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美しいくらし
自由な旅のレシピ 「旅の食堂ととら亭」店主
久保えーじ
第8回 おいしい料理にありつくコツ

ブルネイで食べたココナッツ風味のカレー、アヤム・カピタン。ととら亭でも以前、メニュー特集を組んだプラナカン料理の一つ

「ととら亭の料理は日本人向けにアレンジしてくれているので、いつもおいしいですね」
「いや、現地で食べたままを再現しています」
「そんなはずはないでしょう、私が現地で食べたものはみんなまずかったですよ!」
ととら亭でよくあるこの会話、実は両方とも事実を語っています。こうおっしゃるお客さまに聞くと、共通しているのは、毎回パックツアーで旅行されていること。となると、現地での食事といえば、あらかじめ決められたレストランに案内され、席に着くなり全員同じ料理が出てくるか、ビュッフェスタイルのケースが多いでしょう。つまり、選択の余地がほとんどなく、大人数ともなれば料理が少々冷めていることさえあるかもしれません。しかし、これは旅行会社の落ち度ではなく、無理からぬ話なのですよ。一般的なパックツアーの目的は観光。短い日程にさまざまなアトラクションがみっちり入っており、食事に割ける時間はほとんどありません。そこで旅行会社は、食事をスムーズに進めるため、座ればさっと食べられるように手配しているのです。

片や、個人旅行の場合は効率よく観光地を回ることこそ難しいものの、時間を自由に使えるため、食べる場所や注文する料理も自分の好みで選べます。逆に言えば、 これまで旅行会社がやってくれたことを、すべて自分でやらねばなりません。この問題をどうしたらいいのか?
そこで、ちょうどこれを書いている今、僕らはブルネイ(東南アジアのボルネオ島北部の小さな国)の首都バンダル・スリ・ブガワンに滞在中ですので、一緒に何かうまいものを食べに行きつつ、「おいしい料理にありつくコツ」を身に付けてみませんか?

竹筒に鶏肉、レモングラス、ショウガ、ニンニク、タマネギ、マンゴーと水を入れ、たき火で煮る野趣あふれる料理、マノク・パンソー

まず、どんな料理があるかざっと調べてみましょう。ボルネオ島ならではのサゴヤシを使ったアンブヤット、少数民族の竹筒料理マノク・パンソー、マレーシアやシンガポール版のラーメンともいえるバリエーション豊かな麺料理、ラクサのボルネオ島バージョン……。いろいろおいしそうな料理がありますね! もちろん、あえて何も考えず、直感だけを頼りに食べてみるというのもアリですよ。しかし、「あんな料理もあったのか、しまった、食べ逃した!」と後悔はしたくないもの。そこで2~3品の「食べたいもの候補」を挙げておくと、現地でそれらの料理に出会ったときの喜びもまたひとしおです。

次の準備は、地図アプリでのマーキング。ネット上のマップで周囲にある飲食店を表示し、お目当ての料理がありそうなところをマークします。いわゆる星の数は考慮せず、確認するのは場所とメニュー、値段、営業時間と定休日だけ。ここでのポイントは「今、お目当ての料理が食べられるか?」ですから、ターゲットは1店だけではなく、複数マークしておきましょう。ネット上は「営業中」となっていても、行ってみたら「閉まっていた!」どころか、「存在しない!」「廃業していた」というのも、よくあること。ですから、出かける前にプランAだけではなくプランBやCも決めておくと、NGだったときに頭の切り替えがスムーズにできます。
そうですね、今日はホテルの近くにボルネオ島版のラクサ・サラワクをやっている店がありますから、そこに行ってみましょうか。

おいしい料理を求めてバンダル・スリ・ブガワンのダウンタウンへ(ブルネイ)


では地図アプリのナビ機能を使って出発しましょう。道々、周りの街並みも観察しながら歩きます。それというのも、ほら、気づきました? ディスプレイには表示されない店はいくらでもあります。ネットの情報は現実の一部を切り取った過去のスナップショットでしかありません。
もし、途中で「お、これは!」という店があれば、直感を信じてトライするのも手です。実際、僕らはこうしてゴキゲンな飲食店を見つけたことが何度もあります。

お目当てのレストランはマレー系。ファサードの文字はアラビア語

注文したラクサ・サラワク

さて、お目当ての店に到着しました。いきなり入らず、「ローカルで賑わう店」か、「観光客用」かを見定めてみましょう。最初にどんな立地か周りを偵察です。もし、そこが目抜き通りではなく、脇道や裏通りであれば、「脈あり」。外から中が見えたら、どんなお客さんがどれくらい入っているかも確認します。ローカルで混んでいたら、「試してみる価値あり」です。この店はいい感じですね。それでは入ってみましょう!
入店したら、空席があってもいきなり座らず、まずホール担当に笑顔であいさつを(できれば現地語のこんばんは「スラマッマラム」)。続いて、たとえば2名だったら「2 person, no reservation. (2名、予約はありません)」と伝えます。Vサインでもオーケー。そのまま案内されたら、着席してメニューをもらいます。お、ありましたよ、ラクサ・サラワク! それからマレーシアと中華のハイブリッド料理、アヤム・カピタンも注文しますか。最後に飲み物を忘れずに。ブルネイで水は無料ではありませんからね。ん~、調べて探した甲斐あって、けっこうイケるじゃないですか! やっぱり旅はこうでなくてはね!

