第11回 知恵と工夫で作られるソテツの島の味噌(粟国村ソテツ味噌生産組合・沖縄県)
残念ながら今はなかなか行くことができない状況ですが、リゾート旅行といえば人気上位に上がってくる沖縄。そんな沖縄の料理には、味噌を使ったものが多くあります。アンダンスー(油味噌)、ナーベランブシー(ヘチマの味噌煮炒め)、いなむどぅち(沖縄風豚汁)などが代表的です。冷蔵庫がない時代から、暑さを乗り切るために沖縄の地では味噌が広く利用されてきました。
私が沖縄に行ったのは実は一度だけ。「ソテツ味噌」と呼ばれる一風変わった味噌があると聞き、沖縄本島からフェリーで2時間の粟国島(あぐにじま)へ迷わず向かうことに。リゾート旅行ではなく、やっぱり味噌蔵めぐりです(笑)。
島の至る所に自生しているソテツ
別名「ソテツの島」ともいわれる粟国島は、かつて粟(あわ)の栽培が盛んに行われていたことが名前の由来になっていて、島の至る所にソテツという植物が自生しています。低い朱色の屋根、石垣が住居を囲う昔のままの琉球建築の物件が多数残っていて、島の特産品としては粟国の塩や黒糖が有名。全体が1つの村になっていて、島の周囲は12キロメートルという、自転車があれば1日で1周できてしまうほどの小さな島です。
ソテツ味噌を仕込む時期に合わせて、島を訪問したのは旧正月を過ぎた2月。東京はコートを着て過ごす時期でしたが、粟国島に到着すると気温はなんと25度。熱風が吹いていて、思わず「暑ッ!」と声が漏れました。
伝統を今に伝える味噌づくり
このとき訪ねたのは、私の初めての著書『みその教科書』の制作でもお世話になった粟国村観光局とソテツ味噌の生産加工施設。出版後になってしまったけれど、直接お礼が伝えたかったのも訪問の理由でした。
生産加工施設では、ソテツ味噌普及に中心となって尽力している与那則子さん、地域おこし協力隊の金村千沙さん、そして長年ソテツ味噌を作られている安谷屋英子さんたちが待っていてくれました。80歳の安谷屋さんは幼いころからソテツ味噌を食べてきたそうで「粟国島のソテツ味噌の歴史は100年以上になるのではないかな? でも、詳しいことはわからないよ」と話されていました。
ソテツの実を割って乾燥させる
米麹にソテツの粉末を混ぜて麹をつくる
ソテツにはサイカシンというしびれを感じる毒素があるそうで、使う前に実を割って天日で乾燥させ、水に漬けてあくを抜いたらまた天日で乾燥させを繰り返し、それから粉末にします。今では沖縄でも米の栽培が行われていますが、昔は米が希少だったことから、島に自生するソテツの実のデンプンを利用して麹にし、味噌づくりを行ってきたそうです。
過去にはソテツの実100パーセントで麹をつくっていたこともあったようですが、現在は米麹の中に1割程度のソテツの粉末を混ぜています。危険と隣り合わせの栄養補給、毒素を含んでいてもそれを使えるように工夫する知恵が本当にすごいなぁと感服しきりでした。
よくよく話を聞くと、安谷屋さんがソテツ味噌づくりを始めたのは、家でミカンを食べた後の皮をそのまま置いておいたらそこに菌が付き、これで麹がつくれそうだと菌を集めたのが始まり、というからビックリ! 種になる麹菌が手に入らない環境だったことから、一度つくった麹を種麹として次に仕込む麹に混ぜ込むという工夫もしていて、これもソテツ味噌の特徴だなと思いました。
お守りを載せて仕込む
「麹が上手にできますように」という願いを込めて“サン”という草を結ったお守りを仕込み中の麹の上に載せるのも粟国島の風習なのだそうで、それがとても印象的でした。
麹が出来上がった後は一般的な味噌づくり同様、加熱して潰した大豆に塩とソテツ入りの米麹を混ぜ、約1年発酵熟成させてソテツ味噌が完成します。
貴重なソテツ味噌の話、麹づくりの様子をうかがった後に“タンナージューシー”(タンナー=ソテツの粉末、ジューシー=雑炊)という、ソテツ味噌の味噌汁に、ソテツの粉末をたっぷり加えてとろみをつけた雑炊をふるまってもらいました。具材には島に自生する長命草がたっぷり入っていました。
タンナージューシー
ソテツを砂鉄と勘違いしていた私は、初めてソテツ味噌を口にするまでは「食べられるのかな? 苦いのかな?」とドキドキでしたが、ソテツ味噌の味は、想像以上に普通に味噌の味でした。ソテツの実のクセなどはないし、配合を見るととても辛口なのですが、それがとてもすっきりしていてキレが良いという表現がピッタリくる味わいです。沖縄の暑さを乗り切るために、塩分補給として味噌は大事な食材なんだなと強く感じました。
帰りのフェリー、声が届かない距離になっても、ずっとずっと手を振り続けてくれた皆さん。2回目の沖縄訪問の際にも粟国島へ行きたいなぁと思っています。(つづく)
◆岩木さんセレクトのイチオシ味噌◆
ソテツ実そ
【種類】米味噌
【配合】麹歩合3割、食塩相当量13g
【色】赤色(熟成期間1年)
粟国島の特産品として1人でも多くの方に知ってもらえたらと、販売サイトをリニューアルし、情報発信に取り組んでいます。南国ならではの配合で、辛口すっきりした味わい。みそ汁以外のみそ料理にも挑戦したくなります。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp