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美しいくらし
南仏の食卓だより12カ月 マイ コートダジュール ツアーズ社長
ルモアンヌ・ステファニー
12月 南仏ならでのクリスマス

11月末になると、フランスの各家庭ではクリスマスが話題の中心となります。どこで過ごすのか、何を食べるか、買い物の担当は誰なのか、などなど家族がたくさんいるほど悩むこともいっぱい。クリスマスの食事を用意するのはもちろんですが、子どもや親戚にプレゼントを買わないといけないので、やることがとにかくたくさんあるのです。

クリスマスの過ごし方はフランス全土でそれほど変わりませんが、食べるものは地方によってさまざまです。例えば、フランス北東部のアルザル地方ではシュトーレンやクグロフ(帽子のような独特の形をした焼き菓子)など、国境を接するドイツの影響を受けたお菓子がクリスマスの定番ですが、私は暮らす南仏では違います。南仏のクリスマスのお菓子といえば、「Les treize desserts(13のデザート)」です。クリスマスに食べる甘いお菓子がなんと13種類もあるのです! 17世紀ごろからプロヴァンス地方で始まったといわれていますが、クリスマスの風習として定着したのは20世紀に入ってからだそうです。

Les treize desserts(13のデザート)

13のデザートはイヴのミサの後から3日間にわたって食べるもので、13という数字はキリストと12人の使徒、つまり「最後の晩餐」を意味しています。食卓の隅やデザート専用のテーブルに3枚の白いクロスを広げ、その上に13種類のデザートを盛ったお皿を置き、3本のキャンドルと「聖バルブの麦」(12月4日の「聖バルブの日」に三位一体を意味する3つの器に小麦の種を蒔いて発芽させたもの。豊作を願う南仏プロヴァンスの風習)も飾ります。3という数字は、父(神)、子(キリスト)、聖霊の三位一体を意味するのですね。

私も子ども時代からこの13のデザートをずっと食べてきました。毎年12月24日には夜11時から始まるミサに行き、家に帰って13のデザートを少しずつ食べた後にプレゼントがもらえる、というルールもありました。大人になってからは真夜中にミサに行くことはなくなりましたが、皆でイヴの特別なごちそうとブッシュ・ド・ノエルを食べた後、夜の10時か11時ごろから13のデザートを食べ始めます。こうして翌日のクリスマスの日も、その次の後も、13のデザートはずっとテーブルの上に置いておいて少しずつ自由に食べるのです。

13のデザートには必ず入れなくてはいけないお菓子が7つあります。

Les treize desserts(13のデザート)

1.Pompe à l'huile(ポンプ・ア・リュイル)
オレンジフラワーとオリーブオイルを使った柔らかくて少し甘いパン。クリスマスの時期だけパン屋さんで売られています。キリストが最後の晩餐でパンをちぎって12人の使徒と分け合ったことに習い、切らないで手で割って食べます。

2~5Mendiants(マンディアン)
ドライフルーツ4種類(イチジク、レーズン、アーモンド、ヘーゼルナッツ)。「Mendiants」はフランス語で「修道士、托鉢修道士」を意味する言葉。イチジクの灰色はフランシスコ会、レーズンの黒はドミニコ会……と、4つの托鉢修道会の修道士が身に着ける服の色をそれぞれ連想させることから、その名が付けられました。4種類のドライフルーツで4つの托鉢修道会を表現しています。

6.ヌガー
白いヌガーは純粋さ、光、善、黒いヌガーは人生の困難、闇、悪を表します。

7.デーツ(ナツメヤシの実)

この7つ以外は地方や各家庭によって少しずつ異なります。代表的なのは、カリソン(プロヴァンス地方の伝統菓子)、オレンジピール、マルメロのゼリー、チョコレート、南仏のワインづくりに欠かせないブドウや旬のミカン、ライチのようなエキゾチックな果物もよく入れます。わが家ではマミー(おばあちゃん)のタルトも定番です。

「13種類もデザートを用意するなんて大変」と思われる方もいるかもしれませんが、自分で手づくりしなくてもお店で購入できるものばかりなので、手間はそれほどかかりません。私が子どものころ、ママン(母)は何度もヌガーづくりに挑戦していましたが、硬すぎて切れなかったり、スプーンですくえるほど柔らかすぎたりして毎回失敗。それからは諦めてお店でヌガーを買うようになりましたが、庭にマルメロの木があったのでマルメロのゼリーは手づくりしていました。
メメ(ひいおばあちゃん)のスペシャリテは「Fruits déguisés(フリュイ・デギゼ)」。日本語で「仮装したフルーツ」という意味のお菓子で、デーツやドライフルーツのバエーションとしていろいろな家庭で作られています。

