気合いを入れたり、困難に打ち勝つためのアドバイスをしたり、時に厳しく大声で励ましたり……。先生には、いろいろな場面で教え子たちに「活(カツ)を入れる」ことを求められています。でもそんな先生にも、これまでの人生の中で自分自身に活を入れる場面がきっとあったはず。そこで、「あのときは頑張った」「あの言葉に支えられた」などのエピソードを、さまざまな分野で熱血指導を続ける現役の先生に突撃インタビュー。アクティブに走り続ける先生たちの生き方や意外な一面に迫る新連載企画。第4回は振付師のラッキィ池田先生です。意味がないところに意味がある

僕たちみたいな、ものを作って評価を受ける人間には、持って行った案をクライアントから否定されても次々と代わりのアイデアを出す使命があります。「できません」では済まされないのです。
「もうこれはできない」「逃げ出したい」と思うことはしょっちゅうです。そんなとき自分を奮い立たせるのが、岡本太郎さんの
、「芸術なんて道端に転がっている石ころと等価値だ」という言葉です。ちょっと自分の中で大したものを作ったような気になっていたのでしょうね。案が「面白くない!」と否定されたとき、自分に言い聞かせます。「自分の作ったものがすごいと思ったら大間違い。だったら石ころをどんどん作ろう」って。
石ころってその辺に転がってるだけで、意味はないじゃないですか。けれどその無意味さって、その人の生きるエネルギーがダイレクトに詰まった塊にもなるんです。志村けんさんの「アイ~ン」や間寛平さんの「かい~の」なんて、意味はないけど強烈でしょ。
意味がないところに意味があってあなどれない。「自分の石ころ=エネルギーは面白いのか」。そういう最終的な到達点が好きで、振り付けを考えて教える仕事をしています。

“おもしろさ”を追求する授業の様子
写真提供:吉本総合芸能学院(NSC)
本でも曲でも一発芸でも、意味づけすればするほど、眠たくなってきちゃう。子ども向けに“いい”作品を作るというのも、大人の感性を押しつけているし、さらにその大人の感性で作られた子ども像が目に浮かんでくると、途端につまらなくなる。世の中ってもっと混沌としていて、デタラメなところがあるものじゃないかな。
だから、子どもたちには常に自由でいてほしいですね。興味のあることにそのまま向かわせてあげたい。0歳児向けの番組『いないいないばあっ!』(NHKEテレ)の振り付けで大切にしているのは、まずは「地球に生まれてきておめでとう!」というメッセージ。世の中の面倒なことに捉われず、ただ子どもたちがはしゃいで楽しめるものを目指しています。
欲を捨てたら人は人じゃなくなってしまう。ものを作る側の人間は何らかの抑止を外したほうが新しいものを生み出しやすい反面、欲を抑える謙虚さも大事。この2つの考え方が常に僕の中にあります。欲望のまま新しい「石ころ」を生み出すけれども、その評価は謙虚に受け止めなければいけない。それをエンターテインメントと評価されるように、これからも前に進んでいきます!
カツナンバーゆず『LOVE&PEACH』
価格:250円(税込み)
※配信限定シングル
販売元:株式会社トイズファクトリー
3.11の震災後、ゆずの2人がみんなで踊って東北に元気を送ろうと作った曲。「復興に何年かかるかわからないけれど、その中でどれだけ元気にやっていけるかを教えてくれた曲です」。振り付けはもちろんラッキィさん。今年も福島の方々と踊った。「忘れちゃいけない」と語る目は真剣だ。
カツめし“ハングリーさ”で乗り越える 「ここぞというときに食べちゃうと、眠くなっちゃう」と笑う。仕事中は“ハングリーさ”を大事にするため食べ物はほとんど口にせず、終わった後ゆっくり食事をとる。「とはいっても、お守りで『ウィダーinゼリー』を飲むことはありますね。だって、エネルギーって書いてあるから(笑)」。
カツアイテム『コロコロコミック』(小学館)
振り付けする際など、テンションを上げる前に読む。「全編どこを読んでも支離滅裂・意味不明」「混沌としたものを肯定している素晴らしさ」「意味を求めずに突き進む勇気」。ラッキィさんの目指す世界観が詰まった月刊コミック誌。
カツ語「芸術なんて道端に転がっている石ころと等価値だ」岡本太郎さんの言葉。クライアントから案を否定されたとき、芸術とは、ものを作ることとは何かを、考え直すきっかけとなっている。
【ラッキィ池田オフィシャルサイトのホームページアドレス】
http://www.luckyikeda.com/取材を終えて
トレードマークのゾウのじょうろ。服を着るのと同じ感覚で頭に乗せる
身ぶり手ぶりで笑いを交え、一つ一つ丁寧に質問に答えてくれる姿はまさにエンターテイナー。カツナンバーを流して私たちに聴かせてくれ、取材後には「お見送りしまーす」と笑顔で玄関先までエスコートしてくれるなど、サービス精神にあふれたとても紳士的な方でした。混沌、デタラメ、めちゃくちゃ……。そんな世の中を受け止めて突き進もうという姿勢は終始一貫していて、固い信念を感じました。振り付けのアイデアは、東京の竹下通りや大阪の道具屋筋商店街などの“カオスな場所”で仕入れるそう。まだまだ聞きたいことはありましたが、残念ながら「ウォッチ! 今何時? ……一大事!」状態。これもきっと妖怪のせい(!?)。
(構成:平 文香、撮影:佐藤博美)
※この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース15期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets