伊豆大島に夏がやってきました。気温はグングン上がり、抜けるような夏空と青の深みを増した海がキラキラときらめく風景は、いつ見てもダイナミックで心躍ります。肌を露出した観光客の姿も一気に増え、夏シーズン到来を告げてくれます。
この2年間は新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急事態宣言や東京都からの要請などがあり、観光客数は通常よりも激減。「3年ぶりだなぁ、今年の夏は忙しくなりそうだよ」。この夏は、そんな島の人たちの会話も聞こえてきます。2年連続で自粛した夏まつりも今年は開催される予定です。島の中心の元町港では花火大会と縁日が出るとのことなので、大いにぎわうことでしょう。

コロナ禍以前の花火大会。道路に座ってのどかに見物する
Hav Cafeにとっても初めての夏のハイシーズンです。昨年は営業自粛をしたり、ドラマの撮影があったりとほぼ休業していましたし、観光客の数も少なかったので、島の夏休みがどれほど忙しいのかまったくの未知数。今から戦々恐々です。それでもなんとかやれるかな、と思えるのは今年のゴールデンウィークをワンオペレーションでやり通せたことなどの経験が積み重なってきたからだと実感しています。
開業から1年半を経て、Hav Cafeは地元の友人・知人、ご近所さん、そしてご来店されるお客さまと、たくさんのご縁のおかげで育てていただいてきました。それも、波浮港という伊豆大島の中でもちょっとユニークな場所だからこそのように思えてなりません。この土地の持つ磁場のようなものが、さまざまな人たちを引き寄 せているように感じるのです。
観光で来て気に入り、「スケジュールを変更して波浮港でほぼ過ごした」というゲストや、何度もお越しになるリピーターもいます。私が島と本土や地方を行ったり来たりすることを話すと、「住んでもいいかも、いい空き家ない?」と聞いてくる方もいます。
また、波浮港には海洋国際高校という都立として唯一の全寮制の高校があります。多感な3年間を港周辺で過ごした彼らは波浮港という場所に特別な思い入れがあり、社会人になってから再訪するOGやOBも少なくありません。現役の生徒たちは下校時にカフェに立ち寄ってマフィンなどをテイクアウトしてくれるので、彼らとの会話から高校生のリアルな日常に触れることもあります。保護者、先生なども来店されるので、子育て・教育の話題をうかがうことも少なくありません。
Hav Cafeはお子さん連れOKなので、赤ちゃんや保育園に通うような小さなお子さんと触れ合う機会も増えました。これまでの経験を生かして、小学校で世界の国事情について話す機会をいただいたり、先日は定時制高校の見学会にも参加したりと、自分ならではの島への貢献も始めています。
いずれもこれまでのトラベルジャーナリストとしての私の生活にはなかった出会いであり、ご縁ばかり。島暮らしを始めたことで人生のふり幅が増え、視野を広げてくれたと感じています。

Hav Cafeは数々の雑誌で紹介され、それを見て訪れる人も多い
マスコミの取材もたくさん受けました。雑誌、ラジオ、ビジネス経済誌のほか、人気ユーチューバーの方もいらっしゃいました。観光紹介だけでなく、「島ぐらし」「二拠点生活」「地方再生」などをテーマにした企画も多いことからは、コロナ禍を経て自分らしい生き方を模索し始め、このようなテーマに興味を持っている人々があまたいることも実感しています。
いずれにしても波浮港が大きく取り上げられることは島の経済効果にも影響を与えているはずです。中でも
第6回で紹介したようにテレビドラマ『東京放置食堂』のロケ地に波浮港が選ばれたことはとても大きなものでした。約2カ月にわたり30人近くの撮影チームが島に滞在するだけでも宿泊、交通、食事などの経済効果が。SNSでも伊豆大島、波浮港などのキーワードが好感を持ってトレンドに上がるなど、島の認知度もアップしました。今後はロケーション誘致、撮影のバックアップなどをしていく必要性を、島を挙げて具体的に検討してほしいと願います。
カフェのオープンから1年半。移住してからもまだ2年ほど。島民としてはまだまだ何も知らない、わかっていないことだらけ。これからもカフェの運営とともに「伊豆大島ぐらし」を模索する日々だと思います。それにしても、普通ならリタイアする年齢の60歳になり、これほど未知数でドキドキで刺激的な島ライフをしていることの何と楽しいことでしょうか。
この連載は今回が最終回となります。もし、記事を読んでいただき伊豆大島や離島暮らしに興味を持ってくださったら、ぜひ一度、遊びに来てみてください。そこには東京都とは思えない雄大な自然と島で暮らす私たちが待っています。何かあたらしいご縁が生まれるかもしれません。(おわり)

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