世界中どこのスーパーマーケットを訪れても、そこで売られている果物の種類はせいぜい20~30種類。もちろん、誤差の範囲で珍しいものが売られていることもありますが、きちんと栽培され商流にのっている果物の種類は、それほど大差ないように感じます。
栽培の反対は野生。興味関心の赴くままに、商流にはのらないような珍しい果物を追いかけていくと必ずたどり着くのが、野生の宝庫ボルネオ島。世界一多様なフルーツ生態系をもつ島です。

ブルネイの中央市場。スーパーマーケットよりも多様性に富むマーケット(市場)
ランブータンが選ばれたわけ インドネシア、マレーシア、ブルネイの3ヵ国が領有する世界で三番目に大きい島、ボルネオ島。その代表的な果物といえばドリアンですが、たいていマンゴスチンやランブータンといった小粒な果物と一緒に売られています。ドリアンのような身体を温めるホットフルーツを食べるときは、逆に冷やしてくれるコールドフルーツを一緒に食べることでうまく調整するのは、現地ならではの知恵袋です。

マーケットで山積みされたランブータン。赤や黄色があります
あるとき立ち寄ったフルーツスタンドで、ドリアンと並んで売られている毒々しいまでに赤黒い見慣れない果物を見つけました。
「このエイリアンエッグみたいなのはなに?」
「プラサン! ワイルドランブータンみたいなものかな。ランブータンより断然甘いよ!」
ワイルド(野生)! という言葉に胸躍らせながら食べたプラサンは、よく知るランブータンに比べて圧倒的にジューシーで甘くて美味しい! 「プラサンとランブータン、どっちが美味しい?」という問いに、ランブータンと答えた人を僕はまだ見たことがありません。マレー語で「ひねる」を意味するプラサン。その名の通り、上半分を掴んでひねると、パカッと皮が剥けます。おまけに、ランブータンのように果肉がうまく種から離れない食べづらさもありません。
しかしながら、世界中の市場で圧倒的によく見かけるのは、剥きやすさ、食べやすさ、美味しさの三拍子揃ったプラサンではなく、ランブータン。理由を尋ねてみると、プラサンは栽培が難しいから流通できないと口を揃えて言われます。でもきっと、栽培しやすいからランブータンが選ばれたわけではなく、選ばれたから栽培しやすく進化していったのだと思います。地味なエイリアンエッグのようなプラサンか、鮮やかな真っ赤で毛むくじゃらのクッシュボールみたいなランブータンか、どちらを手にとってみたいかは明らかでしょう。
ワイルドなランブータンは、知られているもので20種を超えると言われます。でも、ワイルド(野生)にはきっと、僅差の勝負に涙を飲んで、日の目を見ることなく消えていった幻のランブータンがたくさんあるのでしょう。(つづく)

剥きやすさ、食べやすさ、美味しさのすべてにおいてランブータンを凌ぐプラサン
【森川寛信公式ウェブサイト】
http://worldbeater.tv/