コツがのみ込めてきたところで次は屋台に挑戦してみませんか?
台湾の夜市やモロッコのジャマ・エル・フナ広場のようなフードワゴンの文化は世界各地にあります。ところが、これまた衛生や治安、迷子のリスクから、パックツアーでは敬遠されがちですね。こうした庶民の台所にこそ、地元のおいしい料理が待っているのに残念な話です。

ガドンナイトマーケット

ここ、ブルネイでもガドン地区のナイトマーケットはまさしく地元の誰もが知るところ。ではまず、屋台街を訪れる前の準備を整えましょう。足元が濡れて滑りやすい所がありますから、サンダルは避けます。混雑する日はスリのチームが出勤していますので、貴重品には十分注意を。カードは使えませんから、細かい現地通貨を用意します。大きい額の紙幣はお釣りがないので受け取ってくれません。おカネは財布ではなく、ポケットにそのまま入れておきましょう。財布の出し入れは避けた方が安全です。また、手が汚れますからウェットティッシュがあると便利ですね。

それでは突撃しますよ! といっても、慌てて食べ始めるのではなく、とりあえず1周回って、どんな料理があるかを下見します。全体を把握し、食べるものとその順番を決めたら、いよいよお楽しみの始まりです。屋台でのオーダーは基本的に値段の確認とあいさつ、そして指差しだけ。まず前菜を。この香ばしい匂いを嗅いでいたら、串焼きを無視するわけにはいきません。

屋台の様子。ここでチキンとラムのカレーをゲット


メインは、いろいろなおかずが売っている屋台でカレー系を2種類、マイルドなチキンとよりスパイシーなラムの食べ比べなんてどうです? 量も自分で加減できますよ。他にも試してみたければ、売り手のおばちゃんにナシ(ご飯)は一つだけ、と伝えてください。方法? 臨機応変で! 国籍が違ってもお互い地球人同士。難しいことはありません。ほらね、一度やったらやめられないでしょう?

最後に気になるのが衛生です。
残念ながら、これをやっておけば絶対に大丈夫という方法はありませんが、次に挙げるルールを守ることで、僕らは比較的安全に旅を続けています。

1.沖縄より南の国では生ものを避ける
世界的に寿司ブームですが、もともと生食文化のない国では生ものの取り扱いにまだ慣れていないところがあります。

2.水道水が飲めない国では生野菜など非加熱食品は食べない
野菜を洗うときに飲めない水を使うということは、飲んではいけない「何か」が野菜に付くことを意味します。見た目はきれいでも要注意。

3.混んでいる店を利用する
閑古鳥が鳴いている店では食材の回転が悪く、傷んでいる可能性があります。

4.氷は氷屋から買っている店で食べる
最近はだいぶ安全になってきましたが、氷屋ではなく水道水をそのまま凍らせた製氷機の氷を使っていたらやめましょう。氷の形がさいころ型で丸い穴が開いていますから見ればわかります。

5.弁当も含め、午前中に調理された料理は午後に食べない
温かい料理を十分冷まさずにパックしたり、常温で数時間も放置したままにしていると雑菌が繁殖します。

6.手食をする場合は手をきれいに
小型の消毒ジェルなどを携行していると手洗いが見つからない場合に便利です。
  
さぁ、次は ぜひ、あなたのお好みの食事を楽しんできてくださいね!(つづく)

▶次回のレシピ▶▶▶

ブルネイの象徴的な建築、スルタン・オマール・アリ・サイフディン・モスク

旅をするうえで大切なのは、おカネ以上に健康です。いくらリッチな旅をブッキングしても現地で健康を崩したら寝ているだけですからね。そこで次回は、「年と体に付き合いながら」と題し、旅先での健康管理方法と、それでも具合が悪くなってしまった場合の対処方法をお話します。僕も間もなく62歳。腰部椎間板ヘルニアの爆弾持ちですから、これは本当に切実な問題なのです。

(写真提供:久保えーじ)

【「旅の食堂ととら亭」ホームページ】http://www.totora.jp/
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*ととら亭の連載
〈ところ変われば料理も変わる!?〉はコチラ⇒
〈柴又で始まる「ととら亭」の第2章〉はコチラ⇒
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【くぼ・えーじ】
1963年神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャー、商業施設の運営会社を経て2010年、妻で旅の相棒であり料理人でもある智子とともに、現地で食べた感動の味を再現した“旅のメニュー”を提供する「旅の食堂ととら亭」を開業。同店の代表取締まられ役兼ホール兼皿洗い。これまで出かけた国は70以上、旅先で出会った料理の再現レシピは140以上にもなる。2010年に東京・中野区野方に「旅の食堂ととら亭」を開店。2022年7月に葛飾区柴又に移転、新店舗をオープンさせる。
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