いつも描き旅の計画は、とにかくたくさんのガイドブックや動画を見たりしながら、「ここ描きたいかも?」と感じる場面を探すことからスタートします。昔と違って、今はインターネットのおかげで海外の小さな町や村の情報を知ることができるので、旅のイメージがしやすくなりました。
ただ、現地に行ってこそ出会える風景もあるため、ネット情報はそこそこに。私は、散策している間に変化する光と影、そこで垣間見る人々の暮らし、道端のさもない草花、たまに遭遇するネコや鳥たちなど、さりげない日常の風景に絵心を刺激されます。そんな瞬間を期待しながら、旅立つ前の情報収集と自分の勘(笑)を頼りにプランを立てています。
そして、初めて訪れる場所、特に海外に行くときなどは、現地ガイドのツアーに参加する日を数日設けるようにしています。個人で手配する旅の場合、荷物を抱えた公共機関での移動、券売機でのチケット購入、レストランやカフェでの注文、ちょっとした買い物ですら、常に緊張感満載。そんなドキドキも旅の忘れられない思い出となるのですが、さすがに何日も続くと疲れてしまいます。そうなると、もう気持ちは絵を描くどころではありません。
描き旅も、まず自分自身が元気であることが基本! 旅そのものが修行のようになってはいけません。慣れない土地で安心して過ごせるようガイドさんをお願いしたり、胃腸にやさしい食事ができるようキッチン付きの宿を予約したり、自分の心に余裕をもたせるためのプラニングも必須です。
さて、スケジュールが決まったら、次は具体的な荷物の準備です。描き旅ですから、スケッチブックや紙類、絵具や筆などの画材をどのように持って行くかを考えます。旅先ではたくさん歩くので、スケッチ道具は重さが負担にならぬようコンパクトにまとめます。私の場合、22cm×15cmのポーチにすべてが入るくらい。その中に携帯用絵具セット、ピグマペン(0.1mm)、水筆、ティッシュ、敷物など、必要なものがすべてそろっていています。スケッチブックもポーチと同じくらいの大きさで、ハガキサイズの水彩紙を数枚ポーチに入れておき、それに描いたものを後からスケッチブックに貼ることもあります。折りたたみの椅子も持って行かず、散策中に描きたいものを見つけると、腰が掛けられそうな場所に小さな敷物(ビニールコーティングされた布をカットしたもの)を敷いて座っています。旅先で持ち歩くバッグの中で、スケッチ道具が占める割合は少ないほうだと思います。
ここで少し、“水筆”というものについてふれておきますね。一般の筆との違いは、軸の中に水を入れておけるところ。軸を握ると、水が穂先に落ちてくる仕組みになっているため、この筆があれば筆を湿らせて絵具を溶くことができますし、筆に着いた絵具を流し落とすこともできます。水場が近くにない旅先では、とても重宝するアイテムです。ただ、難を言えば、軸をついつい強く握ってしまい思わぬところで水が垂れて色が薄まってしまったり、穂先の素材そのものが自分の描き具合に合わなかったりして、使いづらいところもあります。
そんなわけで、私は別バージョンの道具として、普段から使い慣れた筆や絵具を入れた状態のパレットをスーツケースのほうに入れて持参。宿泊している部屋の中で、途中で止めたままのスケッチを仕上げるときや、現地で食べたものを撮った画像を見ながら描くときに使っています。やはり手になじんだ筆と色の配置が分かっているパレットはストレスなく描けるので、旅先でもホッとします。
最後に、描き旅での服装です。私はいつも動きやすいパンツスタイルが多く、どこでも気にせず座ってしまうこともあって(笑)、汚れが目立たない色のものを選んでいます。とはいえ、カジュアルな格好ばかりでは飽きてしまうし、ときには旅先でお洒落もしたいので、ワンピースやブラウス、巻くだけで着回しに変化が出せるストールなども数枚、持ち物に加えます。あと、日除けの帽子も。
あまり数を増やさぬよう、そしてワードローブの組み合わせも楽しめるよう一生懸命考えて選んだ服たちは、次の旅の参考として簡単にスケッチして残しておくようにしています。さらに余力があるなら、日程順に落書き程度のコーディネートも描いておくと、旅先でその日の服装に悩みません。コーディネートだけでなく荷造りしたものを出発前にスケッチしておけば、よいウオーミングアップになりますし、描き旅のモチベーションも上がるのでおすすめです。(つづく)
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