× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
美しいくらし
忘れられないイタリアの美しい村 トスカーナ自由自在
中山久美子
第5回 剛健な城壁に守られた迷宮の村【ジリオ・カステッロ】


 皆さんがイタリア中部のトスカーナ州に抱く印象は、フィレンツェやシエナのような芸術都市、あるいは、なだらかな丘や糸杉といった田園風景ではないでしょうか? 州の西側は海岸線が続いているのに海をイメージする人は少なく、国立公園になっているトスカーナ群島の存在もあまり知られてはいません。しかしティレニア海に浮かぶそれらの島々は、他のリゾート地に勝るとも劣らない美しい海と豊かな自然の宝庫。本土から日帰りでも行けるおすすめスポットなのです。

 とはいえ、かくいう私もイタリアに暮らしはじめた最初の数年間は、トスカーナ群島の主要な7つの島のうち最も大きなエルバ島しか訪れたことがありませんでした。2番目に大きいジリオ島を知ったのはトスカーナ州に移住してしばらく経ってからの話。
 本土から船で約1時間とアクセスが簡単で、島内の主な見どころには路線バスが通っているので車なしでも観光が楽しめること。そしてカラフルで可愛らしい港町にも心ひかれ、フェリーが発着する町近くにバカンスで来ていた2016年にジリオ島ワンディトリップを企画したのでした。

 島を走る路線バスは、観光客がにぎわう港町・ポルトとメインビーチのあるカンぺーゼを片道30分でつないでいます。その道中にあり、島のほぼ中央の標高405mに位置するのがカステッロの村。今も昔も島の中心的な存在で、最高地パガーナの丘からはエメラルドグリーンに光る海を見渡すことができます。

 さて、村があるジリオ島は約500万年前に誕生し、石器時代から人が住んでいたといいます。紀元前の都市国家エトルリアの時代から軍事の前哨地とされ、島のいちばん高台に要塞が建設されるのは当然の流れでした。12世紀には南トスカーナで権力を握っていたアルドブランデスキ家がジリオ島を統治し、強固な要塞に整備。1264年からのピサ共和国の統治下で城壁が建設されて現在のカステッロの姿が出来上がりました。ちなみに、カステッロはイタリア語で「城」の意味ですが、この村のように城壁に囲まれた村そのものをカステッロと呼ぶことも多々あります。
 その後トスカーナ公国によって城壁の拡張や修復が行われますが、当時のまま残る巨大な石の塊は、何世紀もの時を経て軍事的な役割を終えた今も、強烈なインパクトとなんともいえない威圧感を放っています。

 しかし、無骨な門からひとたび村の中に入ると、その重厚な外観とは裏腹にほのぼのとした住民の日常世界が広がっていました。商店やレストランも少なく、一般家屋がほとんど。玄関やテラスは花で彩られていたり、家族分の水着やビーチタオルが干されていたり、素朴なイラストが描かれた表札のようなものがあったり。家が立ち並ぶあちこちに島の穏やかな暮らしぶりを垣間見ることができます。

 そうして気ままに村歩きを楽しんでいると、ある特徴を発見しました。それは階上へのアプローチ階段。面白いことにどの家の側面にも階段が付いているのです。
 バルツォーロと呼ばれるこの階段は、調べても辞書にその言葉自体がなく、インターネットで検索してもカステッロを紹介したサイトでしか出てこないことから、この村独特の呼び方と推測されます。村の奥に行けば行くほど道幅はますます小さくなり、視界に入ってくるバルツォーロの数も多くなって幾重にも重なり……。どこを通っていいのか、どこに抜けていくのかわからなくなる錯覚に陥ってしまいます。

 そんな迷宮のような路地をさまよいながら村の高みへ歩いていくと、少しずつ視界が広がり、アルドブランデスキの要塞がある「11月18日広場」にたどり着きます。残念ながら修復中で要塞内部の見学は不可能でしたが、その脇にある城壁沿いの道からは、木々の緑と海、そして透き通るような空の青の絶景を堪能することができました。これぞやはり島の醍醐味、見渡す限りの大自然です。

領土の90%が未開拓地で、700種類もの植物が生息しているといわれるジリオ島


 晴れた日は風も穏やかで最高の眺めだけれど、海から吹き荒れる冬の雨風はどれだけ厳しいことだろう。この強靭な城壁は敵からの防御だけでなく、自然からも住民の営みを守っていたのではないか? そんなことを思いながらまた路地を戻り、カステッロを後にしたのでした。

カラフルな街並みのポルト

 バスに乗って活気のある港町のポルトに移動すると、パステルカラーの建物が多く現実に引き戻された感覚に。さっきまでのグレーの石の世界がまるで夢の中の出来事のようです。海に囲まれ独特の歴史を持つジリオ島から再びフェリーで本土に戻ると、同じトスカーナ州にいるのに外国から帰って来たような不思議な気分になりました。これだけ近くにありながら異国情緒が味わえるのも、島を訪ねる1つの理由なのかもしれませんね。(つづく)


★ジリオ・カステッロへのアクセス
ジリオ島の対岸にある本土のポルト・サント・ステーファノからフェリーで約1時間でジリオ島の町ポルトに到着します。ポルトからカステッロは直通バスで15分。ポルト・サント・ステーファノまでのバスが発着するオルベテッロ・モンテアルジェンタリオ駅は、ローマから直通電車で約2時間です。


【トスカーナ自由自在】https://toscanajiyujizai.com/
ページの先頭へもどる
【なかやま・くみこ】
兵庫県出身。28歳でフィレンツェ留学、のち現地で結婚。現在はフィレンツェ北部の田舎で、夫・息子2人の4人暮らし。さまざまな分野の取材・視察・ビジネスのコーディネイトと通訳を一貫して行う。趣味の個人旅行とトスカーナ愛が高じて、ウェブサイト「トスカーナ自由自在」を2015年に開設。ありのままの日常生活を紹介するとともに、郷土料理や祭り、生産者、小さな村などイタリア各地の魅力を発信している。
新刊案内