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きれいをつくる
先生たちのちょいカツ!
第3回 青島広志 先生(作曲家、ピアニスト、指揮者、作家ほか)
 「あのときは頑張った」「あの言葉に支えられた」などのエピソードを、さまざまな分野で熱血指導を続ける現役の先生に突撃インタビュー。アクティブに走り続ける先生たちの生き方や意外な一面に迫る連載の第3回は作曲家、ピアニストの青島広志先生です。音楽だけでなく作家、イラストレーターとしても広く活躍されている青島先生は、自分自身に対してどんな「カツ」をいれているのでしょう。

カツは入れません!



 子どものころ、学校の先生に「立ってなさい!」って叱られたり、手をひっぱたかれたりは当たり前。当時は今と違ってとにかく怖い先生が多かったんです。「プールに入りたくない」という生徒に、「はい、わかりました」なんて簡単に認めてくれる先生はまずいない。プールの授業を休むためにわざと目を結膜炎にしてしまったこともあるくらい、先生は生徒にとって威厳のある存在。散々カツを入れられました。だから、今さら自分にカツを入れたくないし、指導者として生徒にカツを入れるなんてこともいたしません。まずはほめて、一人ひとりの良いところを見てあげるように指導しています。

 ただ、音楽家になってから、自分にカツを入れなければならないような出来事に直面しました。それは両親を亡くしたときです。父が危ないという知らせがあった日は教科書に掲載する曲づくりの真っ最中。締め切りが明朝に迫っていたので、楽譜を持って病院に駆けつけました。父の最後を看取ってから泣いている母を家まで送った後、霊安室の前で一人夢中で曲を書き上げました。次の日、最初に会った人は親類でも誰でもなくて、楽譜を取りに来た方だったのを覚えています。

1週間後に迫る音楽劇の練習に訪れた共演者と
 母が亡くなったのは突然で、東京藝術大学の授業の後に『題名のない音楽会』(テレビ朝日)のテレビ収録がある日でした。午前11時に母が逝ってしまったのですが、コンサートはそれから3時間後。しかもその日は新年を飾る華やかな舞台。私は着物姿で面白いトークをして会場を盛り上げるだけでなく、80人のオーケストラの指揮もしなければならない。とても困難な状況にありましたが、会場には1000人ものお客さまが楽しみに集まっている。そこで降板するという選択肢は考えられませんでした。

 振り返れば、そのときこそ、自分にカツを入れて乗り越えたというべき試練だったのかもしれません。でも本心は、「逆境に立たされた自分がどこまで働けるのか試してみたい」という気持ちも強かったように思います。

イラスト: 青島広志
 今、音楽家としてだけでなく作家やイラストレーターなど、さまざまな仕事をさせていただいております。私が作った曲や演奏に感動してくださる方がいらっしゃる、私が書いた本を面白いと読んでくださる方がいらっしゃる。それらは私にとってこの上ない幸せであり、人生の糧になっています。カツを入れる必要はないですね。


カツナンバー
「頑張るぞ!」というときに音楽はいりません
 「音楽家は仕事と練習に音楽が充満しています。それ以外は聞きたくありません」と、プライベートはできるだけ静かに。当然「頑張るぞ!」というここ一番に臨むときも音楽は不要だとか。「『死ぬときに聞きたい曲は?』とよく質問されますが、死ぬときくらい静かに死にたいです」

カツめし
コーヒーとこしあんの和菓子
 ギャラ交渉に臨む前に飲むのがコーヒー。「興奮するからダメ」と子どものときに飲むことを許されていなかったコーヒーは、軽く気合いを入れる際のドリンクにぴったり! 舞台の前にはエネルギー源として甘いものを食べることが習慣に。お気に入りは後味がすっきりとしたこしあん。

カツアイテム
愛犬の「のと」ちゃん 

のとちゃんとのツーショット写真
写真提供:青島広志
 今年3月、愛犬ののとちゃんとの生活がスタートし、「最近は犬のために生きてみようかな」と心境に大きな変化が。もともと犬好きだったけれど、海外や国内を駆け回る忙しさに飼うことを諦めていた。しかし、60歳を迎えた今年、約15年の寿命があるといわれる犬と生涯暮らせるのは、これが最後のチャンスかもと思い決意。能登半島で生まれた柴犬ののとちゃんを迎え入れた。




田村セツコ著『HAPPYをつむぐイラストレーター』

価格:本体1600円+税
発行:河出書房新社
 好きな一冊は、個人的にも親交があるイラストレーター・田村セツコさんの本。「落ち込んだときは自分の周りにあるよいことを書きましょう」という田村さんの生き方や考え方にとても共感できるそう。







カツ語
親の七光りではなくやってこられた自分
 「嫌いな言葉は親の七光りだから、その逆説的な言葉かな?」。若いころは親の七光りでチャンスに恵まれている人と、ゼロからのスタートだった自身とのギャップにかなり苦労したと話す。音楽家への道を自身の努力のみで切り開いてきた青島先生だからこそ言える重みのある言葉。


【『青島広志オフィシャルサイト』のホームページアドレス】
http://aoshima-hiroshi.com/


取材を終えて
 開口一番、「私はカツを入れません!」ときっぱり。取材意図を考えて「マズイ!」と焦る私をよそに、青島先生は次から次へと流れるように話題を展開。ほめて伸ばす指導方針、面倒で苦手な(!)曲づくり、独身を貫くライフスタイルなどなど、飾らずストレートに話をしてくれました。そのユーモア満載のエピソードから見えてきたものは、プロとしてのブレのない生き方。“カツを入れない”青島先生ですが、レッスンや舞台前は甘い物の差し入れを欠かさないのだとか。でも、これって教え子を元気づけるための先生流「カツ!」なのではないのでしょうか?

(構成:狭間由恵、撮影:高石かおり)


※この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース15期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets



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【あおしま・ひろし】
1955年東京都生まれ。東京藝術大学および同大学院修士課程を首席で修了。作曲家、ピアニスト、指揮者としての活動は活発で、NHK『ゆかいなコンサート』、テレビ朝日『題名のない音楽会』、日本テレビ『世界一受けたい授業』などテレビ出演も多数。『火の鳥』(原作/手塚治虫)、『黒蜥蜴』(原作/三島由紀夫)、合唱曲『マザーグースの歌』、ミュージカル『11ぴきのネコ』など作品は200 曲にも及ぶ。音楽家以外にも作家やイラストレーター、少女漫画研究家などの多彩な顔を持つ。
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