10月になると南仏にも「食欲の秋」がやって来ます。柿、キノコ、栗など自然からの恵みがいっぱいあって、その味わい方もさまざまです。
柿はフランス語でも「KAKI」といって、マルシェでもたくさん売られています。私が住む南仏では古い家の庭に柿の木が植えられている風景を時々見かけますが、残念ながら庭に実っている柿を食べる人はあまりいないと思います。
柿を手に入れるなら、やっぱりマルシェでしょう。そのほとんどがフランス産かイタリア産です。いちばん見かけるのは「KAKI Pomme」。Pommeとはフランス語で「リンゴ」のことなので、直訳すると「リンゴ柿」になりますが、その多くは「Fuyu」、日本語で「富有柿」と呼ばれる品種です。この品種は渋くないので硬いまま、まるでリンゴのように食べられます。そしてもう一つは「HACHIYA」です。日本語では「蜂屋柿」と呼ばれているこの柿は渋柿のため、実が真っ赤に熟して柔らかくならないと渋くて食べられません。時間をかけてじっくりと待って、食べごろになったら実を2つに切ってスプーンで食べるのです。
秋の味覚といえばキノコを忘れてはいけません。山のほうに住んでいる人たちは毎年、夏が終わる8月末ごろからキノコの生育情報をひっそりと交換します。「そろそろ出てくるかな?」「今年はたくさん取れるかしら?」などと語り合いながら、収穫のシーズンを今か今かと心待ちにするのです。山の上の村でカフェを経営していた私のメメ(ひいおばあちゃん)はキノコを調理するのが特に大好きで、オイル漬けにしたり、ヴィネガー漬けにしたり、キノコを使った保存食をたっぷり一年分は作っていました。
私の父のミシェルは友達のフランソワと一緒にキノコ狩りに行くのを毎年楽しみにしていて、二人で大きな籠を持って一日何キロも歩いて、夕方たくさんのキノコを持って帰っていました。新鮮なキノコがたくさん手に入るのはとってもうれしいのですが、調理するのは大変。松の針や木の葉っぱなどが付いたキノコを、母は長い時間をかけて苦労をしながら丁寧に洗ってきれいにしていました。
キノコはすぐに傷んでしまうので、その日のうちにオイルやヴィネガー漬けにします。我が家のいちばん人気のレシピは、キノコとパセリのオリーブオイル炒め。ほかにも、キノコと生クリームのパスタやキノコのリゾット、キノコのタルトやキッシュなど、秋の味覚キノコを味わう料理はたくさんあります。
とはいえ、子どもころの私はキノコより甘い栗のほうが好きでした。栗にまつわる子ども時代の思い出として今でもはっきりと覚えているのが、週末の夜に暖炉で焼いた栗を爪や手を真っ黒にしながら一つずつむいて食べたことです。両親がおしゃべりをしている間、温かい暖炉の横に座って甘い栗を食べる時間が大好きでした。
栗の多くはフランス産で、特にコルシカ島は栗の産地として知られています。食べ方としては焼き栗やマロングラッセが有名ですが、フランスでは12月中旬まで栗の収穫が続くため、日照が短くなって寒くなる時期に食べる温かいスープやクリスマスの鶏料理にも栗は欠かせません。
栗を使ったレシピでぜひご紹介したいのが、栗のジャム。私のママン、クリスティーヌの新婚時代の思い出にまつわるレシピです。ママンは料理がとても上手でいつもおいしいものをたくさん作ってくれますが、実は若いときは料理があまり得意ではなかったそうです。マミー(私のおばあちゃん)もメメも料理上手ですが、「大人になったらやるのだから、今はいいわ」と言ってママンに家事も料理も教えてくれなかったため、19歳の若さで父と結婚したときはどちらも全くといっていいほどできなかったのだと教えてくれました。
それでも「父のためにおいしいものをたくさん作ってあげたい」という気持ちは満々で、結婚当初は料理本を見ながらケーキやタルト、ジャムなどを次々と作ったそうです。甘党の父はさぞかし喜んだと思いますが、何十年も経った今、本人にそのことを聞いても全く覚えていないようで少し残念です。
新婚のクリスティーヌは若くて料理の経験がなかったので、5月にサクランボのジャムを作ってみたらキャンディーのように硬くなって大失敗。そこで10月になって栗のジャムに挑戦したら、初心者でも簡単なレシピで大成功! 栗の皮をむくのが大変ですが、それ以外の工程は誰でもできるとママンが言っているので、皆さんもぜひ作ってみてください。栗のジャムはヨーグルトに入れたり、クレープや朝食のパンに塗ったり、楽しみ方はさまざまです。
《栗のジャムのレシピ》
【材料】※ジャム瓶2個分
栗 300g
砂糖 200g
水 70ml
バニラビーンズ 1本
1 包丁で栗の皮に縦線を1本入れる。
2 たっぷりと水(分量外)が入った鍋に1を入れて沸騰させる。2分ほど沸騰させたら火を止めて蓋を外し約10分、温度が落ちるのを待つ。
3 鍋から栗を出して熱いうちに皮をむく。
4 たっぷりと水(分量外)の入った鍋に3を入れ、中火で約40分間茹でる。
5 鍋から栗を出して水分を切り、茹でた栗を潰す。
6 砂糖、水、バニラビーンズ(さやを割って中身を出す)を鍋に入れて120℃まで熱くしてから5を入れ、10分ほど混ぜ続ける。
7 煮沸消毒したジャム瓶に6を入れ、蓋をしてから瓶をひっくり返して冷ます。
【マイ コートダジュール ツアーズ】
http://www.mycotedazurtours.com/【mycotedazurtours Instagram】
https://www.instagram.com/stephanie_francetrip/『ニースっ子の南仏だより12カ月』

定価2200円(税込)
地元っ子ならではの視点で案内する
南フランス12カ月の暮らしと街歩きの楽しみ方
生まれ育ったニースを拠点に、日本人向け貸し切りチャーターサービスの専門会社を営む著者が、流暢な日本語を生かして綴る南フランスの日々の暮らしと街歩きの楽しみ方。1年12カ月、合計60のエピソードを収録。興味のある月やテーマを選んで気軽に読めるので、日々のちょっとした空き時間を使って太陽の光あふれる南仏コート・ダジュールを旅した気持ちになれる一冊です。4世代に伝わる家庭料理の簡単レシピも収録。

【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。