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にっぽん味噌蔵めぐり
実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさき
第3回 木桶で白味噌を造る唯一の蔵㊤(片山商店・京都府)

岩木みさきさん

 私が味噌にこだわるようになったきっかけには、第2回「基本を学んだ、はじまりの蔵」で紹介した糀屋川口との出会いとともに、忘れられない経験があります。
 糀屋川口への初訪問から数カ月経った2015年の暮れ、独立初期からお世話になっていた知人を通じて、「発酵をテーマにしたトークイベントを企画してみないか」との話をいただきました。
 当時は、健康に対する意識の高まりから、甘酒や塩麹をはじめとする発酵食について人々の関心が集まってきたころ。料理教室以外は、自分で企画を考えたことも多くの人を前にトークショーを経験したこともありませんでしたが、“何でも実践してみよう”精神の私は、迷わず「ぜひやらせて下さい!」と返事をしました。挑戦する機会をいただけたことが、とにかく嬉しかったのです。

 「発酵をテーマに」というオーダーを受けたものの、何をどうやって取り上げたらよいのだろう。悩んでいたとき、ふと頭に浮かんだのが、糀屋川口を訪ねて味噌づくりをしたときのことと、祖母の手づくり味噌の味でした。「後悔しないように全力で生きよう!」と思いながらも、祖母から味噌のつくり方を教わらなかったことは心残りでした。

発酵をテーマに開催したイベントに登壇(2016年4月3日、東京カルチャーカルチャー、写真提供:岩木みさき)

 「そうだ、味噌を紹介しよう!」
 そう思いついたものの、よく考えてみると、私はまだ味噌について発酵食であること以外は詳しい製造工程も種類も味わいの違いもほとんど知らないのだと気づきました。いや、もしかしたら私に限らず味噌を食べている日本人の多くが、あまりに身近すぎで味噌のことをほとんど知らないのではないか。それなら、私が調べて日本の発酵調味料である味噌を紹介しよう――自然とそう思えたのです。

 では、どのような味噌をどんな切り口で紹介すれば、多くの人にその魅力を伝えることができるのだろうか。単においしいとか身体に良いとかだけではつまらない。わざわざトークイベントに足を運んでもらうなら、「へぇー!」と思ってもらえることを伝えたい。そんな気持ちで情報を集めているうちに、木桶仕込みの味噌が希少であることを知りました。そういえば、糀屋川口にも木桶が並んでいた……。
 好奇心旺盛で、気になり出すと納得するまで調べたいタイプの私は、木桶について知ろうと、すぐ川口さんに連絡。「神奈川県・小田原に桶辰という桶屋さんがあるよ」と教えてもらい、電話で訪問の約束をして伺いました。

 桶辰の主、杉山孟(はじめ)さんは「木桶のことが知りたいなんて珍しいですね」と言いながらも、普段は人を入れない工場を案内してくださり、杉山さんも紹介されている『桶屋の挑戦』(中公新書ラクレ)という1冊の本を手渡してくれました。それは、便利さを求める陰で絶滅寸前になってしまった伝統的な木桶の良さを伝えたいと立ち上がった、桶職人や桶に魅了された人たちの奮闘記。私はこの本を通して木桶にかかわる職人たちの存在を知ったのです。
 直感的に「これだ!」と感じた瞬間。木桶とともに木桶仕込みの味噌も希少であることを知り、初めて手がける発酵イベントは「木桶仕込みの味噌」にクローズアップすることにしました。

岩木さんプロデュースの「ガチみそⓇ」

 いくつかの味噌蔵への訪問後、会場スタッフとの打ち合わせでのこと。相撲の世界で真剣勝負を表す隠語である「ガチンコ」という言葉を使いながら、木桶仕込みの味噌を手がける蔵人の仕事ぶりと味噌の味わいへの感動を熱く語る私の話を聞いたイベント会場の店長が、「ガチな味噌……いいね!」とひとこと。そうして生まれたのが、「ガチ味噌」というキーワードでした。
 2016年の4月に東京・お台場で開催された「ガチ味噌会~ホンモノ最高お味噌7種を味わう会」は、80人規模のイベントに。私がプロデュースする「木桶仕込みの味噌=ガチみそⓇ」という商品も、このイベントがきっかけで誕生したのです。

京都・亀岡にある片山商店(写真提供:岩木みさき)

 私が味噌と木桶に文字どおり“ガチ”で向き合うことになったこのイベントは、日々のひとつひとつの出会いが新たな可能性を生み出す、と実感した機会でもありました。こうして「にっぽん味噌蔵めぐり」が本格的にスタート。私は、京都の片山商店を訪ね、「これがお味噌!?」と驚くような奇跡の味噌と出会うことになります。(つづく)

★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。

【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】http://misotan.jp
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【いわき・みさき】
1988年神奈川県生まれ。10代のころに摂食障害や肌荒れに悩んだ経験から、食の大切さを実感して料理の道へ。病院栄養士として3年間勤務したのち、2012年に実践料理家として独立。その後、日本の伝統調味料である味噌に魅せられ、4年で日本各地60カ所以上の味噌蔵探訪を続け、その成果をWEBサイトやレシピ、イベントなどを通じて発信している。
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