「この世で一番怖いものは?」と聞かれたら、何の迷いもなく「蜂」と答えていた私。そんな私が今では蜂を可愛いと思うまでになったのですから、人生は本当に面白いですね。
いつから蜂に興味を持ったのかと思い返してみると、「世界的に蜜蜂が減少している」というニュースを見かけることが多くなったからでしょうか。自然の中で暮らしている私に少しでもできることはないかと考え、養蜂を始めることにしたのです。
最初に手がけたのが、「蜜源植物(蜜蜂が蜂蜜を作るために花から蜜を集める植物)」を育てること。もともと我が家の畑には、ニセアカシアや栗、桜、桃など、さまざまな木が植わっていたのですが、マスタードを一面に咲かせ、ラベンダーをせっせと増やし、少しずつ少しずつ蜂の住みやすい環境を整えていきました。
蜂の減少に心を痛めていたのはどうやら夫も同じだったようで、近くに住む養蜂家ジャン=ピエールの元へ足しげく通うようになりました。ジャン=ピエールは御年84歳。誰が見ても60歳くらいにしか見えず、年齢不詳の心優しいおじさんです。おまけにハチミツのおかげなのか、とにかく肌もつやつやでうらやましい限り。
実は昨今のオーヴェルニュの養蜂事情は深刻で、2021年の春は80パーセント近くの蜂が死んでしまった所もあると教えてもらいました。理由は寒さ。5月になっても花がなかなか咲かず、花が咲いても花粉がほとんどなかったからです。

写真右がジャン=ピエール

家族での採蜜風景
そんな環境の厳しさを乗り越え、初めて家族みんなで採蜜したときの感動は、今でも忘れられません。巣箱から巣枠を取り出し、蜜蓋をナイフで外したら、その巣枠を遠心分離器にかけます。最初はゆっくりと、徐々に回転を速くしていくと、蜂蜜が次第に落下していきます。巣枠を表裏2回ずつ、分離機に計4回かけ、すべての巣枠が終わると、やっと蛇口をひねります。
すると黄金色に輝く蜂蜜が! 思わず歓喜の声が上がります。
今年の春に採れた蜂蜜は「Miel Mille Fleurs(千の花の蜜)」。日本では百花蜜と呼ばれる、さまざまな花の蜜を集めた蜂蜜です。ティヨール(菩提樹)、ニセアカシア、栗など、たくさん種類の花の香りが鼻の中に広がり、味も華やかかつ濃厚です。
1匹の蜂が一生に集められる蜂蜜は、わずかティースプーン1杯。最後に巣枠に残った蜂蜜は、もう一度蜂たちの元へ返してあげます。
「ありがとう」と感謝の気持ちを込めて……。(つづく)
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