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美しいくらし
自由な旅のレシピ 「旅の食堂ととら亭」店主
久保えーじ
第7回(上) スマホを持って出かける旅――出発前
「な、なんだこりゃ?」
時は2011年9月。デンマークのコペンハーゲン駅にほど近い、予約しておいたホテルの前で、僕は眉間にしわを寄せていました。ホテルのドアが開かないのです。窓から中をのぞくとフロントは見えず、さながら会社のエントランスのように、ぽつんと小さなカウンターがあるだけ。ノックをしても誰も現れません。そこでもう一度ドアの周囲を見回すと、テンキーがありました。まさか、あれでドアを開けるのか? でも、その番号は? そこへタイミングよくやって来たのが、宿泊客と思しき白人の男性。彼は躊躇なくテンキーを押して自動ドアを開け、中に入ろうとしています。僕はここぞとばかりに共連れで進入。ところが、どこをどう見てもやはりフロントはありません。彼が廊下の奥に消えた後は人の気配すらなし。目に入ったのは、カウンターの上に置かれたダイヤルのない電話と、入り口に向けられた防犯カメラのみ。いったいどうなってるんだ?

デンマークのコペンハーゲン駅(2011年)


受話器を取ると、自動的に発信音が鳴り始め、ほどなくして、
「ハロー」
お、繋がったぞ!
「今日予約している久保えーじです。チェックインしたいのですが、フロントはどこですか?」
「当ホテルにフロントはございません」
「え? ではどうやって部屋に入ればいいのです?」
「お客さまが登録されたメールアドレスに詳細を送っております。ご覧になられましたか?」
メール?
「いや、つい先ほどコペンハーゲンに着いたばかりで、まだメールは見ていません」
「メールに共用部と部屋、それぞれの暗証番号が記載されていますので、それをご利用ください。お支払いは、部屋の開錠と同時にクレジットカードから引き落とされます」
これが、今でこそ世界中で一般的になってきた「無人ホテル」との出合いでした。当時の僕はスマートフォンを持っていなかったので、駅まで戻り、パソコンを無料Wi-Fiに接続して暗証番号を確認したのです。

以来、飛行機のチェックインではスマホに電子ボーディングパスが送られるようになり、コロナのパンデミック時には予防接種証明アプリをインストールせざるを得ず、オーストラリアやフィリピンでは入出国管理アプリへの登録が義務付けられ、飲食店のメニュー閲覧からオーダーまでスマホでやらねばならなくなるとは!

オーストラリアのメルボルンの無人ホテル外観。入り口の右側にテンキーが見える(2023年)

ノルウェーのベルゲンで泊まった無人ホテル。入り口のドアに説明が書かれている(2018年)

カタール航空の電子ボーディングパス(2025年)


IT稼業で「ととら亭」の開業資金をためた僕が言うのも変な話ですが、実はスマホを持ちたくありませんでした。会社用の携帯電話を休暇中まで持って行かねばならなかった身としてはガラケーですら、いまいましいシロモノだったのです。個人用携帯も一応所有していたものの、友人たちには「自宅に置きっぱなしの固定電話」とみなされていたほど。
ところが、21世紀の世界を旅するのであれば、どうやらこうした“電気からくり”を持たざるを得なくなってしまったようです。では、どうやってスマホと付き合えばいいのか?
<出発前>と、<現地に着いたら>に分けてご説明しましょう。

<出発前>
1.スマホはメーカーのサポート対象機種を購入し、OS(オペレーティングシステム)と使用するアプリケーションソフトは最新にアップデート
IT業界のマーケティング戦略に屈服するのは業腹ですが、古い機種では最新のOSがサポート対象外であったり、ICカードやNFCタグが読めない場合があります。僕はかつてiPhone6を8年間使い続けていましたが、最後はワクチン接種証明アプリがインストールできず、渋々買い替えを余儀なくされました。世界と歩調を合わせるには、メーカーがサポートしている機種やOSを使うしかありません。ただし、必要なアプリが最新のOSでは動作確認できていないケースもありますので、事前のチェックは必須です。

2.現地で必要なアプリのインストール
電子メールはWEBメール
プロバイダによっては外国から発信されたSMTPやPOPなど、電子メールで使うプロトコルをブロックしている場合があります。その点、WEBメールはブラウザ上で動きますので問題なく使うことができます。しかし、中国など国家安全保障上の理由からウェブサイトそのものをブロックすることもありますから、これも事前にチェックしてください。

SNSはWhatsApp
日本で普及しているLINEは一般的ではありません。2025年5月現在、外国でホテルやドライバーとの連絡に使われているのは、WhatsAppが最もポピュラーです。アカウントを登録すると例によってスパムが来るようになりますが、無視すれば害はありません。しかし中国ではWhatsAppもブロックされています。中国を個人で旅する場合は一時的にせよWeiboやWeChatなどの利用を検討してみてください。

渡航先で使える配車アプリ
タクシーは流しを捕まえるなど、オールドファッションなやり方もNGではありませんが、面倒な料金交渉だけではなく、ぼったくりなどのトラブルを避けるためにも配車アプリは有効です。あらかじめアカウントとクレジットカードのひもづけが必要なので、出発前に設定しておきましょう。ただし、普及国だからといってどこの街でも使えるわけではなく、地方都市では登録ドライバーがまったくいなかったり、迎えに来る手間を嫌がって乗車拒否してくることがあります。

QRコードリーダーアプリ
最近では飲食店のテーブルにQRコードが貼ってあり、それを読んでメニューを表示させるところが増えてきました。場合によってはオーダーもそこから行うケースがあります。ただし、こうしたシステムを導入した飲食店でも、お客さんが全員対応できるわけではないので、ホール担当に声をかければ店舗の端末を貸してくれたり、口頭でオーダーを取ってくれるでしょう。

地図・ナビアプリ
以前のようにガイドブックに付属した地図や、ツーリストインフォメーションでフリーマップをもらって使うのもアリです。残念ながら空港や書店では紙の地図を売っているところがかなり減ってしまいました。また、ナビアプリをカーナビとして使う場合、とんでもないルートに誘導されたり、治安上の危険が反映されていないこともありますので注意してください。地図アプリも「建物の場所が間違っている」「営業中と表示されている店が存在しない」ケースは珍しくありません。いずれも過信は禁物です。

翻訳アプリ
さまざまな種類が出ていますので、試しにインストールしたら事前にある程度、練習しておきましょう。現地でいきなり使おうとしてもあまり役に立ちません。対象はテキストだけではなく、音声や画像からも翻訳することを前提にして下さい。ひとつですべての条件を満たすものがなければ、複数を使い分けてもいいでしょう。いずれもオフラインで使えるタイプが便利です。

レート計算アプリ
両替をするときは事前のレートチェックが欠かせません。また、払おうとしている金額が高いのか安いのか、日本円に換算しないとイメージしにくいので、滞在中の使用頻度が高いアプリのひとつです。

渡航国が義務付けている入出国管理アプリ
最近は入出国カードや税関申告書、VISAが電子化されるケースが急速に増えています。いずれも使い勝手がいいとはお世辞にもいえず、日本語に対応していないケースもよくあること。ここは航空券を手配する前に、何を揃えなければならないかをしっかり調べ、日本語の解説ページか、なければ英語のページを翻訳してアプリのインストールと登録方法を確認しておきましょう。

Adobe Acrobat
電子ボーディングパス、鉄道チケットなどを表示するために必要です。

3.ナビや翻訳アプリのデータをオフラインでも使えるようにダウンロード
海外では、まだまだ通信圏外となる地域が残っています。そうした場面でも慌てず、ある程度の機能が使えるように、翻訳アプリの辞書データや、ナビアプリの地図データは、あらかじめダウンロードしておきましょう。

4.現地でのキャリア接続方法を確認
これは自分のスマホの機種と加入しているキャリア、現地の通信環境によって選択肢が分かれます。僕はひとつの国に2週間以上滞在するのであれば、基本的に現地で格安SIM(通信・通話を利用するためのICカード)を購入しますが、それ以外の場合は定額接続を断続的に使っています。常時ネット接続していなくても、ホテルや飲食店の無料Wi-Fiを利用すれば、通信コストをだいぶ節約できるでしょう。これらの切り替え方法はぶっつけ本番ではなく、なるべく出発前に練習しておいたほうが現地で慌てることも減ると思います。

5.航空会社のチェックイン
最近は、ほとんどの航空会社でリコンファーム(予約の再確認)が廃止され、出発の24~48時間前からネット上でチェックインできようになりました。場合によっては事前のオンラインチェックインが義務付けられていることもあります。僕は早めにログインし、好みの場所の座席を指定しています。チェックイン後に電子ボーディングパスが発行されるのですが、空港でチェックインすると、紙の搭乗券を出してくれることが多く、そのせいか、所要時間は空港カウンターでのチェックインとさほど変わりません。ですので、電子ボーディングパスを持っていても、空港には余裕を持って到着しましょう。

空港チェックイン前に撮影。帰国便でロストしたときに役立った

各国の電源コンセントに対応する電源プラグ変換アダプター

6.パスポート等の撮影
パスポートの個人情報のページや戸籍謄本、持って行く荷物をスマホのカメラで撮っておきましょう。パスポートの紛失、盗難に伴う再発行の手続きや、荷物がロストしたときなどに役立ちます。

7.電子機器のフルチャージ
電子機器は電源が切れたらただのオブジェです。バッテリーはフルチャージで出かけましょう。機内であれば充電用のUSBポートがありますから、スマホ用の充電ケーブルを機内に持ち込むことも忘れずに。また、現地で電源コンセントから直接給電するのに備え、海外対応の電源プラグ変換アダプターを持っていると便利です。
※<現地に着いたら>につづく

(写真提供:久保えーじ)
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【くぼ・えーじ】
1963年神奈川県横浜市生まれ。ITベンチャー、商業施設の運営会社を経て2010年、妻で旅の相棒であり料理人でもある智子とともに、現地で食べた感動の味を再現した“旅のメニュー”を提供する「旅の食堂ととら亭」を開業。同店の代表取締まられ役兼ホール兼皿洗い。これまで出かけた国は70以上、旅先で出会った料理の再現レシピは140以上にもなる。2010年に東京・中野区野方に「旅の食堂ととら亭」を開店。2022年7月に葛飾区柴又に移転、新店舗をオープンさせる。
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