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美しいくらし
昭和モダンの家を建てる 日本モダンガール協會 × 音楽史研究家
淺井カヨ × 郡 修彦
第5回 各部屋の調度品③夫人室 

撮影:淺井カヨ
 2階は洋間(夫人室)が一部屋だけで、ここは私の書齋であり、これまでに蒐集した大正から昭和初期の洋裝、小物、古道具、骨董、古本などが所狹しと並んでゐる。天井は2メートル70センチで、私にとつては寶箱のやうな部屋である。

 2階への階段を上つて初めてその部屋を案内すると、思はず聲を出して驚かれることが多い。入口には、解體された或る舊家(きうか)から入手出來た引戸があり、意匠の比率が美しい。2階南の窓からは、いつも洋館の屋根を見下ろすことが出來る。引戸を開けて部屋を見渡すと最初に目に入るのが、加奈陀在住の日本人畫家が油彩で描いた私の肖像畫だ。

 他にも、幾つかの古時計や、1920年代の帽子を被つたマネキン、同時代の洋裝を纏つたトルソー、樣々な旅行鞄、薔薇柄のステンドグラスの照明器具、本を讀む爲に使用する昭和初期の脚立、昭和6年に映畫『モロッコ』が日本で公開された際に映畫館に貼られてゐたポスター、大正時代の空瓶、硝子製の大きな「浮き」、丸卓子、チュニジアの鳥カゴ、埃及(エジプト)の燭臺、各國の土産品などがある。自分の部屋は、何處かよく分からない場所にしたいと常々思つてゐるのだ。

 引出などの木製家具の多くは、父が定年後に郷里の自宅の一部を工房にして製作した物で、父が元氣な頃には、寸法を指定して幾つかの家具を作つて貰つたが、父が他界した後、郷里に多くの自作家具を遺したので、それを引き繼ぎ使用してゐる。祖父が使用してゐた大正の家具や、骨董屋で入手した家具もあるが、自作の家具が多く、小平新文化住宅の其處彼處(そこかしこ)に引出などを置いてゐる。

撮影:淺井カヨ

撮影:淺井カヨ





 私が生まれてから高校卒業まで暮らした「青い屋根の家」には、獨立した自分の部屋が無かつた。私がゐた部屋は別の部屋への途中にあつたので、幼少の頃から自分の部屋を持つことに大きな憧れがあつた。

撮影:永田まさお
  2階天井の中央にあるメダリオンは、澤山の意匠から一等好きな薔薇柄を選んだ。メダリオンの下には、同じく薔薇のアール・デコの照明(1920年代の佛蘭西製)を骨董屋で入手して設置した。形、色、素材などで氣に入つた物、自分の美意識だけで選んだ物、見てゐるだけで氣持ちが落ち着くやうな物、特に好きな物だけを傍に置くことにしてゐる。それらを集めてゐたら、木製品や籐製品、金屬、硝子、布、革など、昔からある素材ばかりになつた。

 「自分の基準」に合格した物を蒐集したら、いつの間にか大正、昭和初期に關する物が多く集まつたのだ。この部屋は、夏は芝浦製作所の扇風機、冬は火鉢とゴールドフレームの石油ストーブのみである(ゴールドフレームは、日本船燈株式会社が作つてゐる石油ストーブである)。現代の製品には、安全の爲に多くのシールが貼られてゐる。シールは全て外して取扱説明書の空いた所に貼つて、見ることにしてゐる。因に自室にクーラーを設置しなかつた一番の理由は、今賣られてゐる電氣製品に、どうしても理想の形が見つからなかつたことが大きい(猛暑の時は、涼しい場所やカフヱーへ逃避してゐる)。

 部屋は白漆喰の壁を除いて、床、天井など殆どが褐色のペンキ一色で塗られてゐる。いつか自分の部屋を作る際には、天井は黒か褐色にしたいと思つてゐた。大學時代に、自分の髮と同じ樣な色に塗られた天井の下にゐると、落ち着くのだと云ふ話を聞いて、とても印象に殘つてゐたからである。それ以來、自分が落ち着く空間にゐる時には、どんな色が天井に塗られてゐるのかを觀察する樣になつた。學生時代からずつと天井を見て、最も落ち着く色は、いつも暗い色だつたのである。

撮影:永田まさお
 洋室部分で使用した褐色は、東京都国立市にかつて存在した舊高田義一郎邸(以下、高田邸)の室内に塗られてゐたペンキの色と同じ色を指定した。高田邸は、昭和4年に建てられて、平成27年に解體された和洋折衷の文化住宅である。
 醫師であり、昭和初期に著名な文筆家であつた高田義一郎の本は、ずつと愛讀してゐた。高田邸が解體された後に、2階書齋の窓を入手することが出來て、この窓を再生してどの樣に生かすか、と云ふことがあつて出來た部屋が小平新文化住宅の2階の夫人室である。

 窓は大きく、晝間は明るい部屋であるが、夜は照明をかなり暗くしてゐる。夜は、自室をそんなに明るくしなくても良いのではないかと思ふ。自室を夜に暗くする樣になつてから、私は眠りにつきやすくなつた。然し乍らパーソナル・コンピューターと周邊機器は、最新の物を所持してゐる。部屋の雰圍氣に全く合はないので、パーソナル・コンピューターは、ペンキの褐色と殆ど同色の革製のカバーを探してそれを掛けて使用してゐる。プリンターは、褐色の機種を探して入手した。しかし素材は氣になるので、使用する時以外は布のカバーを掛けてゐる。
 これらのことは決して面倒なことではなく、自分が最も心地良い場所を目指す課程に過ぎないのである。(つづく)


【日本モダンガール協會の「週刊モガ」】
http://moderngirlkayo.blog.shinobi.jp
【郡修彦東奔西走記】
http://blog.livedoor.jp/kohri0705/

 結婚を機に、大正から昭和にかけて建てられた和洋折衷住宅の新築を計画した淺井カヨさんと郡修彦さんご夫婦。新居となる「小平新文化住宅」を昨秋完成させました。古きよき時代の家を現代によみがえらせた家づくり秘話を語る、日本モダンガール協會・淺井カヨさんのインタビュー「ようこそ、小平新文化住宅へ」はコチラをご覧ください。

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【あさい・かよ × こおり・はるひこ】
◆淺井カヨ◆大正65年(昭和51年)名古屋市生まれ。平成19年に日本モダンガール協會を設立。大正末期から昭和初期を生きた日本のモダンガールと、その時代の調査や研究、講演を行うだけでなく、ファッションから生活様式まで当時のスタイルを追求し実践する。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)がある。
◆郡 修彦◆昭和37年東京都生まれ。音楽史研究家。拓殖大学大学院修了(修士)。作曲家・音楽評論家の故・森一也氏に師事。SPレコード時代の音楽史を一次資料の徹底した調査により解明し、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表。SPレコードの再生・復刻で世界最高水準の技量を有し、200枚以上を世に送り出した。企画・構成・復刻を手がけた『SP音源復刻盤 信時潔作品集成』で文化庁芸術祭大賞を受賞。
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