋ねると、私が値段を決めて良いと言ふのだ。あまり安くし過ぎては惡いので、千圓か二千圓といふことが多かつた。古道具屋の建物の外には、いつもたくさんの物が溢れ却つてゐた。外にはガラクタが主に置かれてゐた。それらは私にとつて寶物だつた。

 古い物を見つけては贖入して家で試した。扉の附いた古い木の箱があり、それは千圓や二千圓では買へない物だつた。店主は七千圓で賣りたいと言ふ。昭和30年代に作られた氷の冷藏庫だつた。私が使用した初めての氷の冷藏庫である。他にも、硝子製の大きな「浮き」、陶器の湯丹保、卓上蓄音器、手あぶり(火鉢)、棚など、多くの古道具を 入手した。川越にも親しい古道具屋があり、そこにもよく出掛けた。
 狭山市「ちゅうぶる道具風天」の店主は、十錢や五錢の紙幣の束をおそらく解體の際に見つけたのか、私に差し出し「淺井さん、今月の愛人料いる?」と聞いた。モチ論、愛人ではない。一度には渡さず「殘りは來月ね」。少し店に行けないと「淺井さん、暫く來ないから愛人料たまつちやつたよ」10錢紙幣が42枚、5錢紙幣が9枚、50錢紙幣が9枚あつた。店主はいつも私をからかつて居た。

大正10年に建てられた西荻窪の洋館
 小さな一軒家の4疉半の壁には、ウィリアム・モリスの壁紙を前面に貼り附けた。樣々な檸檬や柘榴などの果實が描かれた壁紙だつた。壁紙を取り扱つてゐる店を探して、川越まで出掛けた記憶がある。昭和30年代の家は、2年暮らして引越した。退去する際に、壁紙を剥がしたら、壁が剥がれてしまつたので、管理會社に怒られた。しかし、殆どが壞れてゐる家だつた。

 引越を決めたのは、大正時代の洋館を間借り出來る場所があると、友人から紹介されたからである。大正10年に建てられた洋館だつた。それで、東京・西荻窪へ引越ししたのだ。住宅補修の仕事はやめて、西荻窪で店員や事務員をする樣になつた。
 洋館と言へば、瀟洒な雰圍氣があるが、實際は前の住民が置いて行つた荷物などが溜まり、大變なことになつてゐた。最初の數ケ月は、掃除ばかりしてゐた。自室は憧れのマントルピースがあり、夢のやうな部屋だつた。3年4ヶ月、その洋館に暮らした後、立ち退きと解體となり、近くにある昭和初期のアパートへ引越したのである。

 3年前の春に、埼玉縣狹山市の國道16號沿の「ちゅうぶる道具風天」を訪れたが、もうその店は跡形も無かつた。しかしこれまでの經驗は全て、小平新文化住宅を建てるまでに必要な過程となつたのだ。

(寫眞提供:淺井カヨ)
※次回(12月上旬更新予定)は郡修彦さんのエッセイをお届けします。

【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp
【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。
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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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