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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第5回 各部屋の調度品② 應接室  淺井カヨ
 應接室に設置する洋風の照明器具は、現行品で當時(たうじ)の雰圍氣を持つ物を探すと決めて、樣々な店を探し歩いた。しかし、應接室の雰圍氣に合ふ照明器具を現行品で探すことは非常に困難であつた。現代の照明器具を幾ら探しても、小平新文化住宅の洋館に合ふ風情の物がどうしても見つからなかつたのである。
 當時風に復刻された洋風の照明器具は、素材や比率、製造工程が異なることが多く、どうしても現代風に見えて仕方がなかつた。 郡と二人で、最新の照明器具を取り扱つてゐる大きな展示場に出掛けたら、照明を探すどころか展示場内で息が苦しくなり、シックハウス症候群の症状が出てその場所に長く居られなくなつてしまつたこともあつた。

 そこで、現行品だけではなく骨董品も視野に入れて探したところ、ある骨董屋に入荷してゐた1920年代の佛蘭西(フランス)製の照明器具が、大きさ、風情、質感など、正に理想形であつた。初めて見た時に「これだ」と思つた。どんなことでも、最初の印象は重要である。
 この照明器具は、ガラスや金屬部分は當時と同じで、内部は取り替へてあつたが表面の汚れが目立つた。贖入した際に、中を再調整するために時間が必要だと店員がいふので、その間に外側もなるべくきれいに磨いて欲しいと頼んだが、受け渡しの際に、思つたよりも綺麗な状態にはなつてゐなかつた。そこで、自分でガラスや金屬を磨きやすい樣に一度外して、時間を戻す積もりになつて、ガラスは洗浄し、金屬は研磨劑で丹念に磨いた。照明器具は實用(じつよう)のために贖入してゐるので、なるべく經年(けいねん)の汚れを落として綺麗な状態で使用したかつた。時間をかけてじつくり磨いたので、かなり良い状態となつた。

 照明器具の他に、私が用意した物は、名古屋の實家(じつか)から運んだYAMAHA製のピアノである。大正や昭和初期のピアノではないが、母が生前に大切にしてゐたピアノで、私も小學生から高校生まで彈いてゐたので愛着があるのだ。 長年、郷里で其の儘(そのまゝ)になつてゐたピアノだつたので、小平新文化住宅へ運んでから本格的な調律を依頼し、その後に目出度く應接室でピアノコンサートが出來る状態となつた。

 化學纖維ではない天鵞絨(ビロード)のやうな生地のカバーを探すことも一苦勞だつた。店頭では全く見つからなかつた。ある老舖のピアノ販賣所では、ピアノの天鵞絨風のカバーは 全てポリエステル100%しかなかつた。探した舉句、やつと天然纖維だけで作るといふピアノカバーが見つかつた。受注生産で少し時間がかかつた。
 既製品のポリエステルのカバーの方が、受注生産のカバーよりも安價である。しかしその時に「安い」といふだけの理由で、本當に欲しいものを諦めてしまふのなら、私はカバー自體(じたい)を買はないだらう。自分が本當に氣に入つた物でなく、何となくあつた物を取り入れて生活することは出來ない。自ら選ぶことが出來る時代である。氣に入つた物が見つからないといふ理由で、自室の屑入れは長年紙袋で代用してゐる。理想の屑入れが未だに見つからないからである。

 應接室の絨毯も、絨毯と書かれてゐる店には兔に角入つて探して見た。安價でも化學纖維の絨毯は、贖入しないことに決めてゐた。結局、郡が偶然に百貨店で見つけた、白耳義(ベルギー)製の絨毯が最も應接室に合ひ、それに落ち着いた。
 中央の丸卓子は、昭和4年に建てられた代々木上原(東京)の「舊(きう)中村邸」といふ邸宅(平成28年末に老朽化により解體)より讓り受けた物で、重くしつかりとした丸卓子である。

 部屋内には少し飾りもしてゐて、昭和6年のロイヤルコペンハーゲンの「母と子」といふ皿は、後ろ向きの母と子が描かれてゐるが、髮型も服裝も當時の特徴が出てゐて氣に入つてゐる品である。應接室に飾つてゐる物はこの皿の他に數點(すうてん)のみで、應接室に物を飾る場合は數を嚴選して、決してごちやごちやに置かないことが鐵則である。(つづく)

(寫眞提供:淺井カヨ)

【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp
【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。
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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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