7月に入ると子どもたちの学校が夏休みになることもあって、私たち大人も普段より自由気ままに、ゆったりとした時間の流れを楽しむようになります。このような生活のことを、私たちフランス人はイタリア語の「dolce vita(ドルチェ・ヴィータ/甘い生活)」と呼んでいます。
フランスでは夏になると日照時間が長くなり、夜10時近くになっても暗くなりません。日本に比べると湿度が低くカラッとしているので、太陽が沈む夕方以降は部屋の中よりも外にいるほうが気持ち良く感じられます。そのため夏になると、大人も子どもも夜遅くまでずっと家の外で遊ぶのです。テラス席で食事を取るのも大好き。自宅に小さなバルコニーしかなくても、夏になるととにかく家の外にいます。
我が家には庭に面した場所に広いテラスがあって、私が幼いころにはソファやテレビも置いて、まるでリビングルームのようにほとんどの時間を過ごしていました。最近は暑いのでエアコンをつけて家の中にいる時間が以前より多くなってきましたが、なるべくエアコンが使わず、代わりにヴォレ(鎧戸、雨戸)を閉めて薄暗い家の中で過ごします。
気温が30℃近くになっても湿度が低いため、日陰にいれば意外と涼しいので、日中は直射日光を避けて家の中で過ごします。でも、夜は涼しくなるから外で過ごす時間が大好きです。週末や友達が来た日は家の前でペタンクをして遊んだり、テラスでおしゃべりをしたり、1人のときはパソコンを持ち出して仕事をしたりもします。午後9時半ごろまでセミが鳴き続いて、とても気持ちいいのです。
海辺や川沿いでピクニックをしたり、緑の多いところでバーベキューをしたりと、夏の間の楽しみはたくさんありますが、夕食前のアペロもその一つです。アペロとは「アペリティフ」の略語で、食事前におつまみと飲み物を楽しみながらゆっくりと会話をする時間です。アペロの季節、すなわち夏が始まるとスーパーの店頭にはオリーブやサラミ、ポテトチップス、生野菜用のディップソースなどがずらりと並びます。
そして、夏の飲み物ですぐに思い浮かぶのが、ロゼワインです。ワイン大国フランスで「ワイン」といえば赤ワインや白ワインを思い浮かべる人が多いと思いますが、夏はロゼを飲むことが多いのです。夏が近づいて気温が上がってくると、スーパーのワイン売り場はびっくりするほどロゼだらけになります。ロゼのほとんどが南仏で作られるので、私たちニースっ子にとってはとても身近に感じられますし、値段もとてもリーズナブル。スーパーで売っているロゼは1本5ユーロぐらいでもとってもおいしくて、10ユーロも払えば高級なロゼを買うことができます。
きれいなピンク色のロゼは南仏の料理によく合って、男性も女性も大好き。ズッキーニのフリッター、ラタトゥイユ、ピサラディエールなど、野菜とオリーブオイルを多めに使ったニース料理にもよく合います。赤ワインとは異なり、キンキンに冷やしてもおいしくて、ワイングラスに氷を入れて飲んでも誰も怒りません。
ロゼワインというとプロヴァンスを思い浮かべる人も多いのかもしれませんが、私の地元ニースのロゼもぜひ飲んでみてほしいです。プロヴァンスのロゼとは違うブドウ品種を使っていてしっかりとした味わいのため、「ガストロミー(美食)のロゼ」と呼ばれます。Braquet (ブラケ)というブドウ品種はニースでしか育てられていませんので、ぜひこのブラケを用いたロゼを探してみてください。
テラスで食事をする人の飲み物を見てみると、やはり一番人気はロゼワイン。でも最近、特に若者がワインをあまり飲まなくなって、ビールを飲む人も増えている気がします。そのためビールの種類も増えていて、地ビールもとても多くなっています。ニースやモナコ、マントンでも地ビールを造っていますが、日本のようなノンアルコールのビールはあまり見たことはありません。ビールにリモナードを入れたパナシェは、父のお気に入りの飲み方です。
もう一つ、南仏の夏のシンボルともいえるのがパスティスです。パスティスは20世紀の初めにアビニョンで初めて作られたそうですが、アニス、リコライス、フェンネルなどたくさんのハーブを使っているため、まるで歯磨き粉のような独特な味がするリキュールです。アルコール度数が40~45度ぐらいの強いお酒なので、グラスに少しだけ入れて、氷と水を加えて飲みます。多くの日本人は苦手な味だそうですが、フランスの男性には特に人気。プラタナスの下でペタンクを楽しむおじさん組には欠かせない夏の飲み物です。
お酒以外では、冷たい水もよく飲みますね。レストランやカフェのメニューにはミネラルウオーターや炭酸水が載っていますが、実は水道水を頼むこともできます。水道水はフランス語で「carafe d’eau(カラフドー)」。無料で、しかもおいしいですよ。もっとも、高級レストランではミネラルウオーターを頼んだほうがマナー違反にならないでしょう。
このほか、大人も子どもも「コカ」と呼ぶコーラもよく飲みます。コーラ以外のソーダだと微炭酸のオランジーナも人気です。もう少し自然な味が良ければ、Limonade (リモナード)がおすすめです。レモネードに発音が似ていますが、日本のサイダーやスプライトのような味の炭酸飲料。大人にも子どもにも人気です。本物のレモン果汁を使ったレモネードはCitronnade (シトロナード)というので、オーダーの際に間違えないように注意してください。

