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美しいくらし
忘れられないイタリアの美しい村 トスカーナ自由自在
中山久美子
第8回 きらめく白い村のクリスマス【ロコロトンド】


 南イタリアと聞いて連想するのは、青い海と輝く太陽、そして青空に映える白い町。行くならやっぱり夏じゃないと! と、多くの人が思っているのではないでしょうか? かく言う私もその1人。未踏の州が多い南イタリアは、近い将来の夏バカンスの候補地にしていたのですが、このたび思い立って季節外れの初冬に旅立つことにしたのです。その理由はロコロトンドのクリスマス装飾でした。

 ロコロトンドはブーツにたとえられるイタリアのかかと、プーリア州にあります。南北に細長いこの州の真ん中より少し南にあるイトリア渓谷には、ロコロトンドのほかに、円錐形のとんがり屋根の建物・トゥルッリで有名な世界遺産のアルベロベッロや、歌手の宇多田ヒカルさんの結婚式で知名度を上げたポリニャーノ・ア・マーレでも知られる白い村や町が点在しています。このように州全域で白い建物が多いのは、地方一帯の地質が石灰質で昔から建築資材に使用されていたこと、また石灰質には細菌の繁殖を防ぐ効果があり衛生上のメリットがあるからだそうですが、「これぞプーリア!」と称される白い町並みは、この州の美しい景観を表す代名詞になっています。

丸い丘に立つロコロトンド


 ロコロトンドについて書かれた1195年の記録では、この辺りを「丸い=ロトンド」と呼び、その後「丸い場所」を意味する現在の名前になったとか。標高410mの丘にある村を下って、さらに畑を区画する石垣に挟まれた道を進んで後ろを振り返ると、その名のとおり、村の丸い全景を見ることができます。

 私がこの村に来るきっかけとなったクリスマス装飾は、ちょうど10年前、村にある2つの飲食店が、所在する通りを飾り付けたのが始まりだそうです。もともとロコロンドは玄関先を植物などで美しく整えたり、自宅前だけでなく広い範囲を掃除したりと、村をきれいに保つ住民の意識が高い村。飲食店のアイデアに村全体が賛同してクリスマスを祝う装飾に力を入れ出すとSNSで大反響となり、今ではこれを見に各地から多くの観光客もやってくるようになったのです。2021年は例年より早く11月半ばにすでに始まっており、私もそれにあやかって訪問したのですが、実際に行ってみるとそれは予想以上の混雑でした。
 夕方に乗ったロコロトンド行きのバスは村が近づくにつれ渋滞でなかなか進まず、ようやく着いて村の中心に向かったら、村を見学できるメーンのコースは2つとも人数制限で長蛇の列です。しかしそれは夕食直後の時間帯まで。22時を過ぎたころには制限も解除され自由に歩くことができました。

村全体でクリスマスを華やかに演出

尖った屋根が特徴のクンメルサ


 どこを切り取っても絵になるロコロトンドですが、美しい町並みの秘密はやはり「クンメルサ」でしょう。クンメルサとは、アーチ状のヴォールト天井を覆うための、また貴重な雨水を雨樋に流れやすくするための鋭角な屋根を持つ、この地方ならではの伝統建築です。クルメンサの屋根に重ねられた薄い石板は地元でとれる石灰質の石・キアンカ。道の舗装にも使用されている素材で、石の薄いグレーと白い壁との調和、そして屋根の尖った輪郭が村の景観のアクセントになっています。

 村をひととおり見物した後、クリスマス一色に染まる光景をカメラに収めようと、ひざまづいたりスマートフォンを逆さまにしたりして必死に撮影していると、それがプロのカメラマンに見えたのでしょうか。「あなた、お上手そうなので撮ってもらっていいかしら?」とカップルの女性に声をかけられました。すると今度はそれを見た別のカップル、さらにそれを見た団体と、次から次へと私にカメラを託してくるではありませんか! ポーズを決めるどころか濃厚キスを決めるカップルまで。
 撮影した写真を見て喜ぶ彼らを眺めていると、こちらも幸せを分けてもらったような気持ちにはなったのですが、気づくと私だけ1人ぼっち……。ムード満点のクリスマスシーズンに1人で来るのはちょっと失敗だったかもしれません。

村のレストラン

ロコロトンド風トリッパの腸巻き

 耳たぶの形をしたパスタのオレッキエッテやフレッシュチーズのブッラータなど、プーリア州には日本でもなじみのある料理や食材がありますが、私がこの村で何としてでも食べたかったのは、そうしたポピュラーな食材ではありません。それは、トリッパ(牛の胃袋・ハチノス)使った「ロコロトンド風トリッパの腸巻き」という郷土料理。好き嫌いが分かれる内臓料理だからか、オーダーしたときは給士スタッフに「ホントに大丈夫?」とかなり心配されましたが、モツ好きな私は食べる気満々!

 トリッパの腸巻きは見た目はややグロテスクですが、腸でキュッと結ばれたトリッパが香味野菜でじっくり煮込まれ、寒い季節にぴったりの優しい味。もにょもにょとした独特の食感もたまりません。
 念願の料理に満足して会計に行くと、「彼がトリッパ作ったんだよ」と店のスタッフが私の後ろを指さしました。振り向くと、笑顔のシェフが手を振っているではありませんか。「キミはトリッパを普段どうやって食べるの?」と聞かれたので、私が作るフィレンツェ風を教えてあげたりしながら楽しく話していると、さっきまでの1人ぼっちの寂しさも忘れるほど温かい気持ちになりました。

 翌朝にもう一度中心街に戻ってみると、華やかな装飾はそのままながら、夢から覚めたような静けさです。子どもたちを学校に送ってゆくマンマ、バールカウンターでくいっとエスプレッソを飲み干す中年男性、ゴミを出すおばさん、工事現場に向かうトラック……。光きらめく夜の風景から一変し、澄みきった青空の下はどこにでもある日常の穏やかな時間が流れていました。(つづく)


★ロコロトンドへのアクセス
プーリア州の州都バーリから直通バスで1時間20分。バーリからバスを1回乗り換え、または電車とバスの組み合わせで1時間40分~2時間40分。

【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/
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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。ありのままの日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村などイタリア各地の魅力を発信している。
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