第5回 パリ出合った豚足のパネを再び! 坂井彰代(トラベルライター)
「あ、この店今もあるんだ」
パリのレ・アール地区で取材をしていたとき、1軒のレストランの前を通りかかりました。昔訪れたことのある「オ・ピエ・ド・コション」という店です。朝から深夜までノンストップで営業しているのは、かつてこの辺りが市場街であった頃の名残でしょうか。近くに中央市場(レ・アール)があり、郊外に移転するまで界隈にはレストランが多数あり、朝早くから働く市場の人たちの行きつけになっていたのです。今もいくつか残る店では、臓物料理などパンチのある伝統的なフランス料理を提供しています。昔ながらのブラッスリー(ビアホールに起源をもつ大衆食堂)らしい、大きな看板を見上げていると、初めて訪れたときの記憶が蘇ってきました。
それは33年前、新婚旅行でパリに着いた夜でした。少し疲れていたため、一品だけでも済ませられるブラッスリーがよいかな、と選んだ店がここ。何を頼もうかな、とメニューを吟味していたとき、隣のテーブルにいたマダムに見知らぬ料理が運ばれてきました。大きなフライ? でも中身は何なのだろう、と見つめていたら、
「おいしいわよ!」
とマダムの太鼓判。これは、頼むしかない! と注文し、出てきたのが、店のスペシャリテでもある「豚足のパテ(ピエ・ド・コション・パネ)」でした。パン粉をまぶしてグリルしたものが、カットもされず大皿にドンとのっています。豚足といえば、茹でたものに酢味噌を添えたもの、あるいは沖縄料理の「テビチ」のように煮込んだものしか調理法を知らなかった私たちにとって、まったく初対面の料理。恐る恐るナイフを入れたところ、中はとろとろ。表面のパン粉のさくさくした食感と、コラーゲンのとろみが絶妙にマッチして、まさに新食感、初めての味との出合いでした。
帰国してから、あの豚足料理をもう一度食べたい! 東京のフランス料理店で食べられないかなと探してみましたが、メニューに載せている店は見つからず。それなら自分たちで作ってしまおうということになりました。とはいえ、まだインターネットが普及しておらず、検索サイトもない時代、肝心のレシピがわかりません。とりあえず肉屋で下処理をした豚足を買ってきて、フライのように卵液、パン粉をまぶして、オーブンでグリルしてみたところ、石のように硬い料理ができあがりました。ナイフを入れると、じゅわっとコラーゲンがあふれてくるどころか、ナイフを差し込むこともできない硬さで大失敗。
解決策が見つからず、パリで住む友人に相談してみることに。すると「焼けばいい状態になったパン粉付きのものを肉屋で買ってくるけれど、家で作る場合は、柔らかくなるまで1日コトコト茹でるみたいよ。形崩れしないよう、ガーゼでくるむといいみたい」との返事。しかし、豚足のために1日鍋のそばで過ごすことはできないし、困ったな、と思ったとき、ひらめいたのが「圧力鍋」。すね肉を柔らかくしてくれる圧力鍋なら、強靭な豚足も柔らかくしてくれるはず!
さあ、ガーゼも買ってきたし、豚足をきれいにくるんで、買ったばかりの圧力鍋にセットして加熱開始! 煮込み料理同様の手順で進め、最後に蒸気栓を抜くと、部屋いっぱいに豚足の香りが立ち込めて、もはやラーメン屋の厨房状態に。柔らかくなった豚足に卵液、パン粉をまぶして、オーブンへ。いい感じであがってきました。デミグラスソースをかけたら、見た目も本格的に。ナイフもさくっと入り、満足感いっぱいで口に入れると……ん? 味がしない。ソースをからませても、何か物足りなさを感じてしまいます。
これは豚足自体に「味」が必要では? と気付き、今度はコンソメスープで下味を付けて再挑戦。同じ手順を踏んで、こんがりと焼き上げた豚足のパネを試食してみたところ、パリで食べたあの料理と近い味に! 豚足を巡る冒険。試行錯誤の末、やっと終点にたどり着きました。
最近のパリは、従来型のカフェが減少し、ニューヨークスタイルのコーヒーショップをあちこちで見かけるようになるなど、食のグローバル化が進んでいます。その一方で、「ブイヨン」と呼ばれるフランスらしい大衆食堂が復活、人気を呼んでいると聞きました。「アンドゥイエット(臓物のソーセージ)」や「テット・ド・ヴォー(子牛の頭肉の煮込み)」といった伝統料理を手頃な値段で提供する店です。伝統への回帰、昔ながらのスタイルを再評価する動きがあるのかもしれません。自分で作ってみたくなるような伝統料理とまた出合えないかな、と次の旅が楽しみです。
(イラスト:きりたにかほり)
好評既刊『フランスの一度は訪れたい村』
坂井彰代 著

定価2090円(税込)
これまでに100回ほど渡仏し、フランス旅行ガイドブックなどを多く手がけてきたトラベルライターが、記憶に残る12地方30の村を厳選。旅先で出会った美しい風景、芸術家が愛した地、村で大切に育まれたワインやグルメなど、地方色豊かな魅力を豊富なカラー写真とともに軽快な文章で綴る。協会に認定された「フランスの最も美しい村」のほか、各村の見どころを「絶景」「教会」「芸術」「食」「ワイン」「花」「祭り」などのアイコンで表示。足を延ばしてでもいつか訪れたい……そんな旅心をくすぐる「フランス村巡りの案内書」。
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