Limonade (リモナード)

ミモザのシロップ
そして最後に紹介したいのが、さまざまなバリエーションを楽しめるシロップです。日本のかき氷にかけるシロップに似ていていろいろな味があり、水や炭酸水で割って飲みます。一番多いのはミントとグレダネン(ザクロやベリーを使ったもの)で、最も簡単な飲み方は水に入れること。フランス語で「sirop à l’eau (シロ・ア・ロー)」と言います。子どもがよく飲むドリンクで、キッズメニューにもよく付いてきます。
カフェやレストランではシロップは比較的リーズナブルだし、市販の炭酸飲料水よりは体に悪くなさそうだし、いろいろな味があるので飽きません。水の代わりにペリエやリモナード、またはビールに入れることもあります。
イチゴ、ピーチ、スミレやミモザの味があって、私のお気に入りはオルジャ。アーモンドを使ったシロップで、甘くてとても懐かしい味です。オルジャを飲むと、お酒の入っていないカクテルを飲んでいるような気持ちがします。その理由は、パスティスにオルジャと水を加えて作る「モレスク」という名前のカクテルがあるため。私は子どものころ、おじいさんがパスティスを飲んでいる横でオルジャをよく飲んでいました。
このように、夏を彩る飲み物はたくさんあります。皆さんもフランスを訪れた際にはお好きな飲み物を探してみてください。(つづく)
【ステファニーからのアドバイス】
◆暑い夏にはさっぱりとしたアイスティーを飲みたくなる日本人も多いでしょうが、残念ながら南仏では皆さんがイメージするような無糖のアイスティーを飲むことはほとんどありません。カフェのメニューに「Ice Tea」がある場合もありますが、ご用心を。オーダーをして出てきた飲み物は、なんと同じ名前の甘いソフトドリンク! ひと口飲んで想像しているものとはかなり違って、びっくりがっかりしてしまうはずです。
◆同じように、アイスコーヒーも、南仏はもちろんフランス全国のカフェメニューに載っていることはほとんどありません。特に南仏はイタリアに近いのでエスプレッソの文化。冷たいコーヒーを飲もうとはあまり思いません。観光客向けのおしゃれなカフェに行けばアイスコーヒーがある可能性もありますが、味が薄かったり濃かったり、日本で飲むものとはかなり違う味でしょう。しかもガムシロップはありません。ホットコーヒー用の砂糖か味のついたシロップを入れることになります。
【マイ コートダジュール ツアーズ】
http://www.mycotedazurtours.com/【mycotedazurtours Instagram】
https://www.instagram.com/stephanie_francetrip/『ニースっ子の南仏だより12カ月』

定価2200円(税込)
地元っ子ならではの視点で案内する
南フランス12カ月の暮らしと街歩きの楽しみ方
生まれ育ったニースを拠点に、日本人向け貸し切りチャーターサービスの専門会社を営む著者が、流暢な日本語を生かして綴る南フランスの日々の暮らしと街歩きの楽しみ方。1年12カ月、合計60のエピソードを収録。興味のある月やテーマを選んで気軽に読めるので、日々のちょっとした空き時間を使って太陽の光あふれる南仏コート・ダジュールを旅した気持ちになれる一冊です。4世代に伝わる家庭料理の簡単レシピも収録。

【Stephanie Lemoine】
1979年フランス・ニース生まれのニース育ち。高校で第3外国語として日本語を選択、大学はパリにある国立東洋言語文化学院(Institut national des langues et civilisations orientales)で日本語と日本文学を専攻。大学時代の1年半、東京学芸大学に留学。ニースを拠点にした日本語ツアーや通訳、各種コーディネートなどを提供する「マイ コートダジュール ツアーズ」に、日本語ドライバーとして2008年から勤務し、10年に社長に就任。フランス政府公認ガイド。日本でのお気に入りの場所は宮島(広島県)と湘南(神奈川県)。大好きな鎌倉で老後を過ごすのが夢で、2人の息子たちには毎日欠かさず日本の話をしている。