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美しいくらし
南仏の食卓だより12カ月 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
11月 バターよりオリーブオイル

ルノワールが愛して描き続けた自宅の庭のオリーブの木

コート・ダジュールやプロヴァンスを巡ると、至るところでオリーブの木を見かけます。カーニュ・シュール・メールにあるルノワール美術館の庭には、ルノワールが伐採から救った150本もの古木がありますし、建築家ル・コルビュジエが住んでいたロクブリュヌ村では、樹齢約2000年の「世界一古い」といわれる巨木が訪れる人を出迎えてくれます。
南仏にオリーブの栽培文化が根づいたのは2000年以上も前のこと。約6000年前にはトルコやシリア周辺ですでにオリーブの収穫が行われていましたが、その後、ギリシャ人によって、現在のイタリアやニース、アンティーブ、マルセイユといったフランス南部にオリーブの栽培文化がもたらされたそうです。
オリーブの収穫は10月末から3月まで。夏から実が少しずつ大きくなり、10月になると色が黒くなってきます。お天気が心配なので早めに収穫する人もいますが、まだ熟していない青い実だとオリーブオイルはたくさん取れません。じっくり待つほどたくさんのオイルが取れるようになるので、2月まで待つのが理想的です。

オリーブの栽培が盛んな南仏のキッチンには、オリーブオイルが欠かせません。ワインヴィネガーとオリーブオイルと塩はドレッシングのメイン材料ですし、ニース料理のレシピに「オイル」と書いてあったら、これはもちろんオリーブオイルのことです。ママン(母)のキッチンでもオリーブオイルは必需品。南仏料理にバターはあまり使わないのです。
これは、南仏の温暖な気候や急峻な地形が牛を育てるには向いていないため。南仏では昔から牛ではなくヤギを育ててきたのでヤギのチーズは作りますが、牛がいないのでバターは作れません。そのため、バターはタルトやキッシュの生地を作るのに使う程度です。一般的に、南仏の人は有塩バターにそれほどこだわりがありませんが、ママンも同様で、タルトなどのデザート生地を作る際にも無塩バターを使います。私は時々ですが朝食のパンに有塩バターを塗るのが好きで、冷蔵庫には逆に有塩バターしか入っていません。

最近人気が出ている香り付きのオリーブオイル

南仏料理に欠かせない存在ともいえるオリーブですが、産地によってかなり個性があり、実のサイズだけでなく味や香りも違います。ニースのオリーブはcailletier(カイユティエ)といって、とても小さくてアーティチョークの香りがします。少しクセが強いので、それが苦手な人は別の産地の、もう少しまろやかな優しいオイルを選ぶのがいいでしょう。
スーパーで売っているオリーブオイルは多種多様。イタリア産やスペイン産、チュニジア産が多く、値段も1リットル10ユーロ前後とお手ごろなものが多いですが、大量生産なので残念ながら味はそれほどおいしくありません。

こだわりがあれば生産者から直接買うのがいちばんでしょう。ニース市内で手軽に買えるのが、老舗のオリーブショップ「ALZIARI(アルジアリ)」です。旧市街にあるこの店は数年前から自社でオリーブの木を育てていて、ニース産のオリーブオイルも販売しています。青い缶や赤い缶はイタリア産やスペイン産で、白い缶がニース産。数が限られているので数カ月で完売してしまいますが、香りが全く違います。
マルシェかニース周辺の小さな町に行けば、生産者が直接販売するオリーブオイルを手に入れるチャンスもあります。小さなスプーンで試食のできるので、自分の好みのオリーブオイルを選ぶことができます。最近流行っているのが香り付きのオリーブオイル。レモン、バジル、トリュフなどいろんな香りがあって、食卓が華やかになります。

マルシェではさまざまなオリーブが売られている

私はオリーブオイルの味にはこだわりがありませんが、産地に関してはうるさいです。選ぶなら、やっぱりフランス産! イタリア産やイタリア産はどんな種類のオリーブを使っているのか、どのように作られているかはっきり書いていないのに、意外といい値段がするのがちょっと嫌なのです。
そのため、できるだけ生産者から直接買いますが、1リットル15ユーロ以上はしますね。しかも最近は異常気象によって水不足だったり、雹(ひょう)が降ったり、害虫が出たりして、オリーブが取れない年が続きました。南仏産や北イタリア産が収穫できない年は、他の国のオリーブがどんどん値上がりするので大変です。
いちばんうれしいのが、知人や友人が作ったオリーブオイルを手に入れること。父の幼なじみのフランソワは毎年、彼のおじいさんが100年以上前に植えたオリーブの木の実を収穫していて、それを昔ながらのムーラン(搾油工房)に持って行ってオリーブオイルを作り、必ず数本プレゼントしてくれます。

10代のときにアルバイトをしていたアンセルムおじさんのオリーブオイルもおいしかったですね。トマト、ズッキーニ、ジャガイモ、サクランボなどを自分の畑で育てて販売していましたが、オリーブの木も持っていました。毎年11月から1月の間に熟成したオリーブを収穫し、イタリア生まれのアンセルムは国境の近くのムーランに持っていって、毎年数百リットルのオリーブオイルを作っていました。
出来上がったオリーブオイルは環境保護のため、毎年知り合いから集めていた緑色をしたペリエの1リットルのガラスボトルに入れ、毎週マルシェで販売していました。自家製のためラベルのない緑色のガラスボトルを信用して、常連客が夏の間に1年分を大量に購入し、愛用していたアンセルムおじさんのオリーブオイル。私もアルバイトをしていた間は何年間も分けてもらいました。

「今年のオリーブオイルはどうですか?」。6月末に常連さんがワクワクして聞くと、「今年は粒が小さかったけれどいい香りですよ」と胸を張って答えていたアンセルムおじさんの姿を、今でも懐かしく思い出します。
ちなみに、ペリエのボトルはオリーブオイルにぴったりみたいで、フランソワは今でも愛用しています。販売はしないのでラベルは必要ありません。

今年(2024年)も暑かったのですが、久しぶりに雨が多かったので、夏からオリーブの実はどんどん大きくなってきています。少しずつ黒くなって、今年こそ大収穫になることを願っています。(つづく)

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/stephanie_francetrip/

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生まれ育ったニースを拠点に、日本人向け貸し切りチャーターサービスの専門会社を営む著者が、流暢な日本語を生かして綴る南フランスの日々の暮らしと街歩きの楽しみ方。1年12カ月、合計60のエピソードを収録。興味のある月やテーマを選んで気軽に読めるので、日々のちょっとした空き時間を使って太陽の光あふれる南仏コート・ダジュールを旅した気持ちになれる一冊です。4世代に伝わる家庭料理の簡単レシピも収録。
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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