カラフルなサポテファミリー アグロバニュワンギで「熟れたら食べて」とお土産に手渡されたのは、黒柿とも呼ばれるブラックサポテ。チョコレートプディングのような味がすることで有名ですが、僕が食べたときはとびきり薄いアメリカンコーヒーのような味がしました。どうやら、食べごろを見誤ったようです。
果肉が黒い柿もありますが、比較にならないくらい真っ黒な果肉のブラックサポテ
フルーツをめぐって旅をしていると、マメイサポテ、チコサポテ、サンサポテ、グリーンサポテ......果物の世界には、名前にサポテを冠するだけで姿かたちはお互い似ても似つかない「フェイクサポテ」で溢れています。
「サポテ」というのは、甘く柔らかい果物の総称。現在のメキシコでかつて話されていたアステカ語に由来します。アップルとの違いは、単にサポテという名前の本物が存在しないという点でしょうか。
僕にとってはじめてのサポテは、グアムで食べたイエローサポテ。エッグフルーツという名前で呼ばれる方が多いこの果物は、まるで乾いたゆで卵の黄身を食べているようなボソボソした食感で、決して美味しいとは思えませんでした。長らく興味の対象外だったエッグフルーツを再び手に取ったのは、ハワイのファーマーズマーケット。最高の熟れ具合で食べたエッグフルーツは、まるでシルクスイートの焼き芋のような滑らかな食感とねっとりした甘みのコンビネーション。果物を食べているのに、なぜか口の中に広がるのはホクホク感。これは初めての体験でした。
見るだけでホクホクしてくる、完熟エッグフルーツ
エッグフルーツに限らず、果物には食べごろがあります。その食べごろをマーケットで見極めるのは至難の業。初見の果物は一度で判断することなく、何度か試して、焦らず時間をかけて仲良くなっていくのがよさそうです。もっとも、多くの果物にとってベストな食べごろというのは、マーケットではなくその木の下でのみ出会うことができるのですが。
不思議な木の実「メロン」 数あるサポテのなかでも最も美味だといわれるものは、白柿とも呼ばれるホワイトサポテ。サポテファミリーであると同時に、「メキシカンアップル」というフェイクアップルでもあります。あるときはアボガドのような、あるときは洋ナシのような、食べるたびに全く異なる美味しさに魅せられるビックリ箱のような不思議な果物です。
硬いまま販売されるホワイトサポテ。ハワイでは、リクエストすると食べごろ果実を店の奥から出してくれました
しかし、早く食べすぎると硬くて甘くなかったり、熟れすぎると薬草のように苦くなったり、食べごろの難しい果物でもあります。よく熟れたホワイトサポテを半分に切ると、まるでプリンのようにスプーンですくえてしまうのですが、この状態ではとても流通に耐えません。そこで、まだガチガチに硬い状態で収穫し、追熟するのを待つことになります。旅先で運良く出会っても、帰国するまでに無事食べられるかどうかはさらなる運が必要です。
ちなみに、ホワイトサポテは実は国内でも少量ですが流通しています。昔は沖縄の市場でしか見かけることはありませんでしたが、最近ではメルカリでも販売されているようです。タイムリミットを気にせずゆっくり追熟できるので、意外とアリなのかもしれません。
ぶどうの場合、巨峰、スチューベン、デラウェアといった多くの栽培品種が存在し、少なくともお気に入りの品種を選ぶことで味の方向性は担保されています。ホワイトサポテにも栽培品種というのは存在しますが、生産者にも消費者にも、ぶどうの品種のようには意識されていません。きっと裏庭で種から育てたようなものもあるのでしょう。種から育った果物は、姿かたちは似ていても、味はまったく別物ということが珍しくありません。野生と栽培のあいだにあるような果物は、たとえ同じ「ホワイトサポテ」であっても、味の方向性からして大きな個体差があるようです。
さて、アップルだったり、サポテだったり、果物の総称にもいろいろありますが、古代ギリシアまでさかのぼると、丸い木の実は全てメロンと呼ばれていたそうです。いまほど果物の栽培化、すなわち味の均一化は進んでいなかった時代。「食べるたびに全く異なる美味しさに魅せられるビックリ箱のような不思議な木の実」は、きっとホワイトサポテだけではなかったはずです。
叶わぬ願いではありますが、「当時『メロン』と呼ばれていた不思議な木の実を食べてみたい」と、メルカリで試し買いしたデラウェアそっくりな味のホワイトサポテを食べながら思いました。
メルカリで購入してみたホワイトサポテは、なんとデラウェアの味がしました
【森川寛信公式ウェブサイト】
http://worldbeater.tv/