第9回 新桶で仕込む、兄弟の新しい挑戦(足立醸造・兵庫県)
「味噌仕込みに使用する大桶を2本新調します」
香川県の小豆島で開催されていた「木桶職人復活プロジェクト」に参加したときに知り合った足立醸造の足立兄弟・兄の裕さんから、2017年の初秋に1通のメールが届きました。
兵庫県の山間にある蔵
後継者の足立兄弟。兄の裕さん(左)と学さん
姫路から電車とバスを乗り継いで約2時間半。兵庫県のほぼ真ん中、山あいの景色が続く道路沿いに足立醸造の蔵とショップがあり、醸造仲間と年に数回開催するイベントは、オープン前から人が並ぶほどたくさんの参加者でにぎわいます。
1889年(明治22年)創業、有機原料にこだわった天然醸造、木桶で造る醤油が有名な蔵ですが、「木桶絶滅に歯止めをかけたい」と、これからこの蔵を継いでいく足立兄弟(兄の裕さんが製造、弟の学さんが営業を担当)が、若手の桶職人チーム「結い物を紡ぐ会」のメンバーとともに、農薬・肥料を使わない農法で栽培した大豆と玄米で木桶仕込みの味噌を造り始めたのです。
新桶作りを担当したのは、徳島県の桶職人で「司製樽」の原田啓司さん。現在は「結い物で繋ぐ会」の棟梁として、醸造用の新桶作りに積極的に取り組んでいます。
完成した新桶と筆者
醸造用の木桶は酒蔵、漬け物屋や醤油蔵を経て、味噌蔵にまわってきたといわれています。現在は大きな水槽のようなプラスチック容器で仕込むのが主流のため、全く新しい木桶で味噌を仕込んだという味噌蔵は、戦後から現在に至るまで片手で足りるほどの数ではないでしょうか。
「情報はほとんどないけれど、とにかくやってみて木桶自体の様子と味噌の出来具合を見ていくしかないよね」と前向きに話していた足立兄弟。初めての仕込みでは、自社製造の米味噌を“種味噌”として全体量の1パーセントほど混ぜたそうです。種味噌を加える目的は造りたい味噌に似せるためといわれていますが、「全然似なかったんですよねぇ」と裕さんは笑って話してくれました。
ちなみに、味噌が完成したら木桶を空にして、たわしを使って真水で洗い、次に使うときには1日1回真水を満タンに張り、これを3日繰り返してから仕込みをするのだそうです。
結Yuiは「玄米みそ」のほかに「米麹みそ」もある
醤油の新桶は木桶感がそんなに強く出ないそうなのですが、1年目の味噌桶は木桶の風味も思わせる元気いっぱいのわんぱくな子どものような味わい。2年の熟成を経て塩慣れしてきた味噌は、コクとまろやかさが出て味が落ち着いてきたようです。
新桶で仕込んだ味噌が発酵熟成の期間を過ごすのが、以前は醤油の木桶が保管されていた場所だからなのか――足立兄弟の造る味噌は、食べた後に鼻に抜ける香りに醤油を感じます。
未来を担うこの二人の挑戦は、これからも続いていきます。(つづく)
◆岩木さんセレクトのイチオシ味噌◆
結Yui玄米みそ
【種類】米味噌
【味】10割麹、食塩相当量12.4g
【色】茶色(熟成期間10カ月)
「木桶を結ぶ」「地域を結ぶ」「食が人を結ぶ」……木桶は昔から結い物と呼ばれています。地域の活性化への期待と、おいしい味噌で食卓を囲んでほしいという思いを込めて名づけられた商品名。次世代の子どもたちへ、味噌の味わいを結ぶ時間を届けてくれます。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp