ボルネオ島最後の秘境マラジャイ マレーシアとブルネイを合わせてもボルネオ島全体の30%にも満たず、残りの70%以上はインドネシアです。ところが、オランウータンやテングザルといった珍しい動物に出会えるエコツーリズム大国として有名なのはマレーシア。観光資源として活用されていないだけで、インドネシア側にもたくさんいるんですけどね。同じように、ドリアンやランブータンといった珍しい果物を食べられるフルーツツーリズム大国として有名なのはマレーシア。でも、観光資源として活用されていないだけで、インドネシア側にもたくさん隠れているのかもしれません。
そんなボルネオ島のインドネシア側で、マラジャイ村が発見されたのはほんの数年前のこと。南カリマンタン州バランガン県の最深部に位置するこの村は、政府のプログラムコーディネーターによってたまたま発見されました。最寄りの村から道なき道をバイクで1~2時間。町には小さい売店が一軒のみ、週1回生活雑貨の移動販売屋台がくる以外は外界との接触をほぼ絶たれています。
最近はボルネオ島といえども、珍しいワイルドフルーツを見かける機会はどんどん減っているようです。ドリアンやジャックフルーツなどの「売れる果物」以外は、商流にものらず儲からないので次々とゴムやアブラヤシのプランテーションへと姿を変えました。ところが、マラジャイは隔てられているがゆえに、プランテーション化の魔の手から奇跡的に逃れ、ボルネオ島のエンデミックフルーツ(固有種)がタイムカプセルのように保存されています。

レンジャーとともに、ワイルドフルーツを探してマラジャイを歩く
森の宝石バッカウレア 僕がマラジャイを訪れたのは、たしかその年のフルーツシーズンの終わりかけだったと思います。「あと2週間はやければ、もっといろいろあったんだけどね......」というマラジャイのレンジャーに、「僕だってそうしたかったけど、2週間前は仕事忙しかったんだよね......」と心の中で答えました。
レンジャーに連れられて、マラジャイの森を歩きます。いったいどんな果物との出会いがあるのでしょう。さっそく、スネークフルーツやマンゴスチンの野生種などが隠れていました。派手で目立つ色の果物はあまり見当たらず、よく見ないと見過ごしてしまいそう。アフリカで動物サファリを楽しむために大事なのはスゴ腕レンジャーの存在ですが、これはフルーツサファリでも同じようです。

無数のトゲが一度刺さると離れないジャングルスネークフルーツは、小さい頃に草むらで洋服にひっついて離れなかったオナモミのよう。この真っ黒い鱗は、目立たずこっそり動物にひっついて移動するための進化なのかもしれません

バッカウレア・アングラータ。収穫前は木の幹を覆うぐらいびっしりと果実が連なります
地味な見た目の果物のなかでひときわ目を惹いたのは、真っ赤な見た目でブラッドスターフルーツとも呼ばれるバッカウレア・アングラータ。木の幹をびっしり覆うように鈴なりにたくさんの実をつけます。向きによっては星の形に見えなくもないこの果物は、黄色い星の形をしたスターフルーツとの親戚関係は特にありません(笑)。分厚い皮をこじ開けるとあらわれるパールホワイトに輝く果肉を口に入れると、上品な甘みのなかに僅かな酸味と苦みを感じました。
はじめて食べるバッカウレアという果物への興味を察したのか、ここはバッカウレアの森だとでも言わんばかりに、レンジャーはあたりに落ちている小粒の茶色い果実をいくつか拾ってくれました。皮を剥くと、今度はパールレッドに輝く果肉が顔をのぞかせます。パール系に輝く果肉は、ホワイト、イエロー、レッド、オレンジ、そしてなんとブルーもあるそうです。
南カリマンタンのフルーツシーズンはランブータンにはじまり、バッカウレアで終わります。ドリアンなどの大物シーズンが終わってひっそりした森の最後のお楽しみのような、森の宝石バッカウレア。季節はずれに訪れたマラジャイの森は、まったく守備範囲外だった新しい果実との出会いをプレゼントしてくれました。

パールに輝く果肉のバッカウレアは、まさに森の宝石!
首都パランカラヤというデッドライン これまでインドネシアの観光資源というと、残念ながらバリ島ぐらいしか知られていませんでしたが、近年急速にバリ島以外にスポットライトを当てはじめているように思います。ジョコウィ大統領が掲げる「10 New Balis(10箇所の新しいバリ)」計画もそうですが、きっとインドネシアには知られざる新しいバリがまだまだ隠れています。もちろん、隠れているのは観光資源に限りません。マラジャイ、ここはインドネシアの可能性を象徴するような村だと僕は思うのです。
先日ジョコウィ大統領が、インドネシア首都移転の方針を決定しました。移転先の有力候補と目されているのが、中央カリマンタン州パランカラヤです。横長に無数の島々が連なるインドネシアにおいて、ちょうどその真ん中に位置するのがボルネオ島。インドネシアではカリマンタンと呼ばれます。そのさらに中央にこそ国家の首都はあるべきだという初代大統領スカルノの号令で、第1次首都移転計画が起こったのはいまから約60年前の話です。
もしインドネシアの首都がパランカラヤになったら、カリマンタンはいまよりずっと身近になるはずです。ただ、まだまだ隠れているかもしれない第2のマラジャイにとってはあまり良い話ではないかもしれません。かつて「キューバに行くならカストロの目の黒いうちに」と言われたように、デッドラインの決まっている旅先というのがたまに存在します。ボルネオ島は、首都パランカラヤの誕生が、ひとつのデッドラインになるのかもしれません。次の年末は中央カリマンタンをサファリ(旅)する計画に、さっそく思いを巡らせています。
【森川寛信公式ウェブサイト】
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