このお菓子は日本でも簡単に作れますのでレシピをご紹介しましょう。

《フリュイ・デギゼのレシピ》



【材料】4人分
・クルミ10個、もしくはデーツ10個(クルミは中身を2個に分ける。デーツの種は取る)
・マジパン
  ◎アーモンドパウダー130g
  ◎粉砂糖100g
  ◎卵の白身1個
※お好みでアーモンドパウダー・着色料

マミジョー(夫の母)の手づくりフリュイ・デギゼ

マジパンは市販のものを使ってもいいですが、作り方はとっても簡単で材料を混ぜるだけ。柔らかすぎたらアーモンドパウダーを適量加えてください。お好みで着色料を加え、クルミやデーツにマジパンを挟めば完成です。メメは主にマジパンをピンク、白や薄いグリーンで色付けしていました。完成したフリュイ・デギゼはすぐに食べなくても数日間は楽しめます。クリスマスが終わったら、残ったフルュイ・デキゼを箱に入れて同僚やお世話になった人によくあげていました。
残念ながらメメが亡くなった後、わが家のクリスマスの食卓からフリュイ・デキゼは姿を消していましたが、20年前に夫と初めてクリスマスを過ごしたとき、夫の母親のマミジョーもフリュイ・デギゼを作ることを知って感動しました。マミジョーが作るフリュイ・デギゼは、赤や黄、青に着色したマジパンにフォークで大きい線を入れるのが特徴です。マミジョーは市販のマジパンを使うのでメメの味とは少し違いますが、食卓がカラフルになってぐっと華やぎます。

結婚して子どもができてからは、マミジョーや夫の親戚とイヴを過ごし、翌日のクリスマスは2世帯住宅の1階に住んでいる私の両親の家で過ごすようになりました。マミジョーの家は狭いので、ニース市内に住むマミジョーの妹のマンションで一緒にイヴのお祝いをします。
クリスマスに限らず大人数で食事をするときは、招待された人も料理の一部を頼まれることがあります。イヴの食卓では、マミジョーがフォアグラやスモークサーモン、デザートを担当することが多いですね。マミジョーもマミジョーの妹も、ほかの親戚もみんな料理が上手。料理があまり得意ではない私は恥ずかしくて、いつもワインや花束を持って参加していましたが、2年前に初めて「13のデザートを用意しましょうか?」と聞いたら喜んでくれて、それからは13のデザートの担当になっています。マミジョーはフリュイ・デキゼを毎年必ず作ってくれるので、私がそろえてきたドライフルーツやチョコレートと一緒に盛り付けます。

観光客向けのお土産物屋さんでも「13のデザート」のセットが売られている

初めて用意したときに驚いたのは、みんな地元の人なのに「13のデザートを初めて食べた」という人がとても多かったことです。おいしいものが身の回りにたくさんあふれている現代人にとって、ドライフルーツなどの素朴で身近なデザートは「いつもでも食べられるもの」。クリスマスのご馳走としては選ばれなくなっているからだと思いますが、少し残念ですね。13のデザートに欠かせないポンプ・ア・リュイルを販売するパン屋さんもあまり見かけなくなっていて、購入できるか毎年ドキドキしています。
ドライフルーツやヌガー、チョコレートといった他のデザートはスーパーで手軽に買えるので安心です。スーパーでは13のデザートのセット販売は見かけませんが、フリュイ・デキゼやドライフフルーツのセットは売っています。また、ニースやアンティーブ、カンヌ、サン・ポール・ド・ヴァンスといった大きな観光地に行けば、観光客向けのお土産物屋さんで13のデザートのセットを買うことができます。値段は安くはありませんが、旅行者でも南仏のクリスマスの伝統を体験できるきっかけになることでしょう。

今年も13のデザートをそろえて、南仏ならではのクリスマスの伝統を子どもたちにも伝えていきたいと思っています。(つづく)

【マイ コートダジュール ツアーズ】http://www.mycotedazurtours.com/
【mycotedazurtours Instagram】https://www.instagram.com/stephanie_francetrip/

『ニースっ子の南仏だより12カ月』


定価2200円(税込)

地元っ子ならではの視点で案内する
南フランス12カ月の暮らしと街歩きの楽しみ方

生まれ育ったニースを拠点に、日本人向け貸し切りチャーターサービスの専門会社を営む著者が、流暢な日本語を生かして綴る南フランスの日々の暮らしと街歩きの楽しみ方。1年12カ月、合計60のエピソードを収録。興味のある月やテーマを選んで気軽に読めるので、日々のちょっとした空き時間を使って太陽の光あふれる南仏コート・ダジュールを旅した気持ちになれる一冊です。4世代に伝わる家庭料理の簡単レシピも収録。
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【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。
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