色違いはセレンディピティから 多くの果物には兄弟のような果肉の色違いが存在します。 色素は見た目だけでなく、果肉の色にも影響します。たとえば、赤い果肉のブラッドオレンジはよく知られています。17世紀シチリア島に突如出現したこのオレンジは、果肉にアントシアニンという赤系色素を含んでいます。セレンディピティ(serendipity:予期せぬ幸運に巡り合うこと)のような確率で、果物はときにありえない色違いの突然変異を生み出すようです。

目の覚めるような真っ赤な果肉の野生のリンゴ。リンゴの原種は、白肉・赤肉どちらなのでしょうか
僕が赤肉リンゴにはじめて出会ったのは、バンクーバー(カナダ)。バンクーバーでは、毎年10月2週目の週末にアップルフェスティバルが開催されています。なかなか市場に出回ることのないレアな品種の即売会は早い者勝ち。土曜日の朝9時にバンクーバー空港に到着してそのまま会場に直行しましたが、朝11時のオープン前だというのに長蛇の列! リンゴは日本人にとって最も馴染み深いフルーツのひとつだと思いますが、どうやらカナダ人のリンゴ愛にはかなわなそうです。

アップルフェスティバルのメインイベントのひとつは、なんと60種類以上のリンゴの食べ比べ!
会場の一角では、バンクーバーのあるBC州(ブリティッシュ・コロンビア州)各地から集められた100品種以上のリンゴが展示されていました。それらの中でもひときわ目を惹いたのが、「Hidden Rose(ひみつのバラ)」という赤肉リンゴでした。ただし展示のみ! 今回のバンクーバー滞在はたった1日。翌朝にはカムループスというBC州の地方都市に移動しなくてはなりません。でも、なんとしてもこの果物を食べなくては!
早々にアップルフェスティバルを切り上げ、バンクーバー最大のマーケットであるグランビルアイランドに向かいます。マーケットで目当ての珍しいフルーツが見つかるかどうかは運試し。10店舗近いフルーツ屋が点在するこの巨大マーケットの片隅で、今回は運よく見つけることができました。

切ってみるまでわからない赤い果肉は、まさに「ひみつのバラ」
早速食べてみると、口の中いっぱいに心地よい酸味が広がりとても美味しい。バッグの空きスペースがいっぱいになるぐらい、たっぷり買い込んでしまいました。切ってみるまで赤肉とは気づかないこのリンゴを、「ひみつのバラ」とはよく言ったものです。ごく最近になって日本でも、長野県産の赤肉リンゴが少し出回るようになりました。個人的には、願わくば「ひみつのまま」にしておいてほしかった品種です。
ソーシャル化するひみつのフルーツ ジョグジャカルタ(インドネシア)で立ち寄ったココナッツ屋に、不思議なココナッツがありました。外見はいたって普通のグリーンココナッツなのですが、先っぽをナタで切り落とすとほのかに染まったピンク色が顔をのぞかせます。収穫直後が発色のピークで徐々に色落ちし、5日後には普通のココナッツと見分けがつかなくなります。つまり、収穫からわずかなタイミングを逃すと、その正体は「ひみつのまま」になってしまうのです。

収穫から2日経って若干色落ちした状態。収穫直後はもっとピンク色!
「ピンクのココナッツがあったけど、食べにくる?」
しばらくして、僕の趣味を知るロンボク島(インドネシア)の友人からこんなメッセージが届きました。どうやらクラパ・ウルンというらしいこの品種のココナッツは、インドネシアでは島を跨いで存在しているようです。起源は定かではありませんが、いつの時代かどこかでおそらく突然変異によって誕生したこのココナッツは、人知れずいくつもの島を越えて伝播してきたのでしょう。
このありえない色違いのココナッツは、SNSでもよくシェアされます。食べた人、売っている人、そして苗木を売っている人も! SNSの時代とは、長い間「ひみつのまま」であった果物にとっても新たな伝播の時代なのかもしれません。
【森川寛信公式ウェブサイト】
http://worldbeater.tv/