イタリアをはじめとするヨーロッパの町の特徴の1つに広場が挙げられます。いにしえより町の中心であり、かつての統治者の館や現在の市役所、主要な教会などは、広場の中に建っていることがほとんど。そのような重要モニュメントがなかったとしても、憩いの場所であり、メルカート(市)が立つ場所であり、待ち合わせの場所であり、立ち話をする場所でもあり……。広場はその地域に住む人たちにとって欠かせない存在です。そのため小さな村を訪れたときにすてきな広場を見つけると、ついついその村自体が大好きになってしまうことも多々あります。そんな村の1つがカパルビオ。トスカーナ州の最南端の村で首都ローマのあるラツィオ州に隣接しています。

カパルビオのマジェンタ広場
カパルビオに初めて行ったのは2003年。私の結婚式のために初めてイタリアに来る両親を迎えにローマに前泊したとき、ローマやカパルビオ近郊に住む友人たちが「面白い村があるから寄ってみようか」と連れて行ってくれたのです。しかし、両親とのイタリア旅行や結婚式で頭がいっぱいだったからか、しばらくは村の名前がどうしても思い出せませんでした。脳裏に焼き付いていたのは、一角が城壁につながったかわいい小さな広場だけ。「あのときに一緒に行った村はカパルビオだよ」と、友人に教えてもらってからは、いつかまた訪れることをずっと楽しみにしていたのです。
そんな初めての出合いから13年後の2016年の夏、トスカーナ南部の海水浴場に家族4人で1週間滞在することになり、その願いがついに叶うときがきました。物欲よりも旅欲の私が誕生日にリクエストしたのは、「誕生日1日、家族で私の行きたい所に行く」。行先はもちろんカパルビオ! 車で向かう最中も、初恋の人に再会するかのようにドキドキと鼓動が高鳴ります。城壁すぐ外の駐車場に車を止め、城壁の門を抜けて足早に道なりに進むと、ぱっと開けた空間が。そこへ入った瞬間、ここがあの広場だとすぐにわかりました。
階段のアプローチがある石造りの家、広場を彩る花、屋根の向こうに見える塔……。私の勝手な妄想ですが、このマジェンタ広場も変わらずに私をずっと待っていてくれたような、そんな感覚に襲われたのです。と同時にイタリアの地で結婚・出産し、慣れない子育てに奮闘してきた13年間の出来事がフラッシュバック。結婚前に偶然立ち寄った村にこうして家族4人で帰ってきた喜びびとなんとも言えない感慨に浸りつつ、家族で、私と2人の息子で、そして夫と2人で、「え~まだ?」とあきれられながらも撮った写真は今も大切な宝物です。
マジェンタ広場ばかりに気を取られていましたが、2度目の訪問では広場以外のすてきなところもたくさん見つけました。かつて友人たちと変なポーズで写真を撮ったのは、なんと城壁の上の歩道。遠くに目をやると、10キロメートルほど離れた海がキラキラと輝いて見えます。カパルビオは昔から領地争いの場であり、幾度となく統治者が変わります。13世紀はアルドブランデスキ家、のちにオルシーニ家が領主となりますが、15世紀にはシエナ共和国、16世紀にはトスカーナ公国へ。このような歴史の中で、防御のための堅牢な城壁や塔を建てる必要があったのですね。
中でも鳥肌が立つほど衝撃を受けたのは、時計のあるシエナ門の扉。1416年にシエナ共和国の手に渡った後、城壁が再建された当時のまま残っています。敵の襲来時、何度も閉じられたであろう木製扉は今もそのまま。現在は閉じられることはありませんが、600年以上のときを経て消耗した姿は歴史の重みをしっかり感じさせてくれます。
こうした歴史的モニュメントを見学するだけでなく、ぶらりと散策も楽しめるのがカパルビオ。絵が描かれた木製の鎧戸で作ったベンチがあったり、わがもの顔で歩く猫に出合ったり、いくつにも分かれるアーチに迷ってみたり。いろんな路地をあてもなく歩けば、お気に入りの一角がたくさん見つけられます。
カパルビオ郊外にはもう1つ世界的に有名なものがあります。バルセロナのグエル公園を模して、フランス系アメリカ人アーチスト、ニキ・ド・サンフェルが造ったタロットガーデンです。色とりどりのアート作品が並ぶ造形公園はその名のとおり、タロットカードからイスピレーションを受けたものだそう。

そしてカパルビオ西側の海はトスカーナでも屈指のリゾート地。カパルビオがある南トスカーナのマレンマ地方はまだ日本の方にはなじみが薄いですが、魅力的な村や自然にあふれる穴場ともいえるでしょう。訪れる際はぜひこのエリア全体を満喫してくださいね。
★カパルビオへのアクセスピサ中央駅から直通電車で2時間20分、ローマ・テルミニ駅から1時間40分、カパルビオ駅下車。旧市街へはカパルビオ駅からバスで15分。
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