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美しいくらし
伊豆大島ぐらし トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
第4回 Hav Cafe誕生への第一歩
 波浮の古民家カフェの設計は建築家の井田耕一さんにお願いしたい――。思いを固めた私は3年前の8月末、調布飛行場で井田さんと落ち合い、伊豆大島に向かう小型機に乗り込みました。

 知らない方も多いと思いますが、調布飛行場は1941年に開港した歴史ある東京都の飛行場です。現在は伊豆大島を含む伊豆諸島への航路として19人乗りのドルニエ機の定期フライトが毎日運航。島民や観光客の大切な足となっています。調布から伊豆大島まで所要ジャスト25分。これを聞くと「えっ!」という方も多いのですが、本当にあっという間の距離。このアクセスのよさが伊豆大島の真骨頂だといってもいいと思っています。竹島桟橋から高速ジェット船に乗り、レインボーブリッジをくぐって島に向かう爽快感もとてもいいのですが、このワープするかのような空間移動と小型機に乗るという非日常感を井田さんにもぜひ、味わってもらいたかったのです。

 両側に1席ずつ。小さな機内はそれだけでワクワクしてきます。客室乗務員は同乗しないので、アナウンスは操縦席から。ランウェイ(滑走路)を滑るようにゆるやかに進み出した機体は所定の位置で停止。安全ベルトをさらにキュッと締め、窓から見えるプロペラがゆっくりと回り出し高速回転を始めるのを眺めると、テイクオフの高揚感がじわじわと沸き上がります。狭い場所や高い場所が苦手な人は悲鳴を上げそうですが、私はたまらなく好き。何度、体験しても飽きません。向こう側に座っている井田さんを見ると、少年のように小さな窓に顔を近づけて外を眺めています。

 フワリ。走り出した機体が地上を離れ、浮き上がると同時に視界に調布の街並みが広がります。大型機の場合、水平飛行は高度約1万メートルですが、わずか25分飛行のドルニエ機の場合、高度は千数百メートル。私たちの乗った飛行機は住宅や街路樹、電車が走る様子、渋滞気味の高速道路などがハッキリと見分けられる高度を保ったまま、あっという間に調布から川崎、さらに湘南、江の島を見下ろしながら伊豆大島を目指します。まるでジオラマのようです。
 しばらく眼下に見入っていたことに気づき、ふっと視線を少し遠くへ飛ばしてみると正面に見事な富士山の姿が飛び込んできました。雲がたなびき、青い稜線が光の中に浮かぶ姿は泣きたくなるほど美しい。地上からでも、ジェット機からでもない小型機からの圧巻の名峰。このすばらしい眺望だけでも今日、乗った価値は十分あります。


 ぜいたくすぎる25分のフライトは瞬く間に終わり、私たちは伊豆大島の都営大島空港、愛称「東京大島かめりあ空港」に無事、ランディング。空港から波浮港までは車で30分弱。レンタカーを借りて井田さんを現地までお連れします。
 途中、伊豆大島の特徴や島ぐらしのことなど、私の知識内で井田さんに伊豆大島の背景を解説。私が伊豆大島で好ましく思っていることや、カフェに託す願いなどもお伝えします。家の設計はハードだけではなく、ソフトの部分が実は大切なのだとの思いからでした。私がどういう意図でどういうスタイルのものを作りたいのか。それを伝えるにはまず、私というものを知ってもらう必要があると考えたのです。真っ先に井田さんを伊豆大島にお連れしたのも、現場を見てもらうことは当然ですが、島の存在感、私がなぜここを選んだのか、そういうことを肌感覚で知ってもらうことがスタートとして大切だと信じていたからでした。結論として、それは正しい判断でした。


 現地に到着して早速、井田さんに物件を見てもらいます。波浮港の風情と家並みのたたずまいには、井田さんも感慨深いものを感じていらっしゃるよう……。相変わらず鍵がかかっていない建物の扉を開けて中に入って見てもらいます。中を見渡しながら、「おお~」とつぶやく井田さん。「面白いですね~」とも。プロの目で内部を確認していきます。カバンからメジャーを取り出し実寸も確認していく井田さん。床や壁の経年劣化、堅牢度合などもきっとわかるのでしょう。「これはちょっとムリですねぇ。。。」といつ言われるか、ヒヤヒヤしながらその動きを目で追う私。

 じっくりと内覧をしてもらい、私のプラン、予算などを話し合い、最終的に「やりましょう」と井田さんからお返事をいただいたのは小1時間も経ったときのこと。Hav Cafe誕生への第一歩が決まった瞬間でした。その後、想像以上に開業まで時間がかかることはこのとき私も井田さんも知りませんが、それはまたのちほどのお話。このときの私は、新しい人生プランの幕開けにただただ有頂天で、わき立つ思いでいっぱいでした。(つづく)

定価2,200円円(税込)

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【寺田直子のハッピー・トラベルデイズ】
http://naoterada.exblog.jp/
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【てらだ・なおこ】
東京都生まれ。日本とオーストラリア・シドニーの旅行会社勤務後、編集プロダクションを経てフリーランスとして独立。これまでに90カ国以上を訪れ、年間150日は国内外のホテルに宿泊している。第13回フランス・ルポルタージュ大賞受賞。著書に『ホテルブランド物語』(角川oneテーマ21)、『泣くために旅に出よう』(実業之日本社)、共著に『ロンドン美食ガイド』(日経BP社)などがある。2021年より伊豆大島に移住し、Hav Cafeを営みつつ執筆活動を続けている。(撮影:峯 竜也)
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