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美しいくらし
忘れられないイタリアの美しい村 トスカーナ自由自在
中山久美子
第6回 3つの丘とロバ通り【ブリジゲッラ】


 北部のエミリア・ロマーニャ州にあるアドリア海沿岸の町・チェルビアは、ローマ時代より有名な塩の産地。この塩を運ぶために建設されたのが、今も残るファエンティーナ街道です。中部のトスカーナ州とエミリア・ロマーニャ州をまたぐアペニン山脈を通り、フィレンツェとファエンツァそしてチェルビア至近の町・ラヴェンナをつないでいます。この街道沿いにあるのがブリジゲッラ村。トスカーナ州からは車でくねくねした深い山道を車で走り、ロマーニャ州に入って20分ほどで到着します。前々から行ってみたかった場所ですが、この村出身のご主人がいる友人を訪ねてやっと実現しました。

時計の塔から見た要塞

散策道から見た時計の塔

 ブリジゲッラは「3つの丘の村」とも呼ばれており、それぞれの丘の上には教会、要塞、時計の塔が建っています。どの丘へ行くにも上り下りするのは大変だろうな、と思っていたのですが、友人のご主人が案内してくれるおかげでアップダウンの少ない裏道を歩いていくことになりました。
 まず向かったのが要塞です。1310年にマンフレーディ家によってこの地に建設された後、1500年に「ルネサンス期の伝説の英雄」チェーザレ・ボルジアの手に渡りますが、1503年からここを支配していたヴェネツィア共和国により巨大な塔と2辺の壁が建設されました。凛とそびえたつ姿は近年の修復とメンテナンスによる賜物。中を見学することも可能です。

 次は時計の塔を目指しました。要塞から続く散策路を歩けば約10分。糸杉が並んだ一本道なので迷うこともありません。1290年に建設された時計の塔は、1500年までは要塞と同じく村を防衛する要として機能してきましたが、その後は崩壊と再建設を繰り返します。現在の姿は1850年に再建されたもので中に入ることはできませんが、間近で見るとその迫力に圧倒されます。しかも塔の近くは絶景ポイントになっていて、先ほど訪れた要塞と赤レンガ造りの町並みが織りなす広大な景色を一枚の写真に収めることができます。
 時間の関係で残念ながら教会の丘を省くことにしましたが、こうして2つの丘では息をのむようなパノラマを堪能することができました。

西側の入口に建物の図解パネルがあり、昔の様子を知ることができる

 さてブリジゲッラの見どころは実はこれだけではありません。要塞好きの私がそれ以上に興味を持った場所は旧市街にある「ロバ通り」です。「通り」と名前についているから地上にあって当たり前と思いきや、それは長屋風に連続した建物の2階にありました。通りの出入り口は屋外の道とつながっており、誰でもここを歩いて通ることができます。
 ロバ通りの建設は14世紀。当時屋根はなく、防衛のために見晴らしのよいこの通路を巡回していました。その後、通路を覆うように住居を増築。この地の資源である石灰石を運ぶ荷馬車商人が多く住み、荷馬車を引くためのロバも飼われるようになりました。建物は現在も住居として利用され、ロバ通りはアパートの通り道になっています。

 ここを東に抜けて地上へ下りると、村のメーンストリートに出ます。ロバ通りのある建物はカラフルに塗られ、荷車置き場だった地上階にはレストランやお店が並んでいます。おしゃれな店構えを横目に見ながら歩いていると、ロバのイラストが入ったかわいいロゴが目に飛び込んできました。「BOTTEGA DEGLI ASINI(=ロバ商店)」という店のショーウィンドーには温かみのある布製品や陶器がディスプレーされています。それらに引き寄せられるように入店すると、奥に長い店内は大小さまざまな雑貨たちで埋め尽くされていました。

建物(写真右)の2階がロバ通り

地元の工芸品や雑貨が並ぶ


 後で調べたところ、この店はロマーニャ地方の職人やアーティストが作る雑貨を中心に販売しているらしく、絵画や家具のクリエイターとして活躍するオーナーのアンナ・ピアさんがブリジゲッラの美しさに魅了され、2017年7月にオープンしたそうです。
 このエリアの布製品は、手彫りの木版を布1枚ずつに手押ししたプリントやフリーハンドで描かれた手作りの優しい風合いが特徴。こっくりした色のブドウやカルドン(地中海地方に自生するキク科の花)など伝統柄や現代的な図柄までバリエーションが楽しめます。そのほかに、日々の食卓を彩ってくれそうな皿やボトル、人形などの陶器も並び、商品を見るだけでも飽きません。
 

 偶然立ち寄ったのも何かの縁。お土産を買って帰ろうと、キッチンで使う布製品が大好きな私はベルトッツィ社のふきんを手に取ってレジに向かいました。すると、先に並んでいた人が持っていたあるものを見てハッとしたのです。それは「夢を運ぶロバ」という名前が付けられた小さな置物。造形作家アンナ・タッツァリさんの作品で店のオリジナル商品らしいのですが、とにかくその謙虚で愛らしい姿に一目ぼれ。こちらも購入することにしました。

 17世紀、重い石灰石を積んだ荷車をひき、たくさんの恵みをもたらしてくれたロバ。もしかしたら偶然出合ったグリーンのロバさんが私の夢も叶えてくれるかもしれません……。旅先で見つけた特別な一品は、その土地の歴史や情景を思い出とともに感じさせてくれるもの。皆さんもブリジゲッラを訪れたときはこのロバを自分のお土産に持ち帰り、夢を託してみてはいかがでしょうか?


★ブリジゲッラへのアクセス
フィレンツェより直通または1回乗り換えで約1時間40分、ボローニャからはファエンツァ乗り換えで約1時間。

【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/
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【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。ありのままの日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村などイタリア各地の魅力を発信している。
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