フランス人の食卓に欠かせないもの。それはパンです。私が子どものころ、「食卓にパンがないとちゃんとした食事にならない」と父がいつも言っていました。パンというと真っ先に食パンを思い浮かべる人も多いと思いますが、フランスでは違います。
フランス語でpain(パン)とは一般的に、表皮がカリカリで内側がふわふわのハードタイプのパンを指します。バターや卵、砂糖を使わずに、小麦粉とイースト、塩、水のみで作るのが基本で、その代表ともいえるのが、日本の皆さんがフランスパンと呼んでいるbaguette(バゲット)です。バゲットのほかに、全粒粉を使って焼いたpain complet (パン・コンプレ)、丸い形をしたpain de campagne(パン・ド・カンパーニュ)など、ハードタイプのパンは大きさや形によってたくさんの種類があり、それぞれに固有の名前が付いています。
ニースの街中でも、夕方になると紙袋に入った細長いバゲットを抱えて家に帰る人々の姿をよく見かけます。とてもフランスらしい光景に映るのかもしれませんが、私たちにとっては日常的なこと。私も毎日仕事帰りにパン屋さんに寄って、普通のバゲットとシリアル入りのバゲットを1本ずつ買って帰ります。健康のためには、子どもたちにシリアル入りのバゲットも食べさせたいと思うからです。ちなみに、バターや卵、砂糖をたくさん使ったcroissant(クロワッサン)やpain au chocolat(パン・オ・ショコラ)は、パンとは呼ばずにviennoiseries(ヴィエノワズリー/菓子パン)、食パンはpain de mie(パン・ド・ミー)という名前で呼びます。フランス人はパンの呼び方についてかなりうるさいのです(笑)。
フランス人にとってパンは主食だとよくいわれますが、量はそれほど食べません。お皿に残ったドレッシングやソースを拭い取りながら食べたり、スープと一緒に食べたり……。どちらかというと脇役ですが、なくてはならない大切な存在です。私が日本で驚いたのは、パンをお皿の上に置くこと。高級レストランならパン用の小さなお皿がありますが、フランスの普通のレストランや家庭ではパン用のお皿は置きません。ランチョンマットやテーブルクロスがあってもなくも、気にしないで料理皿の横に直接置くのです。
私は子どものころからパンが大好き。食事が終わった後もパンの端っこをいつまでも齧っていたので、「食事が終わったのにまだパンを食べるの? まだおなかがすいているの?」とママン(母)によく怒られていました。そんなとき、私と同じようにパンが大好きだったメメ(ひいおばあちゃん)が、「私のおじいさんがパン屋さんだったから仕方がないわよね」といつも優しくかばってくれました。月日が経った今、私の次男も食後にパンを食べたがって、いつも夫に怒られています。その姿を見て、私はメメの言葉を懐かしく思い出しています。(おわり)
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。