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美しいくらし
忘れられないイタリアの美しい村 トスカーナ自由自在
中山久美子
第14回 南チロルの文化が息づく国境近くの村へ【ヴィピテーノ】


 イタリアは1861年の統一までは別々の小国家だったため、州や地域によってさまざまな違いがあります。その最たる州の1つが北東部のトレンティーノ・アルト・アディジェ州。シチリア州などの4州とともに、立法や財政で大きな地方自治権を持つ特別自治州に指定されています。かつてオーストリア領だったこの地方をイタリア領とする条約が締結されたのは1919年。そのため当時の影響が今も色濃く残っていて、北部のボルツァーノ自治県ではイタリア語だけでなくドイツ語も公用語にしているほか、住人もイタリア人というよりドイツ語系の南チロル人であることを自負しているとよく聞きます。実際に行ってみると、耳に入ってくるのは本当にドイツ語ばかり!

通りには美しい看板も

 そのボルツァーノ自治県の中でも北に位置するヴィピテーノは、オーストリア国境まで20キロメートル未満、オーストリア・チロル州都のインスブルックまで車で約1時間の距離にあります。幹線道路沿いにある駅から北西へ住宅街を歩くこと10分、旧市街を縦断するメーンストリートの南側に到着します。そこからの眺めは、通りの両脇にパステルカラーで彩られた建物がぎっしりと並び、幾重にも連なる出窓や、アイアンの曲線が金に輝く看板が美しく、まるで童話の世界! 私が今まで訪れたイタリアの村とは違う国に来たような町並みに、思わず感嘆の声が漏れてしまいました。
 このメーンストリートの南端からいちばん奥にある市民の塔までが「新しい地区」。一般的に、イタリアの町は歴史ある旧市街とその周辺に近年建てられた新市街の2つが存在しますが、ヴィピテーノの旧市街はさらに「古い地区」と「新しい地区」に分かれているのです。

 村の起源は古代ローマ時代。イタリア最北端にあるブレンネロ峠を越えてドイツのアウグスブルグまで通じる街道に設けられた駐屯地でした。軍事や商業、宗教などあらゆる目的で人が絶えず往来し、1496年に通行料を徴収する権利を得て栄えます。さらに近郊で発見された銀や鉛のおかげで大きく発展。ドイツの富豪フッガー家などの実業家たちがこの地にやってきました。1280年に建設された「新しい地区」は1443年の火事で一度は焼失したものの、邸宅やホテル、市役所などは彼らの豊かな財力によって再建されました。現存する建物は、玄関の扉や出窓の基礎部分を白く縁取った造りや、フレスコ画が描かれた壁の装飾など、細部にまで手が込んでいてとても個性的。1548年の記録ではこの小さな村にホテルや飲食店が26軒もあったというのですから、その繁栄ぶりが想像できます。
 ちなみに間口の狭い建物が多いのは、建物の幅を基に税金額が決められていたから。そのため奥に長い形状になってしまうのですが、出窓を多用したり中庭をつくったりして窓から光を最大限に取り入れる工夫をしていました。その結果、奥行きが50メートルにも及ぶ建物もあるそうです。

燻製ハムの「スペック」

個性的な建物の市役所

 「新しい地区」「古い地区」の境に立つ市民の塔は、ヴィピテーノのシンボル的な存在です。高さ46メートルを誇るこの塔は監視目的で15世紀後半に建てられ、当時は看守の住居や牢屋も併設されていました。昼の12時に鐘の音を鳴らして住民に時を知らせたことから「12時の塔」とも呼ばれています。
 市民の塔の門をくぐると1180年に建設された「古い地区」となり、村の中心である市民広場の北側には観光案内所、そしてその左には15世紀のフレスコ画が残るサント・スピリト教会が立っています。「新しい地区」と比べると素朴な町並みですが、この地方の名産品を一堂に集めたお店や、特産の燻製ハム「スペック」をはじめとした豚加工製品の直売店もあり、買い物が楽しいエリアです。

 さて、村の発展に大きく寄与した鉱業ですが、なんと16世紀末にすべての銀や鉛を採掘し尽してしまったため、村はだんだんと衰退に向かいます。ところが19世紀後半にオーストリア南部鉄道のブレンネロ線が開通してからは、観光業が新しい経済の中心となりました。中でも、市役所はヴィピテーノ一の観光名所。冠をかぶったような多角形の出窓が2フロアにまたがる、白と茶のシックな外観で、かつてはチロル地方の評議会場でもあった歴史的建造物です。もう1つの名所は、村の外から南に徒歩10分のサンタ・マリア・デッラ・パルーデ教会。15世紀前半から16世紀にかけて建設されたチロル地方最大級の教会で、当時ドイツで名声を得た彫刻家ハンス・ムルチャーによる祭壇はドイツ後期ゴシック様式の傑作ともいわれています。

ラッテリア・ヴィピテーノ社のアンテナショップ

 村観光だけではなく、チロル地方の郷土料理も忘れてはいけません。燻製ハムの独特の香りを持つスペック、古いパンを再利用して団子にしたカネーデルリ、スパイスを効かせた牛肉の煮込みグーッラシュ、リンゴパイのストゥルーデルなど、どれもこの地方に来ないと食べられないものばかりです。 
 そして私がヴィピテーノの名前を知ったのは、お気に入りのヨーグルトがきっかけ。村の近郊に本社を置く老舗乳製品メーカー、ラッテリア・ヴィピテーノ社の社名に「ヴィピテーノ」が付いていたからなのです。「新しい地区」には商品のフルラインナップをそろえたアンテナショップもあり、本社では工場見学も受け入れているので、ヨーグルト好きの方にはぜひおすすめします。

 またボルツァーノ自治県では、イタリア最大を誇る伝統的クリスマスマーケットが、ヴィピテーノなど5つの村や町で12月から1月前半にかけて開催されます。数年前の冬に家族で訪れたときは、プレゼントを探したりホットワインで暖をとったりと思い思いのクリスマスシーンを楽しんだのですが、イルミネーションで照らされた村を歩くだけでもうっとり夢見心地に浸ることができました。そのほかに、村から北へ徒歩10分のところにゴンドラリフトのあるカヴァッロ山ではスキーやトレッキングといったアウトドア、周辺では城巡りも。数泊しても楽しみは尽きることはなさそうで……次は夏に来るか、はたまた冬に来るか? なんとも悩ましい問題です。(つづく)

★ヴィピテーノへのアクセス
フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅から電車に乗り、ボルツァーノ駅で乗り換えてヴィピテーノ・ヴァル・ヴィッツェ駅まで約4時間30分~5時間15分。


【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/
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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。ありのままの日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村などイタリア各地の魅力を発信している。
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